13話 初めての宿
タッタッタッタッ!
新しい服に着替えたラミーニアが、少し小走り気味にこちらに向かって来た。
「ど……どうですか?」
そう言いながら、ラミーニアは恥ずかしそうに俯いている。
……普通に可愛い……
服装が変わるだけで、こんなに印象が変わるものなのか……
心なしか、表情まで明るくなっているようにも見えた。
「似合っているよ」
「……ありがとうございます……」
ラミーニアが褒められて恥ずかしそうにしている。
両親を失ってからの境遇を考えると、久しぶりに褒められたのだろう。
憲兵団支部に行くまでは時間があったが、お店に寄るお金もまだ持っていなかったので、しばらく街を散策して時間を潰した。
「あ、ウルク様、お戻りになったんですね。お待たせしました。謝礼の準備は出来ております」
憲兵団支部に戻ると、ラムネシアさんが謝礼のお金を準備して待っていてくれた。
その間ラミーニアは職質をされそうだったので、外で待ってもらっている。
「こ、こちらが謝礼金です……」
ドサッ!
ラムネシアさんが、奥の部屋から重そうな袋を持って来た。
中を広げると、大量の金貨が入っている。
『そういえば、リゼラミアの通貨の形態ってどうなっているの?』
『主な通貨の種類は、金貨、銀貨、銅貨です。金貨が一番価値が高く、金貨一枚は、銀貨十枚と交換され、銀貨一枚は、銅貨千枚と交換されています』
『なるほど』
ということは目の前に用意されたのは相当な額になることが分かる。
僕がうなずいているとラムネシアさんが説明してくれた。
「中には金貨が千枚入っております。謝礼金は金貨千枚以上となっておりましたが、即金として準備できましたのが、金貨千枚まででしたので、後日、訪問していただければ、残りの詳細分のお金もお渡しさせていただきます」
そう言いながら、詳細が書かれている用紙も渡してくれた。
「丁寧な対応ありがとうございます。ではまた時間がある時に伺います」
こちらからもお礼をする。
こうして、僕は謝礼金を魔法の袋の中にしまい、憲兵団支部をあとにした。
「……とりあえず、宿を探さないとね」
「もしかして、私も泊めていただけるのですか?」
「もちろん」
「あ、ありがとうございます……!」
ラミーニアが嬉しそうな表情をしている。
……宿に泊まれるだけで感謝されるなんて……
今まで、どういう生活をさせられていたのか……
『宿ですが、ロワイアントナーガには獣人族を泊めてくれない宿が多々あります』
宿街に辿り着くなり、アリーセスが声をかけてきた。
『そうなの?』
宿屋の入り口を見ると、確かに、“獣人族お断り”と書かれた貼り紙が貼ってある。
というか、ほとんどの宿屋の入り口に貼ってある。
……想像以上に獣人族は嫌われているみたいだな……
一瞬、ラミーニアを連れて行くと決めたのは早計だったかも……という考えが頭を過ぎった。
……いやいや、一度、覚悟を決めたことを、こんなに早く覆すとか、人としてどうなの……
ラミーニアをチラッと見ると、嬉しそうな表情でついて来ている。
……まあ、知らない人に嫌われるくらい、別にいっか……
アリーセスが事前に情報を教えてくれたのも、ラミーニアをこれ以上傷つけないたくないと思ったからだろうし……
『はい、その通りです』
アリーセスが返答した。
『因みに、獣人族が泊まれる宿はあるのかな?』
『少ないですが、三つあります』
よかった。
あるだけでも有難い。
『じゃあ、アリーセスのお勧めの宿屋を教えてもらえる?』
『了解です』
アリーセスお勧めの宿屋に着いた。
……規模は大きくなさそうなので、民宿に近い宿屋かな……
「こんばんは、空き部屋はありますか?」
空き部屋があることは知っていたが、一応、形式的に確認する。
「あるよ、獣人族の子も一緒なんだね」
割腹のよい、人の良さそうな女将さんが出迎えてくれた。
「はい、二部屋空いていますか?」
「部屋は別々にするんだね」
女将さんが答えると、僕のすぐ後ろにいたラミーニアが無言で首を横に振った。
「一緒の部屋がいいのかい?」
ラミーニアが首を縦に振る。
「みたいだけど?」
「まあ、ラミーニアがその方がいいと言うのであれば、僕はどちらでも……」
ラミーニアがうんうんと頷いている。
……女の子だし部屋を分けた方がいいと思ったんだけど……、そうでもないみたいだ……
そういえば、ラミーニアって、何歳なんだろう……見た目では、十代前半くらいに見えるが……
「決まったみたいだね」
宿代は一泊銀貨二枚だったが、しばらく、泊めさせて欲しいとお願いをしたところ、食事付きで、一ヶ月金貨五枚で滞在させてもらえることになった。
「……おいしい……」
ラミーニアがクリームスープをすすった後、そう声をもらした。
今は女将さんが出してくれた夕食をラミーニアと一緒に食べている。
主食はご飯でメインのおかずは鶏肉の入ったクリームスープ、それにサラダもついていた。
アウトドアのような食事も美味しかったが、女将さんの手料理に温かみを感じて余計においしく感じた。
今回は知っている料理だったけど、いつかリゼラミア特有の料理も食べてみたいな……
「思わず声をもらすほどおいしいんだね」
「はい、とても……」
味を噛み締めるように食べている。
想像するに碌なものを食べさせてもらえていなかったのだろう。
ラミーニアがおいしそうに食べている様子を見ながら、僕も嬉しい気持ちになった。
よくよく考えると、創造主であるアリーセスと精霊であるファイとミューリを除くと、ラミーニアは初めての仲間である。
……喜びを共感出来る仲間が増えるというのは、いいものだなぁ……
僕は心の中でしみじみとそう呟いた。
「……ラミーニアちゃん、今まで何もしてあげられなくてゴメンね……。その代わり、きっと、ウルクがたくさん優しくしてくれるはず……。久しぶりに美味しい料理を食べられて良かったね、ラミーニアちゃん。今後も大切な仲間が増えていくといいですね、ウルク」
次回、「困っている人は助けたい」
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