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21話 エミーラの事情

『あの二人は親子です』


『やっぱりそうなんだ』


 食事話の合間にアリーセスに確認する。

  

 ……ジークスはあの二人が親子だってことを知ってるんだろうな……

 二人のえんは深そうだった。


「シムナ聖騎士団長が精霊使いを集めたと言っていたので、エミーラも精霊使いなのかな?」


「は、はい!」


 一通り自己紹介を終えた後、急にジークスが話しかけたのでエミーラがどぎまぎしている。


「……私の精霊は光の精霊です……」


 エミーラが緊張している。


「光の精霊使いか、珍しいな」


 エミーラの精霊は、サーフィアとは対称的に光の精霊らしい。

 ジークスの口ぶりからすると、希少きしょうな精霊のようだ。


「回復魔法も使えますので、怪我をした時には言っていただければと思います」


「それはありがたいな」


 ジークスにそう言われて、エミーラが嬉しそうにしている。

 

 ……よっぽど好きなんだな……


 ここまで一途な姿を見ると、微笑ほほえましく思えてくる。


「そろそろ食べ終えたかな。では、一旦解散して、一時間の休憩後に会議室に戻って来てくれ」


「「「了解しました」」」


 シムナ団長に対してみんなで返事をした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「いよいよ、明日から潜入任務だな」


「はい」


 黄昏たそがれの中、城塞広場のベンチに座ってラミーニアと話をしている。

 お互いの能力を会議の後に簡単に確認し合い、明日に備えて早めの解散となった。


 本来はパーティーメンバー間の連携も含めて、二日くらいは時間を取ってから任務に当たるのだが、魔王軍が進軍の準備を始めたとの報告が入ったため、急遽きゅうきょ、明日出発することとなった。

 

「明日からの任務、本当はラミーニアにはこの城塞に残っていてもら……」


 最後まで言い切る前に、ラミーニアが右手で僕の口を押さえた。


「それ以上は言わせませんよ」


「ラミーニア?」


「私を大切に思ってくれていることは正直に嬉しいです。でも、私は守られたいんじゃなくて、ウルクの力になりたいんです。ウルクの言うことには何でも従いたいと思っていますが、これだけはゆずれません」  


「……そうか……」


 ……記憶もない状態で生きることに必死だった半年間だったけど、いつの間にか僕のことをこんなに想ってくれる子がこんなそばにいたんだな……

 

 ラミーニアの頭を撫でながら微笑びしょうする。

 しばらく、撫でているとラミーニアは恥ずかしそうにスクっと立ち上がって、宿泊テントの方へと歩き出した。


 そのまま行ってしまうのかなぁと思ったが、ラミーニアはクルっとこちらに振り返って、

「今回の任務無事に終えたら、街でデートして下さいね」

 と笑顔で言った。


「ああ、無事に任務を終えたらデートしよう」


「はい!」


 ラミーニアはそう返事をすると嬉しそうに駆け出して行った。



「こんな所でたたずんで、どうしたんですか?」


 ラミーニアと別れた後も、僕はしばらくベンチで考え事をしていると、エミーラが僕の顔をのぞき込むように声を掛けてきた。


「あ、エミーラ。実は、明日からの任務のことを考えていたんだ……」


「……何か気になることでもあるんですか?」


 エミーラが隣に座る。


「いや、どちらかというと、任務の内容というよりは僕自身の問題かな。自警団で仕事はしてたけど、戦争は初めての体験だから、緊張してるのかもしれない……」


 今回の戦いで、今まで避けてきていたこの世界の現実を目の当たりにすることになるだろう。


 アリーセスから期待されている勇者としての使命。

 もしかすると、それを決断する戦いになるのかもしれない。 

 

「それは私も同じです。私も戦場とは無縁むえんの生活をしていました……」


「……そういえば、エミーラはどうして今回の招集しょうしゅうおうじたの? ジークスが好きなのは見てて分かるけど」


「え、え、え、私がジークス様を、す、好き!?」


 ……え?

 自覚してなかったの? 

 あからさまだったけど……


 見た目は美人系で冷静そうな雰囲気をかもし出しているのに、ジークスのことになると急に冷静さを失う姿に、思わずクスっと笑ってしまった。


「てっきりジークスの追っかけで、ここまで来たと思ってたんだけど、違うの?」


 エミーラが上を向いて、深呼吸をしている。


「それは半分正解ですね」


 呼吸を落ち着かせて、エミーラが答えた。


「実は、私には婚約者がいるんです」


「婚約者?」


 傭兵にしては品があると思っていたが、どこかの令嬢れいじょうなのか?

 確か光の精霊使いは、貴族や教会のシスターに多いと聞いたことがあるが。


「はい、一ヶ月後には結婚することが決まっています」


「結婚!?」


 まだ若そうだが……

 それとも、リゼラミアではこれくらいの年齢で結婚するのが普通なのか?

  

「……政略結婚なんです……婚約者とは数回しか会っていません……。ジークス様には昔個人的に助けてもらったことがあって、あこがれの人というか……。でも、もしかしたら、好きな気持ちもあったのかもしれませんね」


 悲しそうな表情をしている。

 おそらく、結婚したいと思える相手ではないのだろう。


「結婚前にジークス様に会ったら、何かが変わるんじゃないかって、そう思って今回の招集に応じました」


 ただの追っかけでこんな所まで来るのか?

 と思ってたけど、そういう事情があったんだな……


 目的は違うけど、まだ見えていない何かをつかみたい。

 そこは、僕と一緒なのかもしれない。 


「それなら、僕も応援しますよ。エミーラが何かを変えられるように」


 そう言って、手を差し出すと、

「ありがとう」

 と言って握手を返してくれた。


「それと、エミーラと呼んでって話だったけど、親しい人にはエミーって呼んでもらってるから、そうしてもらえる?」


 エミーラが後ろに手を組みながら提案する。


「了解。じゃあ、これからもよろしく、エミー」


「うん、よろしくね、ウルク」


 エミーが笑顔でそう答えた。

「ラミーニアちゃん、大胆ですねw 慌てふためくエミーラも可愛いですw ……事情があることは分かっていますが……、出来れば本当に結婚したい人と結婚させてあげたい……」


次回、「潜入」


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