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14話 困っている人は助けたい

「そろそろ休もうか」


「はい」


 泊まることになった部屋は広々としていて、ベッド二つに、洗面台、トイレ、簡易のお風呂場があった。

 宿屋には小さめの銭湯もあるようだが、疲れも溜まっていたため、今日は備えつけのお風呂で済ませた。


「ふう」


 布団の中に入り一息つく。

 野宿が続いていたため、ようやく、心身共に落ち着けることが出来た。


『アリーセスのお陰で、無事に森から出られたよ。ありがとう』


『いえ、元を辿れば、私がウルクを森に召喚したので……』


 ……気にしてたんだ……

 思わず微笑する。 


『……それでリゼラミアの勇者として生きるかどうかって話だけど……』


『はい』


『結論から言うと、答えはまだ出せていないんだ。ラミーニアに伝えたみたいに、この世界のことをもっと知ってから、勇者としてこの世界で生きるかどうかを判断したいと思っていて……』


 リゼラミアの現状が、アリーセスの望んでいた世界とは違う世界になってしまっているということは分かった。

 けれども同時に、それだけの理由で決意できるほど、簡単な使命ではないということも感じていた。

 

『分かりました。それでも構いません』


 アリーセスも、そのことは分かっているのだろう。

 答えを保留にしても、それ以上のことは何も言わなかった。


 ゴソッ!


「ん?」


 誰かが布団の中に入って来た。

 とは言っても、対象は一人しかいないが……


「ラミーニア?」


「はい」


 ラミーニアが返事をしながら、ひょこっと布団の中から顔を出した

 さっきまで真剣な話をしていたので顔が強張っていたが、ラミーニアの顔を見て自分の表情がほころぶのが分かった。


「どうしたの?」


「……一緒に寝たくて……」


 ラミーニアは恥ずかしそうに答えた。


 まだ親に甘えたい年頃なのだろう。

 両親に不幸があったのならなおさらだ。


「ラミーニアが一緒に寝たいのなら、僕は構わないよ」


 両親の代わりになれるとは思わないが、それで少しでも気が晴れるのであれば……


「ありがとうございます」


 そう言うと、ラミーニアは嬉しそうな表情を浮かべてひっついてきた。

 ……記憶を失って自分が誰なのかも分からないけど、少しはアリーセスとラミーニアの助けになれているのかな……


 勇者としての使命を受ける覚悟はまだ持てていないが、アリーセスの助力を受けながら、困っている人を出来る限り助けていきたい。

 ラミーニアの頭を撫でながら、ふと、そんな考えが頭をよぎった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ラミーニアが必要な服、買いたいだけ買っていいよ」


「え?」


 ジークスさんが団長をしている自警団に行くのは午後。

 午前中はリゼラミアに来て初めての買い物をしていた。


 時間があればウィンドーショッピングを楽しんでもよかったが、行っておきたいお店がいくつもあったので、アリーセスにお勧めのお店を教えてもらい、ピンポイントでお店を回っている。

 なんせ盗賊団の洞に置いてあった物以外何も持っていないのだ。


「さすがにそれは……」


「それなら一着だけ好きな服を選んでもらって、残りは似合いそうな服を適当に選ばせてもらうよ」


 ラミーニアは冒険者向けの動きやすそうな服を選んでいたので、僕は主観でラミーニアに似合いそうな私服を一週間分購入した。


「こんなに買って申し訳ありません、それと選んでくれてありがとうございます」


 ……自分に服を選ぶセンスがあるとは思えないが、喜んでもらえてるみたいなので、取り敢えずよしとしておこう……


「次は武具で武器と防具を揃えたいな」

 

 お金は沢山あるため、武具屋で一番よい武器と防具を購入した。

 武器は片刃で柄と装飾部位が剣のようになっている少し変わった形の刀剣を購入し、防具はドラゴンの鱗を加工した軽くて強度の高い軽装備の鎧と、耐熱性と防寒に優れたローブを購入した。


『ラミーニアの武具も買っておくとよいかと思います』


『あんな小さな子にも戦ってもらうの?』


『獣人族は人間よりも遥かに高い身体能力を持っています』


『そうなのか』


『はい、今のウルクよりも身体能力は上です。ただ、武器を器用に扱うことは苦手なため、拳や脚を覆う武具がよいかと思います』


『勧めてみるよ』


「いつかラミーニアも戦いに巻き込まれることがあるかもしれないから、念のために武具を揃えておいた方がいいかもね」


「はい、もちろんウルクさんにだけ戦わせるようなことはしません」


 意外に戦う気満々?

 ……いや、僕のためにそう言ってくれているのか……


「ありがとう」


「いえ、私がそうしたいだけですから……」


 ……僕が思っている以上に、ラミーニアは恩を感じてくれているのかもしれないな……


 魔族の魔素を軽減させる効果のあるホーリーグローブと、素材は僕の物と同じで少し可愛く装飾されているローブを購入した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ここが自警団か」


 最低限の買い物と昼食を終えて、自警団本部に辿り着いた。


 コンコン!


 ドアをノックすると、

「どうぞ」

 と中から声が聞こえたため、ドアを開けて中へと入った。


「ウルク様ですね。話は聞いております」


 受付嬢が出迎えてくれた。

 簡単に受付をすます。


「それでは、ジークスのところへ案内させていただきます」


「お、よく来たな」


「はい、よろしくお願いします」


「その子は、昨日いた子だね」


「はい、成り行きで一緒に行動することになりました」


「獣人族の子なら身体能力も高いだろうし、一緒に訓練に加わっても構わないぞ」


 ……ジークスさんは獣人族に偏見は持っていないんだな……


「ラミーニア、一緒に訓練を受けてみる?」


「はい、私も受けたいです」


「ジークスさん、可能ならお願いします」


「分かった」


 僕達は、さっそく訓練場へと向かった。

「……ラミーニアちゃん、やっぱり、まだ親が恋しいよね……、ウルクが親代わりになれるといいね……。ウルクに助けられて、ラミーニアちゃんも嬉しかったと思うよ」


次回、「ジークスの訓練」


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