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17話 ラミーニアの勇気

「ウルクさんと訓練♪ ウルクさんと訓練♪」


 私は思わず鼻歌を歌いながら自警団の訓練場へと向かっていた。


 訓練を始めて三ヶ月。

 訓練は大変だけど、大好きな人と一緒だとあまり苦労には感じなかった。


「今日もウルクさんといっぱい一緒にいられて嬉しいなぁ」


 朝はウルクさんと一緒に食事。

 その後はジークスさんのところでウルクさんと一緒に訓練。


 お昼はウルクさんと一緒に食事。

 その後はまたウルクさんと一緒に訓練。


 夜もウルクさんと一緒に食事をして、ウルクさんの布団に潜り込む。


 ……でも、こんな気持ちになれるなんて、以前の自分からは想像もつかなかったなぁ…… 

 

 初めてウルクさんと出逢った時のことを思い出す。

 獣人族であることを気にする様子もなく、こんな私と一緒に冒険に行こうとまで言ってくれた。


 訓練を一生懸命受けている本当の理由は、ウルクさんが冒険に旅立つ時に一緒に行きたいから……


 食事と寝床を与えてくれた。

 服もたくさん与えてくれた。


 ウルクさんは、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう?


 ……家族でもないのに……


 家族を失った私にとっては、今一番大切な人。

 あの時のような絶望は、もう二度と味わいたくない。



 自警団に着くと、今日の訓練は中止と言われた。

 ウルクさんが自警団の任務に同行することになったようだ。

 

「ラミーニアはどうする?」


「私も行きます」


 半月ほど前に初めて自警団の任務に携わってから、私達は頻繁に自警団の任務を手伝うようになっていた。


 元々人手不足ということもあるが、ジークスさんが訓練に熱心になっていたため、自警団全体の任務が消化しきれなくなってきていたのである。


 そこで私達の実践経験も兼ねて自警団の任務に加わるようになっていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 魔獣を目撃した報告があったラムラグの森の端へと辿たどり着いた。


「そろそろ魔獣が出る場所だから、ラミーニアも戦闘準備をしておいた方がいいかも」


「分かりました」


 私は既にグローブを装備しているので、戦闘に向けて心の準備をする。


 ウルクさんも戦闘に備えて、火の精霊ファライアを呼び出している。

 三ヶ月かけて、ウルクさんの精霊は下位精霊から中位精霊まで成長していた。


 精霊は精霊使いなど、本来は特定の人にしか見えないらしい。

 ただ、中位精霊になると敢えて見えるようにも出来ると、以前ジークスさんがウルクさんに説明をしていた。


「さっそく、出てきたみたいだ」


 ウルクさんの目線の先には、犬によく似た魔獣達が十体ほど群れを成している。

 その内の五体がこちらの存在に気がつくと一直線に向かって来た。


「精霊魔法ファライア!」


 ウルクさんがそう叫ぶと、ファライアの姿が炎となり、ウルクさんを包み込む。

 刹那。 


 ザッ!


 ウルクさんの刀剣を中心に大きな炎の刃となって、魔獣達の間を突き抜けた。

 魔獣達が炎に焼かれて倒れていく。


 戦闘不能にはなっているが、死んだわけではなさそうだ。


「……ウルクさん……かっこいい……」


 ……はっ! いけない集中集中……

 一瞬戦闘中ということを忘れて、ぽーと見惚みとれてしまっていた。

 

 グルルルル!


 残りの五体の内二体が、うなり声を上げて私の方へと向かって来た。

 

「……遅い……」


 本来は早いスピードで向かって来ていると感じるはずなのだが……

 訓練でジークスさんの瞬足しゅんそくを体験しているからか、非常に遅く感じる。


 魔獣が私に噛みつこうとするが、ひらりと交わして一匹には腹部に拳を一撃。

 そのままの勢いで、もう一匹には左側部に回し蹴りを入れた。

 二匹とも痛みで動けなくなる。


「残りは?」


 残りの三匹を見ると、他の自警団の人達が囲い込んで追い詰めていた。


「あっちは任せておけばいいかな」


「怪我はなかった?」


 ウルクさんが様子を見に来てくれた。


「はい、大丈夫です」


「それならよかった」

 

 そう言ってウルクさんがホッとしている。

 そのまま、自分が倒した魔獣は後回しにして、私が倒した魔獣を浄化し始めた。

 

