小石は回る
「えっ……なんで?」
小石が動く事はなかった。
おかしいな、さっきは成功したのに。
キャスト失敗するとかあるのかな?
もう一回やってみよう。
マナは大丈夫かな…さっきの詠唱の時は虚脱感ハンパ無かったけど、あれを経験していかないとマナが増えていかないって事だもんな。
よし、そろそろ良いだろう。
いってみるか!
「ボルテックス!」
「ぐっ……ヤベ……。」
ちょっと前を向いてられないぐらいの虚脱感だ……!
視界が暗い……!僕は下を向いてしまった。
それでもストーンだけは離さずに握りしめていた。
ストーンは文字を光らせたままキャストの合図を待っていた。
少しずつ視界が戻ってきたのでストーンを見た。
文字はしっかり光っている。いける。
僕はストーンを小石に向けた。
「キャスト!」
「…………。」
「………。」
「……。」
小石は回転しない………。
なんだよ…死ぬ思いで発動してんのに!
このボルテックスのストーン不良品なのか?
くそっくそっ!この不良品!
マナ切れ寸前だと冷静な判断が出来なくなるようだ。
…………
時間経過でマナが回復してきた。
だいぶ気分が戻ってきた。
今の現象を少し考えてみよう。
一回目は上手く発動出来た。
かなり虚脱感に襲われたけど、文字はしっかりと光り、キャストも成功した。
効果もしっかり出て小石は回転した。
机を焦がしたけど。
二回目は?
虚脱感が一回目より強かったけど、文字はしっかり光ってるのを確認した。
しっかり狙いもつけてキャストをした。
でも効果は出なかった…。
三回目はさらに強い虚脱感に襲われて視界が真っ暗になった。でもわずかな時間で視界が戻ってきたので、文字が光っているのを確認してキャストした。
やっぱり効果は出なかった…。
何が違う?
効果が出なかった事と机を焦がした事だ…。
机を焦がして、小石の下に盾を敷いたんだ。
盾……?
もしかして盾が悪さしてる?
絶対防御が働いてるのか?
魔法詠唱が無かった事にされたって事?
これは検証が必要だ。
小石の下から盾を外してもう一回テーブルに小石を置いた。
マナは完全に回復してないと思うが追い込むつもりでやってみよう。
ストーンを構えた。
「ボルテックス!」
「ウグゥ……ぅぅぐぐ…………。」
前が見えない。音も聞こえなくなった……ダメだ、ストーンを握ってるかどうかの感覚もない。
これがマナ切れ……?
僕は机に突っ伏して動けなくなった……。
しばらくして意識が戻り、次第に視界も戻ってきた…。
良かった、ストーンは手の中にある。文字は光っているようだ。
少しずつ動けるようになったので、僕はストーンを小石に向けた。
「キャスト…!」
無事に小石は回転し、今度は消えない焦げが残った……弁償だな………。
その後、マナ切れ寸前まで追い込みながら机を焦がし続けた…一回焦がしたらもう買い取りでしょ。
開き直っちゃった。
ふぅ……これぐらいで勘弁しといてやるか。
机は表面積の半分ぐらい焦げ跡だらけになっていた。
先輩に聞いてみよう。
「先輩、僕の魔力量は?」
小小とでた。
やったね!増えた!
小小の次はきっと中だよね!明日中には中が詠唱出来る様になるかもね!
