18話 第七聖騎士団の傭兵
「半年間、よく訓練を頑張ったな。正直、俺の訓練にここまでついてこられるとは思っていなかったよ」
自警団で訓練をするようになって半年。
ジークスのスパルタ訓練により徐々に剣技が身につき、自警団の仕事にも加わるようになったことで実践力も備わってきていた。
「ありがとうございます」
……まあ、本当はラミーニアのお陰なんだけど……
最初は逃げ出したい気持ちが強かったのだが、ラミーニアが想像以上に前向きに訓練を頑張っていたので、自分だけ逃げ出す訳にはいかなかった。
ラミーニアが今まで受けてきた仕打ちを考えれば、おそらくジークスのスパルタ訓練も大したことではなかったのだろう。
ただ、徐々に実力が身についてくるのを実感してからは、自分もだいぶ前向きに訓練を受けられるようにはなっていた。
「そこで……、しばらく俺からの訓練は中止にしたいと思っているんだ……」
「え、そうなんですか?」
「明日から第七聖騎士団の傭兵として魔王軍との対戦地に赴く予定なんだ。だから、帰って来るまでは自主訓練しててもらおうと思っている」
「聖騎士団に戻るんですか?」
「まあ、一時的だけどな。近々、大規模な魔王軍との戦闘が予測されるので、援軍に来て欲しいと今の聖騎士団長から誘われたんだ。それに……」
「それに?」
「あ、いや、何でもない。個人的なことなんでな」
ジークスが言葉を濁す。
『ウルク』
突然、アリーセスに呼ばれた。
『ん、アリーセス、どうした』
『ウルクもジークスについて行って下さい』
『え、急過ぎない? 何か理由でもあるの?』
いつものことではあるが。
『このままだと、おそらくジークスは殺されます』
『は? ジークスが殺される!?』
アリーセスが言っていることがにわかには信じられなかった。
……あれだけの実力があるのに殺されるって……
『魔王軍はそんなに強いのか?』
『もちろん強いですが、聖騎士団長をしていたジークスほどではありません』
『なら、大丈夫なんじゃ……』
『……ただ聖騎士団に参加するだけであれば大丈夫なのですが、ジークスが今回聖騎士団に傭兵として加わる目的は、魔王十二将の一人ヴァグリアを倒すためでして……』
……魔王十二将、森の中にいた時に聞いた呼称だが、名前からして強そうなイメージだな……
『イメージだけではありません。実際に今のジークスよりも強い力を持っています』
『……ジークスよりもって、そんなに強いのか……。……ん、今のってどういうこと?』
『聖騎士団長になると上位精霊の更に上の精霊である神位精霊へと精霊が昇位するのですが、聖騎士団長を降りたジークスの風精霊は現在上位精霊です。上位精霊では魔王軍十二将に勝つことは出来ません』
上位精霊の更に上の位があるとか、初めて聞いたんだが……
まあ、それはそれとして。
『ジークスが戦って勝てない相手の所に、僕が行っても何の役にも立たないと思うんだけど……』
『もちろん、今のウルクが直接戦って勝てる相手ではありません。ですが、私がいることで全体の戦況を今より有利にすることは可能です』
『……なるほど……』
「どうした? 何か考え事か?」
アリーセスと問答をしていたため、ジークスからは不自然に見えたようだ。
「ジークス、その傭兵としての依頼、僕も加わっていいですか?」
「本気で言っているのか? 確かに半年前に比べると格段に強くはなっているが、相手は魔王軍だぞ。今までの自警団への依頼とはレベルが違う。当然、死ぬことだってある」
確かに戦争なんて体験したことがない自分からすると魔王軍との戦いなんて恐ろしくて仕方がない。
正直、行きたくはない。
……でも、ジークスが殺される可能性が高いと分かっているのに行かなくていいのか?
ジークスは今死ぬべき人ではない。
半年間接してきて、それだけは分かる。
「……分かっています。ですが、行かないと後悔する。そんな気がするんです……」
それにアリーセスの願いである勇者として生きるかどうかということも保留にしたままである。
その判断をするためにも、魔王軍との境界線で何が起こっているか。
直に知る必要がある。
「……そうか、なら、これ以上は何も言わない……。明日出発になるがいいか?」
「分かりました」
『因みに第七聖騎士団と対峙している魔王軍の規模って数値化できる?』
念のため、アリーセスに確認してみる。
『約五万です』
『五万!?』
……さっきした決意が揺らぎそうになる数値だな……
『因みに魔王十二将は魔力をコントロールできますので、最低五万とイメージしてもらえればと思います』
……更に、追い打ちをかけないでくれ……
ますます、行きたくなくなる……
『……すみません……』
僕の心の叫びにアリーセスは謝った。
◇ ◇ ◇ ◇
「ということで、明日からしばらくこの街から離れることになりました」
宿の女将さんに第七聖騎士団に傭兵として合流することになったことを告げた。
「そうか、寂しくなるね」
「ラミーニアはどうするんだい?」
「ラミーニアはここにいてもらうつもりです。危険な仕事になりそうなので……」
バン!
急にドアが勢いよく開いて、ラミーニアが部屋に入って来た。
様子から伺うに、ドアの向こうで聞き耳を立てていたようだ。
「ウルクの嘘つき!」
「え?」
「ウルク、世界を一緒に冒険するって言った!」
ラミーニアは明らかに怒っていた。
「あ、今回は冒険じゃなくて、傭兵として行くんだ。また、帰って来たら一緒に冒険に行くからさ」
ラミーニアが首を横に振る。
「いや、危険な仕事なんだ。ラミーニアは連れて行けないよ」
「私、ウルクよりも強い!」
「ま、まあ、そうなんだけどさ」
僕も強くなった自負はあるが、獣人族のラミーニアは想像を遥かに超えて強くなっていた。
もちろん訓練のお陰もあるが、精神を支配されていたことで身体能力も抑制されていたようだ。
「ウルクが危険になったら、私が護る」
あれ、いつの間にかそういう力関係になってる?
半年前と立場が逆転してしまっているような……
「これは言っても聞かなそうだね」
「ははは」
女将さんの一言に思わず苦笑する。
「分かったよ。ただ、これだけは守って欲しい。自分の身を第一に考えること。たとえ僕が危ないと思っても敵わない相手に出会ったら逃げること。約束できる?」
ラミーニアが何度も頷いている。
……これは、たぶん約束破るな……
一緒に行けると分かって、嬉々(きき)としているラミーニアを見ながら胸中で呟いた。
でも、そこまで想ってくれているのは正直嬉しい気持ちもある。
……もし、ラミーニアが危険な目にあったら、何がなんでも護り抜くよ……
僕は心の中でそう誓った。
「半年間の訓練お疲れ様、ウルク。本当に成長しましたね。……聖騎士団の戦いに加わるということは、とても危険なことですが……、……どうかジークスを助けて欲しい……。ウルク、ラミーニアちゃんには弱いですねw」
次回、「エミーラとサーフィア」
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