23話 腹心デグルト
「……申し訳ありません、半径百メートル以内では有力な情報は得られませんでした……」
「……そうか……」
サーフィアがジークスに報告する。
二人とも、特にサーフィアは悔しそうな表情をしている。
「……仕方がない、これ以上近づくのは危険過ぎる。撤退するぞ」
ジークスがそう言って撤退しようとすると、
「待って下さい」
と言って、サーフィアが引き止めた。
「どうした?」
「もう少しだけ付き合って下さい」
サーフィアが強い決意の眼差しをジークスに向ける。
「正直、風の精霊を使えば、俺はいつでも生きて帰ることが出来る。だが、サーフィアとウルクには危険が伴うがいいのか?」
「……ウルク……」
サーフィアが僕の名前を呟いた。
自分だけの問題ではないということに気がついたようだ。
「僕は気にしなくていいよ。サーフィアがしたいようにすればいい」
「……ありがとうございます……」
申し訳なさそうにサーフィアが僕に一礼した。
「なら決まりだな。もう少し潜り込むぞ」
「了解」
「了解です」
更に五十メートルほど本陣の中心部に近づき、サーフィアがネニスを送り出した。
テント裏に隠れているが、魔人達が目視できる距離だ。
より広範囲から情報を得られるが、格段に危険は高まっている。
さっき以上の緊張感が場を覆う。
ネニスを送り出してから、十分が過ぎた。
「得られました」
サーフィアが目を開きそう言った。
「敵の狙いが分かったのか?」
「はい」
ジークスの問いにサーフィアが答える。
「なら、共有は後でする。すぐにでもこの場を離れるぞ」
「させないよ」
ゾクっ!
ジークスが撤退を決断した瞬間、魔人の声がその場に響き渡った。
刹那、事前に警戒していたジークスと僕は精霊を呼び出した。
物凄い悪寒。
この魔人が只者ではないことは間違いない……
「魔石弾!」
魔人がそう叫ぶと、持っていた魔石が爆発し、小さくなった無数の魔石がこちらへと飛んで来た。
「精霊魔法ミューリアス!」
僕がそう叫ぶと、ミューリの体が膨張し氷の塊となって魔人との間に氷壁を作り出した。
が。
「痛っ!」
とっさのことで飛んで来た魔石を全て防ぐことは出来なかった。
サーフィアの左腕から血が流れる。
「サーフィア!」
「大丈夫。かすり傷です」
切り傷を右手で押さえているが、深い傷ではなさそうだ。
「ウルク達は逃げろ。こいつはただの魔人じゃない」
「……でも……」
ジークスのことを気にして躊躇していると、
「行け!」
そう叫んだジークスの声に押し出されて迷いを振り切る。
「行こう、サーフィア!」
「あっ……」
サーフィアの手を掴んで走り出す。
「ほう、自らが犠牲となって逃がしたか」
魔人が不敵な笑みを浮かべる。
「そう思うのか?」
ジークスの精霊が大人の姿へと変化する。
同時に膨大な神力がジークスを覆った。
「……なるほど、上位の精霊使いか……。面白い。我が名は魔王十二将の一人ヴァグリア様の腹心デグルト。相手にとって不足はない」
◇ ◇ ◇ ◇
「……あの……そろそろ手を……」
「あっ、ごめん、咄嗟に……」
サーフィアが恥ずかしそうにそう言うと、僕は掴んでいた手を離した。
「もうすぐ合流地点だね」
「はい」
さすがシムナ聖騎士団長の娘。
ここまで全力で走って来たが、疲れている様子はなかった。
「「ウルク!」」
合流地点に辿り着くと、ラミーニアとエミーが僕の名前を呼んだ。
「無事で良かったです」
ラミーニアが胸をほっと撫で下ろしている。
「……ジークス様は……」
エミーがジークスがいないことに気がつく。
「ここにはいないけど、無事だ。それよりも、魔人に見つかったので、急いでこの場を離れないと行けない」
相手の魔人が強敵なのは間違いないが、ジークスの神力も桁違いだった。
風の精霊魔法の特性を考えると、頃合いを見て撤退するのは難しくないだろう。
「この中だとエミーの体力が一番ないと思うから、ラミーニア、担いでもらえる?」
「はい!」
「え? ちょっと、ラミーニャちゃん? きゃ!」
ラミーニアがエミーを軽く担いだ。
「よし、急いで撤退しよう」
アリーセスに最短ルートを確認しながら進めば、来た時よりも短い時間で城塞まで戻れるはず。
もう精霊を隠す必要はないので、そのコース上に阻む魔獣がいたら倒すだけ。
……現状を考えると、自分が先頭に立った方がいいんだろうけど……
「今はジークスがいないので、一時的に僕が皆を先導するけどいいかな?」
「「「はい!」」」
何故か三人とも迷いなく答えてくれた。
「……せっかく、情報が得られたのに、敵に見つかってしまいましたね……。しかも、ヴァグリアの腹心デグルト……。ウルク、いつの間にか、みんなの信頼を得ちゃってますね」
次回、「罠」
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