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22話 潜入

「……明日出発するが、本当によかったのか?」


「ジークス、会議の場でいいと言っただろう」


 会議を終え、今はシムナ団長と二人で話をしている。


「だけど、一人娘なんだろう?」


「はぁ、あの子は私に似て頑固だからな……、一度決めたことは滅多なことではくつがえさん」


 そう言って、シムナ団長が溜息をついた。


 やはり、シムナ団長も反対はしたのだろう。

 しかし、聖騎士団長からの圧をけて、自ら苦難の道を選択するとはなかなかしんの強い娘だ。


「闇の精霊使いのさだめを知っているだろう?」


「ああ」


 闇精霊は精霊の中で唯一、魔族との繋がりを持つことが出来る精霊。

 魔王軍の貴重な情報を得ることが出来るという半面、過去には魔王軍に取り込まれてしまった闇の精霊使いも存在する。


 そのため、闇の精霊使いは、人々から疑いの目を向けられやすいさだめを背負っていた。


「元々言葉数が少ない子なのだが、言い訳をしない性格もあってか、闇の精霊使いということが分かると、去って行った友人も少なくない……」


「それは想像にかたくないな」


「正直、今回の娘の活躍で、人々からの疑いの目が少なくなればとの思いもあるのだが……。やはり、親としては心配でな。そこでジークス、お主を頼った次第しだいだ」


「事情は分かりました」


 実際にサーフィアがそのことをどれくらい気にしているのかは分からないが、親として何とかしてあげたい気持ちは分からないでもない。

 

 ……個人的には機会があれば、ヴァグリアへの復讐ふくしゅうを果たしたいという思いもあったんだがな……


 幸か不幸か、任務にてっする理由が出来てしまったようだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ミューリ、あそこにいる魔獣を静かに倒せるか?」


「分かりました。ウルク様」


 ミューリがとがった氷を数本放ち、魔獣をつらぬいて倒した。

 倒した魔獣はアリーセスの力で浄化じょうかする。


 僕達は魔王軍の本陣へと向かって、森の中をひそかに歩み進めていた。


 重大な作戦があると仮定して、末端まったんの魔族がそのことを把握はあくしているとは考えにくい。

 そうなると、戦略的に優位に立つためには魔王軍の中枢ちゅうすうまで行って情報を収集する必要がある。


「ウルクは光の精霊を使っているわけではないんですよね?」


 エミーが質問してきた。


「そうだね、僕が授かった精霊は火の精霊と水の精霊の二人だけなので」


「精霊を二人も授かっていることにも驚きですが、光の精霊を授かっている私以上の浄化じょうかスピードには特に驚かされました……」

 

 あまりアリーセスの力をおおやけにはしたくないのだが、短時間で果たさなければならない任務のため、浄化スピードは出来るだけ早い方がいい。


 自警団の任務の時は、こっそり浄化していたところをジークスに見られてしまい、自警団内限定で浄化作業をする羽目はめになっていたが……


「徐々に魔獣の数が増えてきたな」


「ということは、本陣までもう少しということですか?」


「ああ」


 ジークスと対話する。


「ここら辺で一度、本陣に着いた後の作戦を確認しておこうか」


 作戦内容は単純で、「本陣に近づいたらサーフィアが闇の精霊を使って魔人から情報を得る」というただそれだけ。

 ただし、闇の精霊が魔人と接触できる範囲はサーフィアがいる場所から約百メートル。


 更に魔人と接触している間は、サーフィアは魔法に集中しないといけないので完全に無防備むぼうび状態となる。

 要は本陣近くまで忍び込みことが必要であり、そこで無防備なサーフィアを魔族からまもらないといけない。


「私とラミーニャちゃんは誘導のため、小火ぼやを起こしたらいいんですよね」


 エミーがラミーニアの両肩に手を乗せながら言った。

 小火の方に意識を向けさせて、魔族達が浮足立うきあしだっている間に本陣に潜入せんにゅうする。


 ちなみに、宿泊所しょくはくじょで同部屋になった時に仲良くなったらしく、猫耳獣人族のラミーニアをこっちの方が可愛いからとラミーニャと呼んでいるらしい。


「予定通りであれば、その作戦でいく」


「了解しました」


 作戦行動に入って三日目、さすがにエミーもジークスとの対話に慣れてきていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「あれが本陣か」


 魔王軍の本陣が見える位置まで移動するとジークスが言った。

 野営中のようで膨大ぼうだいな数のたいまつが灯されている。


「エミーラとラミーニアは、小火を起こしたらここに戻って待機していてくれ。もし魔人に見つかった場合、躊躇ちゅうちょなく逃げて欲しい」


「「了解です」」


 具体的な数は分からないが、魔王軍の戦力は初めて出会った魔獣五万体分。

 少数の魔獣であれば倒してしのげるかもしれないが、魔人に見つかって本陣に報告でもされたら逃げる以外の選択肢はない。

 

「ウルク、サーフィア、二人が小火を起こしたら、直ぐに行動に移す準備をしておいてくれ」


「了解」

「了解です」



「ネニス、出て来て」


「はい」


 サーフィアがそう言うと、闇精霊ネニスが姿を現した。

 城塞じょうさいにいる時にも一度見たが、性別は女性のようだ。


 そろそろエミーとラミーニアが小火を起こす時間のため、出てきたもらった。


 闇の精霊は魔人達に気づかれにくいが、他の精霊達は魔人に感づかれやすいため、控えてもらっている。

 

「小火を起こしたな」


 僕達がいる反対側の森の中に火がついたのを見て、ジークスが呟いた。

 徐々に火が燃え広がっていくにつれて、魔王軍の魔人達がざわめき始める。


「そろそろだな、行くぞ」


「「はい」」



 ガサガサ!


 茂みの中を進むとどうしても茂みをかき分ける音がしてしまうが、魔人達がざわついているため、目立つことなく本陣まで近づくことが出来た。


「ネニス、お願い」


「では、行ってきます」 


 そう言うとネニスがふらっと本陣の中へ飛んで行った。

 サーフィアが精霊魔法に集中する。


「じゃあ、俺達はサーフィアを全力で護るぞ。いつでも精霊を呼び出せる準備をしておいてくれ」


「了解」


 近づいてくる魔族がいないか、ジークスと一緒に周囲に気を張り巡らした。

 

 いざとなったら、ジークスがいるとはいえ、ここは敵の本陣。

 すぐそばには大勢の魔族達がいる。

 

 僕の中の緊張感が極度きょくどに高まっていた。

「シムナ聖騎士団長の親心はきっとサーフィアにも届いていますよ……。それにしても、闇の霧の中に入ってしまうと、私が出来ることって本当に何もないですね……。……聞こえないとは思いますが、密かにみんなを応援しています……」


次回、「腹心デグルト」


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