11話 ジークス=アルティネラの弟子
「あなたは?」
火の精霊魔法で観衆が路地裏に入れないようにしているので、この場にいるのは男と獣人族の女の子と僕の三人だけ。
女の子は人見知りのようで、俯きながら距離を開けていたため、僕が話しかけた。
「俺か? 俺は、ジークス=アルティネラ。この国で自警団の団長をしている者だ」
……自警団の団長……通りで強いわけだ……
「あ、僕はウルクと言います」
自己紹介をされたので、自己紹介を返した。
「君も精霊使いなんだね」
ジークスさんがファイの方を見ながら言った。
「……一応……、まだまだ見習いですが……」
『ウルク』
アリーセスが話しかけてきた。
『何?』
『この人の弟子になって下さい』
今に始まったことじゃないが、アリーセスは時に唐突なことを迷いなく告げてくる。
『え、どういうこと?』
『本来ならば、明日、自警団を訪ねて、ジークスの弟子になるようにお願いしようと思っていました。……予定より少し早まりましたが……。この際、このままお願いしてみてはどうでしょうか?』
『そうなの?』
いやいや、完全に初耳……
『精霊がいることでウルクの防御力は上がりますが、魔族と戦うことになった時、あまりにも実戦経験が足りません。精霊の神力による防御も限界がありますので、いざという時に戦う力も必要です』
『たしかに……それはそうだけど……』
そもそも勇者として戦うかどうかも、まだ決めていない……
……とはいえ、既に魔獣と魔人の両方に出くわしている。
今後旅を続けていけば間違いなくそういった類と遭遇する可能性は高い。
更にはもっと強い魔族と戦うことも考えられる。
経験値は上げておいた方がよいのかもしれないが……
『ジークスは元は聖騎士団長の一人だったのですが、今は事情があって自警団の団長をしています』
『聖騎士団長って、勇者の意思を継いだっていう聖騎士団の団長だったってこと?』
『はい、それもあって、私と近い価値観を持っている人物でもあります』
……聖騎士団長だったってことは相当の実力者だろうし、ここで出会ったのはチャンスかもしれないな……
それに、あの戦い方は、僕が目指す理想形にも見えたしな……
よし。
「ジークスさん」
「ん?」
「もし、ご迷惑でなければ、僕を弟子にしてもらえませんか?」
「弟子?」
「はい、実は僕、精霊使いになったばかりなんです。実戦経験も乏しく、何かしら訓練が必要だと感じていまして……」
「……精霊使いの見習いか……、基本的に弟子は採らないことにしているんだが……」
……それはそうだ、“元”とはいえ聖騎士団長ともあろう人が、会ったばかりの見ず知らずの人間に突然弟子にして欲しいなんて頼まれて、そう簡単に弟子にするはずが……
「いや、まてよ……、まあ、精霊使いは貴重だしな、いいよ」
「え?」
聞き間違い?
「弟子にしてもらえるんですか?」
「ああ」
まだ信じられない。
簡単に弟子にしてもらてしまった。
「その代わり、自警団の仕事も手伝ってもらうかもしれないけど……いいか?」
そう言いながら、ジークスさんはちらりと僕を見やる。
なるほど、自警団は民間団体だし、人手不足なのかもしれない。
「はい、手伝えることがありましたら」
「よし、じゃあ、利害一致ということで」
ジークスさんがニヤリと笑いながら、握手を交わす。
……何か、いいように使われそうな気がするのは気のせいだろうか……
『よかったですね』
『よかったのかな?』
さっきのジークスさんの不敵な笑いが気になる。
不安は多少残るが、まあ、よしとしよう。
「それじゃあ、詳しい話は明日でいいかな? この後、あの魔人を教会に運ばないといけないんだ」
「はい、構いません」
『……ん? 教会?』
『えーと、リゼラミアには、私を信仰する教会がありまして、弱った魔族達は信徒達の祈りによって時間をかけて浄化されます』
……その信仰されているアリーセスと、直接会話をしているというのは変な感じだな……
信徒達からしたら、アリーセスと直接会話出来るなんて夢のような出来事なのだろうが……
……なんか、申し訳ないな……
残念ながら、僕にはまだその価値が分からない。
『魔獣を動物に戻した時は、すぐに戻ったけど?』
『魔人の方が人間に戻るのに時間がかかります。また、私と対話の出来る勇者の祈りの方が、私の力を多く使うことが出来ます』
『……なるほど……』
……勇者凄いな……
って、まだ勇者ではないけど……
「それで時間なんだが、午前中は野暮用があって忙しいから、午後に自警団本部に来てもらえるかな?」
「分かりました」
「じゃあ、楽しみにしてるよ、ウルク」
そう言い残して、ジークスさんは、魔人を馬車に乗せて、教会へと向かって行った。
「そろそろ、僕もこの場を離れるか」
……ん?……
誰かが、袖を引っ張っている。
……そういえば、ジークスさんの弟子になるという話を進めていたので、獣人族の女の子のことを置き去りにしてしまっていた……
「あ、すみません」
そう言うと、獣人族の女の子は、袖を掴んでいた手を離した。
改めて見ると、身長は百二十センチくらいだろうか。
「こっちこそゴメンね。なんか、無視したみたいになっちゃって……」
「あ、いえ……、一言お礼を言いたかっただけですので……、助けていただき、ありがとうございました」
そう言って、女の子はお辞儀をした。
よく見ると、ボロボロになった薄い布切れのワンピースを着ている。
お辞儀を終えて上げた顔は、虚ろな表情をしていた。
「無事に弟子になれてよかったですね。ジークスの不敵な笑みが気になりますよねw ……本来は全ての人と対話が出来る世界になるはずだったのですが、“悪の種”のせいで世界は一変してしまいました……。さすがウルク、こっそり勇者と認識してもらおうかと思いましたが、バレましたねw ……これは一人目のヒロインの予感……」
次回、「ラミーニア」
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