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16話 魔王十二将ヴァグリアと元婚約者ミーシャ

「……これが俺の過去の話、罪の話だ。まあ、五年も前の話だけどな……」


「いえ、話し辛いことを聞かせてくれて、ありがとうございます」


 ……でも……

 話を聞いて、違和感を感じたのは僕だけだろうか?


 確かに人々から危害を加えられることは辛いことだが、自警団の団長をしていたような人が、一般の人々から危害を加えられたからといって死を選択するだろうか?

 

『その違和感は間違っていません』


 僕の疑問に対してアリーセスが答えた。


『事実は自殺ではありません』


『……やっぱりそうなのか……』


 おそらく、ジークスも違和感は感じているはず。

 ただ、罪悪感に囚われて、その先を考えることが出来ないのかもしれない……


『ジークスに触れて、真実が伝わりますように、と念じて下さい』


 いつも通りの突然の提案。


『そうするとどうなるの?』


『私が夢の中で真実をお伝えします』


『そんなことが出来るのか……』


 ……出来るのなら、もっと早く教えてあげればいいのに……


『ウルクの助力によって可能になります。ただし、あくまでも夢を介して伝えることになりますので、夢でみた妄想と捉えられる可能性は否定出来ません』


 なるほど、例のルールか。


『そうかもしれないけど、それでも、ジークスの慰めにはなると思う』


『そうですね』


「ジークスさん」


 早速実践してみる。

 僕はジークスさんの両肩に手を置いた。

 

「ん?」


 ……真実が伝わりますように……


 念じた後、

「僕に何か出来ることはありませんか?」

 違和感のないように、ジークスさんに話しかけた。


「来たばかりの新人に頼ることなんてないさ。まあ、ウルクの訓練も兼ねて、俺の体がなまらないようにさせてもらえれば十分だ」


「そうですか、分かりました」


『これでよかったかな?』


『はい、大丈夫です』


 ◇ ◇ ◇ ◇


 どうしてジークスが非難されないといけないの?

 悪いのは魔族たちでしょ。

 あんなに命がけで人々を護っているのに。

 

護ってもらえることが当たり前で、それが出来なかった時には攻撃する。

 実際に魔族が街に攻め入られると分かった時、早い段階で警報は出ていた。

 ただ、単体の魔族が現れた時にも警報は鳴っていたため、逃げなかった人々は、今回も大したことはないだろうと事態を軽く見ていたのだ。

 

ジークスは非難されている今でも最前線で戦っている。

 ……自警団の団長としては、最低な感情かもしれないけど、私はジークスを非難している人々を許すことが出来ない……


「その思い、私が叶えよう」


「誰?!」


「私の名はヴァグリア。罪なる思いを叶える者だ」


「どういうこと?」


「質問するのか? 分かっているだろう? 許すことが出来ない思いがあると」


「……それは……」


 心の中を見透かされた気分。

 そして、ヴァグリアの言葉を聞く度、何故か怒りの感情が増していった。


「では、その思いを誰が解放してくれる? お前の仲間達は、その思いを組んではくれぬだろう」


 ……確かに、自警団で共に活動している仲間は正義感の強いメンバーばかり、私の感情を理解してくれる人はいないかもしれない……


「私なら、お前のその思いを叶えることが出来る。どうだ、悪い話ではないだろう」


 ……いいのかな……この許せない思いに心を委ねても……

 私が行動しないと誰も彼らを裁けない。

 

「心は決まったようだな」


 そう言うと、ヴァグリアはニヤッと嘲た。


「え?」 


 ドクン!


 胸が大きく鼓動し、全身が熱くなる。


「……これって、もしかして……」


 体験はしたことないが、感覚的に理解した。

 自分が魔人化しようとしていることに。

 徐々に身体が肥大していく。


 ……ああ、私も悪に心を染めてしまったのか……それでも私は………


 そう思った瞬間。

 ふと、ジークスの笑顔が思い起こされた。


 刹那、

「ダメ!」

 私は、血が出るほど唇を強く噛み締めた。


「……ほう、ここまできて抗うか……」

 

 ヴァグリアが一瞬驚いた表情をする。


「だが、もう遅い」

 

 ジークスのお陰で我に返ったが魔人化は治まらなかった。

 徐々に心が黒い靄に覆われていく。


「……それなら……」


「?」


 ヴァグリアが怪訝な顔をしている。


 私は決意した。

 ……魔人化することで、ジークスと戦うことになるのなら……

 

 ………私は死を選ぶ………


 意識が朦朧としていく中、腰に装備している短剣に手を伸ばす。


「……間に合って……」


 ……気を抜けば、直ぐにでも心を奪われる……


 ザッ!


 私は躊躇することなく、掴んだ短剣を心臓に突き刺した。


「バカな! その状態でそんなことが出来るはずが……」


 ヴァグリアが驚愕している。


「……あなたの思い通りにはさせないわ……」


 魔人に最後一泡吹かせてやった。

 思わず微笑する。


 ……ごめんね、ジークス……、……そして、今までありがとう………


 薄れゆく意識の中、私は最後に心の中でそう呟いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「はっ!」


 衝撃的な夢を見終えて、眠りから急激に目を覚ました。


「……夢……だったのか? 夢にしてはあまりにもリアルだったが……。……ミーシャ……」


 ミーシャとのたくさんの思い出が脳裏をよぎる。

 もしかすると、ミーシャの死は自殺ではなく自害?

 しかも、当時敵対していた魔王十二将の一人ヴァグリアの仕業だった?


「もしそうだとしたら……」


 心の奥底に言い知れぬ怒りが込み上げていた。

「ウルク、手伝ってくれてありがとう。……ミーシャ……、いつかジークスにその想いが届くといいね……」


次回、「ラミーニアの勇気」


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