 ……そういうところです、ウルクさん……


 正直、怪我を負うような相手ではないけど、気にかけてくれていることが嬉しかった。


「いつ見ても、ウルクさんのその能力は凄いですね」


 本来、魔族の浄化には教会の信徒達による多くの祈りの力が必要なはず。

 ところが、ウルクさんは一人で、しかも短時間で浄化してしまう。


 それに加えて、魔族を見つけるのが異常に早いということもあり、ウルクさんが任務に加わると効率的に仕事を終えられるようになっていた。


 当初はジークスさんが現場に行く回数が減ったため、私達は組織のお荷物のようにも見られていたが、今はウルクさんへの協力要請が殺到している状態である。


「……本当、都合がいい……」


 自警団の仕事をするよりも、訓練の方がウルクさんの近くにいられるので、個人的には少し複雑な気持ちである。 


 それと、ジークスさんは獣人族に火を、これ偏見なく接してくれているが、自警団の中には獣人族に対して当たりが強い人もいるので、単純に街を守ってくれているから感謝していますとは思えなかった。

 

 当たりが強い人に何か言われた時は、ウルクさんがさり気なく庇ってくれるので、それはそれで嬉しかったりもするんだけど……


「魔獣の浄化は終えたみたいだな」


「はい、浄化し終えました」


 ジークスさんがウルクさんと会話している。

 残りの魔獣の浄化も終えたようだ。


「自警団の仕事は少し手伝ってもらうだけのつもりでいたんだが……、ウルク達がいないと逆に仕事がはかどないようになってしまったな」


 ジークスさんが苦笑する。


「ジークスにはお世話になっているので、これくらいはさせてもらいますよ」


 以前はジークス“さん”と呼んでいたが、実際に自警団の仕事に携わるようになってからは、“さん”は付けなくていいと言われたらしく、今はジークスと呼んでいる。


「……いいなぁ……私もウルクさんを“ウルク”って呼びたいなぁ……」


 もちろん、ウルクさんを尊敬してるし、さん付けが適当なんだと思う。

 でも、それは私が本当に望んでいる距離感ではない……


 もっと、ウルクさんに近づきたい。

 心の距離も縮めたい。

 

 ……だから……


「ウルクさん!」


「ん、どうした? ラミーニア」


「今後はウルクさんのこと、ウルクって呼んでもいいですか?」


 勇気を振り絞って聞いた。


「確かに戦闘中は、とっさに名前を呼ばないといけないこともあるだろうし、さん付けはなくてもいいかもしれないね」


「いいんですか!?」


「うん、いいよ」


「ありがとうございます!」


 やったー!

 私は思わず心の中で叫んだ。


「……一度、呼んでみてもいいですか?」


「改めて言われると何か恥ずかしい気もするけど、一回、練習で言ってみる?」 


「はい、では……」


 ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなるのを感じる。


「ウルク、これからもよろしく……」


 そう言って、恐る恐る右手を前に出すと。


「こちらこそよろしく、ラミーニア」


 ウルクは微笑みながら握手を返してくれた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「フフフ、あと少し、あと少しで、忌々(いまいま)しい第七聖騎士団をほろぼすことが出来る」


 魔王十二将ヴァグリアは、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。


「準備は順調か? デグルトよ」


 ヴァグリアが腹心デグルトに確認する。


「はい、ヴァグリア様、抜かりなく準備を進めております」


 デグルトが、ヴァグリアの前に片膝をつき答えた。


「ハハハ、第七聖騎士団を滅ぼしたあかつきには、ロワイアントナーガ国も我が手中に収めてみせる!」


「まさに、因縁の地ロワイアントナーガ国を手に入れることが出来れば、魔王様もさぞお喜びになることでしょう」


 デグルトが相槌を打つ。


「フ、魔王様に認められれば、私の魔力は更に増大する。そうなれば、他の十二将の連中にも目に物を見せることが出来る」


「その通りでございます。このデグルド、どこまでもヴァグリア様についてまいります」


「今から楽しみで仕方がないな。フハハハハハハ!」


 そう言って高笑いするヴァグリアの声が、広い魔城全体に響き渡る。

 その笑い声に呼応こおうするかのように、魔城を包んでいた魔の霧は、更に深みを増していた。

「ラミーニアちゃん、ウルクのことが本当に大好きなんだねw ……ウルクを通して、少しでも悲しみから解放されるといいなぁ……。勇気を出してよかったね、ラミーニアちゃん」


次回、「第七聖騎士団の傭兵」


第二章の第七聖騎士団編では、魔王十二将ヴァグリアとの対決が始まります!

成長したウルクがどんな活躍をするのか。

乞うご期待!!


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