しかしこれだけ追い込んでも疲れたという感じはない。
神界の服の自動回復がいい仕事し過ぎてるね。
時間も遅いのでもう寝ようと思う。
明日はギルドで身分証を作らないといけないし、無限収納のカモフラージュに普通の鞄や財布が必要だから買い物もしないといけない。
しっかり戸締りをして……素早くシャワーだけ浴びようか。
シャワー浴びるんだから服は脱がないといけないなぁ。
でも不安だなぁ…。
剣だけは持っとこう。
戸締りされてる他人の宿泊してる部屋に押し込んでくる奴がいたら、そいつは明らかに悪人だよね。
そんなの相手なら剣術レベル10で自動戦闘しても良いよね。
僕はそう自分に言い聞かせて裸になってシャワーを浴びた。頭洗う時も体洗う時も片手に剣だけは持ってた。
ビビり過ぎだと思うけど、あの女戦士の件もあって安心出来ない…。
僕は速攻でシャワーを済ませてパパッと体を拭いて服を着てブーツを履いた時に鏡が目に入った。
そうだ、まだ自分の外見を確認してなかった。
なんか怖いけど恐る恐る自分の顔を確認してみた…。
………良いじゃん。普通にカッコいい。
ちょっと童顔だけど良いよ。
茶髪に茶色の目だし。
この世界に合わせた髪色と瞳に調整してくれてるよ。
ちょっと童顔だから子供に見られたんだろう。
日本人は幼く見られると言うしね。
自分の外見に満足してベッドに戻った。
外した手袋も万が一盗まれたら嫌だから付けとこう。
盾は枕の下に敷いた。剣は抱っこしてる。
…………。
怖いから電気はつけたまま寝よう。
「よし、おやすみ……。」
「………。」
「…………。」
「……………。」
「寝れん……。」
でも服は脱ぎたくない。
自動戦闘が無いと不安で寝てられないよね…。
とりあえずブーツ脱げば寝れるかな?
………脱いだブーツも抱っこしとこう……。
「……………。」
ヤバい、ブーツ脱いだらトイレ行きたくなった。
「…………ジャーーーー。」
ベッドに戻って剣とブーツを抱っこした。
「よし、おやすみ……。」
「……………。」
「…………。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
気が付いたら朝になっていた。
ブーツを脱げば眠れるようだ。
でも眠る時はすごい不安になるよ。
装備品が神ってるだけで、中身は普通の地球人だもん。
神界シリーズが盗まれたらと思うとおちおち寝てらんないよ。
何か対策を考えないとね…。
よし、トイレを済ませてブーツも履いて剣も腰に下げた。
盾も背中に回したし準備万端です!
よく考えたらこのスタイル、背中に絶対防御張ってる事になるね。良く考えられてるよ。
戸締りして、階段まで行ってから
「あれ?ちゃんと鍵かけたかな?」
ってなって、もう一回ドアガチャしに行って、大丈夫と分かって初めて安心出来る。
ほんと残念な自分に落ち込みながら受付に声をかけた。
「おはようございます。」
「おはようございます、アレス様。お出かけでしょうか?」
「そうですね、今から出かけるんで鍵を預けたいんですが。」
「かしこまりました。お預かりします。お気をつけて。」
「あっ、すいません。ちょっと言いにくいんですが、昨日少し手作業の練習をしてて、窓際にあるテーブルを焦がしてしまったんです。買い取りさせて貰いたいんですがおいくらでしょうか?」
「手作業の練習ですか……?差し支えなければ作業内容をお聞かせ願えますか?」
そうだよね…そうなるよね…。
危険な事してないか確認しないといけないもんね。
追い出されるかも知れないけど嘘はいけないよね。
正直に言っちゃおう。
「すみません、実は小石をボルテックスで回してたんです。マナ上昇の訓練をしてて………。」
言っちゃった!言っちゃったよ。
変な奴だと思われるだろうな……。
「ふふふ、私も同じ事を子供の頃にやってよく叱られたものです。私は中学生ぐらいでキャプチャに進めましたのですごく懐かしく感じてしまいます。」
やった!怒られなかった!
ってかマナ特訓あるあるだったのか…。
そして次はキャプチャなんだね。
「そうなんですか…僕も早く次に進みたいんですがなかなか…。」
「マナの上昇は個人差がありますからね。焦らずに頑張って下さい。」
「すみません、ありがとうございます。」
「テーブル買い取りの件は30ベルになります。どういたしましょうか?本日中に新しい物を搬入しておきましょうか?」
「いえ、また焦がしちゃうと思うので今のままで大丈夫です。これ、30ベルです。」
「体に負担もかかりますから程々になさって下さいね。30ベル確かに頂戴致しました。こちらは領収書になります。」
「すみません、ありがとうございました。じゃあ行ってきます。」
ふぅ…一仕事終えたわ。
重たい仕事だったから朝イチで片付けられて良かったよ。30ベルは痛いけど仕方ないよね。
さて、次は鞄と財布を買いに行こうか。
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