10話 魔人と大剣使い
「……一時間か……、何して過ごそうかな……」
まだ、一文無しだし……
お店で時間を潰すことも出来ない。
取り敢えず当てもなく街を見て回ろうとした矢先……
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
突然、街道に女の子の叫び声が響き渡った。
ここからそう遠くない所からだ。
タタタッ!
僕は思わず、叫び声がした方向へと駆け出していた。
『魔の霧が現れました。ファライアを呼び出しておいて下さい』
『了解』
魔の霧が現れたということは、人間か獣が魔族に変貌した合図。
獣が魔獣化するには魔人の魔術が必要なので、十中八九魔人と思われる。
魔獣とは以前森で対峙したが、魔人との対面は初めてだ。
身体に緊張が走る。
「ファイ!」
呼びかけるとファイが現れた。
「ウルク殿、戦闘準備は出来ています」
「ありがとう」
『アリーセス、魔の霧の数値は分かる?』
『十です』
昨日、出会った魔獣十体相当か……
ますます緊張が高まる。
叫び声が聞こえたのは、この辺りだろうか。
「人が魔人に!」
路地裏から声が聞こえてきた。
その声がした方へと急ぐ。
「ここか」
路地裏に入ると、人間が肥大化したような異形の姿が目に飛び込んだ。
身長は成人男性の約二倍ほどの高さ、身体から黒い靄がところどころ出ている。
肥大化したためか、上半身の衣類は破れていた。
その服の破れが異形の種が“元人間”だったことを物語っているようだ。
「……これはヤバいな……」
明らかに人ではない異形の姿に足がすくむ。
……精霊の力を使えば何とかなるのか?
今は怖がっている場合ではない、どう戦うのかを考えなければ……
そう自問自答をしていると。
「あなたは?」
突然、背後から小柄な女の子が声をかけてきた。
……魔人のインパクトが強すぎて気がつかなかった……
さっき叫んでいた女の子と思われる。
よく見ると、頭から猫のような耳が生えている。
獣人族の子なのだろう。
「大丈夫? ケガはな……」
ザワザワザワ!
女の子に声をかけ終える前に、叫び声を聞いて魔人が出現したということを知らない人々が集まって来た。
『ウルク、ファイの魔法で路地裏の入り口を塞いで下さい』
『え? ああ……』
獣人族の女の子、集まってくる群衆。
予想外のことが続いて戸惑ってしまった。
「ファイ、路地裏の入り口を火炎魔法で塞げるかな?」
「了解しました。現れよ、火の柱!」
ファイが叫ぶと、火の柱が現れた。
「「「うわ! 何だこれ?!」」」
集まって来た人々が、炎の柱に阻まれる。
……そうか、野次馬に被害を出さないために……
みんなを驚かせて申し訳ないが、致し方ない。
これで魔人の逃げ場はなくなった……
『……って、僕の逃げ場もなくなったんだけど……!?』
『すみません、ですが、勝利すれば問題ありません』
とても倒せる相手には思えないが……
『アリーセスがそう言うなら……勝てるってことだよね……?』
『はい』
アリーセスは迷いなくそう告げた。
……ここは、創造主の言葉を信じるしかないか……
バッ!
そう思っていた矢先、上空から突如、何かがはためく物音がした。
音の方向へ見上げると。
大柄の男が空から降って来た?!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
男は見るからに重そうな大剣を振り上げ、雄叫びをあげながら魔人を真っ二つにするかの如く縦に切り込んだ。
「グウォォォォォォ!」
魔人が男の大剣で切りつけられ、鈍い呻き声をあげる。
しかし、これで倒れる様子はなかった。
少しよろめいたが、すぐに体制を立て直してきた。
「ウォォォォォ!」
魔人が怒ったように、男に殴りかかる。
あの図体に似合わない意外にも素早い動きだった。
ド-ン!
男が身をひらりとかわし、空を切った魔人の拳がそのまま路盤を叩き割った。
かわしたのはいいが、魔人の怒りは余計に増したようで、
「グァァァァ!」
魔人が叫ぶと、黒い炎の矢が数本現れ、男に向かって放たれた。
魔獣のような肉弾戦だけでなく遠距離攻撃もできるのか……
しかし男は、その攻撃など意に介する様子もなかった。
「フ―リス!」
男がそう叫ぶと、傍に風の精霊が現れ、
「風精霊魔法、風壁!」
と、男が魔法を豪快に唱えると、小さなつむじ風が集まり大きな風の壁となって、黒炎の矢をあっという間にかき消した。
「風精霊魔法、竜巻!」
今度は、大きな竜巻が現れ、魔人の動きを拘束した。
魔人はもう動くことができない。
なおも余裕すらを見せる男はとどめとばかりに大剣を振り上げた。
大剣に光が集まる。
「これで、終わりだ」
ザッ!
光の集まった大剣を垂直に振り下ろす。
眩しい光が辺りを包み視界が一瞬にして奪われた。
やがて、光が消え視界が戻った時には、
ドサッ!
と大きな物音がし、切りつけられた魔人が、その場に倒れていた。
「「「おお!」」」
パチパチパチパチ!
固唾を呑んで見ていた観衆達が、歓声を上げ拍手をし始めた。
男の見事な剣技と精霊魔法に感嘆し、僕も一緒になって拍手をする。
……目指すところは、あんな強さなのかな……
剣技が使える精霊使いを初めて見たが、動きに一切の迷いがなく、完成形に近い戦い方に見えた。
僕は男の戦った姿を出来る限り脳裏に焼き付けた。
「……初めて魔人と対面しましたね……。圧倒的な強さで魔人を倒していましたが、ウルクだけでもあの魔人には勝てていましたよ。……実はこの男性、ウルクにとって、とても重要な人物です……」
次回、「ジークス=アルティネラの弟子」
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