93話 FDでありそうなイベント、脳内シュミレーション完了
「トット、エステル、おめでとう」
「ありがとう、チアキ」
「知っていたのか」
「つい先日情報を入手しました」
ファンディスクでありそうなイベントをきちんと回収しに来た。
非公式とはいえ、学園内は色めきだっている。主に令嬢たちが。令息たちはそわそわが多めだろうか。見たままバレンタインデーで面白い。
「チアキ、このお菓子は自分で作ったのかしら?」
「うん、オリアーナと一緒に」
「前も自分で料理していたな」
「それが普通の世界だったからね。勿論作ってもらってる人達もいるけど」
折角なので手作りにチャレンジだ。もっとも、料理もお菓子作りも人並みに出来るので問題はない。
料理決行日に使用人がざわついて、料理長がそんなことさせられないと慌てていたのが、唯一大変だったところだろうか。説得に少し時間を要した。
オリアーナは誘えば最初こそ驚いたものの、あっさり一緒にやるって言ったから、イージーゲームだったな。見た目オルネッラのエプロン姿は非常に良かった。そして一生懸命頑張るオリアーナの姿も最高でした。
「オリアーナも初めてなのに上手だったね」
「チアキが教えてくれた御蔭です」
「謙虚!」
オリアーナは兎も角、私は経験者だったものだから、料理長には驚かれたけど、うまいこと言い訳して誤魔化しておいた。学園で家庭科という授業科目があってもいいと思うけど、爵位のある人達は自分で料理するなんて念頭にないんだろうな。
「チアキ」
「やはり来たか」
「チアキ、どうしたの?」
「え?」
「なんだろう……戦いに行くような顔してるけど?」
ディエゴが今日私のとこに来るのは予告済みで決定項だ。
それが予想通りに訪れて身構えた私の顔が、どうやらエドアルドに心配されるレベルだった。
隣のオリアーナはいつものことですとか言ってるけど、そこは無視だ。
私のやる最善は、エステルとトット二人を祝うイベントをクリアすること。イベントのスタートをきったところだから、脳内保管するようなイベントらしいイベントはまだ発生していない。つまり、まだここにいる必要がある。となると、やはり彼を撒かないといけない。
「王太子殿下、グァリジョーネ侯爵令嬢」
非公式とはいえ、二人を祝うイベントなわけだから、ディエゴもきちんと二人に声をかけている。まあ今日の新聞記事も大盛り上がりだったし、この世界の中心はエステルとトットで構成されているので致し方ない。
「チアキを少し借りてもいいだろうか?」
「ええ、構いません」
「オリアーナ?!」
相変わらず返事が早いよ。そしていつも私に確認しないで応えるよね?
なんだろう、ここ最近の様子からデレがすぎるのは分かってるけど、こういうとこで微妙な反抗期きてるのと言わんばかりの首を傾げるような反応をするな。私、そこまでオリアーナにお母さんじみたことしてないから、口うるさーいうざーいみたいなことにはなっていないはずなのに。
「あら。なら私はサルヴァトーレと二人でゆっくりしようかしら」
「そうだな、たまには休息も必要だろう」
「え?!」
それはイベント発生のフラグではないだろうか。二人きりのエステルとトット、しかも休息ときた。日頃、王城で外交だの帝王教育やら王妃教育やらだってまだまだ続いているはずだし、仕事だってこなしていることは容易に考えられる。その忙しい中での二人きりの休息なんて、パワーワードすぎて今年のトレンド狙えるんじゃないの。私の中で今ホットワード&トレンド一位になったよ。
「それは実においしい」
「チアキは相変わらずね」
「面白い事を言ったつもりはないが」
「サルヴァトーレ、恐らく私達が二人でいるだけで、チアキにとってのおいしいなのよ」
「成程」
よく分かってる、エステル。好き。
これならむしろ間近で見てても大丈夫なんじゃないかなとすら思えるから不思議だよ。そもそも私に割と甘いエステルとトットだから、オリアーナ程見られたくない反抗期はなさそうだしな。
そしてそんな中、オリアーナも爆弾を投下してきた。
「チアキ、私はエドアルドと共に失礼します」
「そっちも?!」
「ごめんね、チアキ。僕、オリアーナと一緒にいたくて」
「いいよいいよ、本当可愛いいいよ!」
「思うんだが、君はエドアルドに甘くないか?」
「ハニーフェイスがドツボなだけですな。大丈夫、皆推しだから安心してね!」
ここもイベントがくる。なんてことだ、それぞれ場所は違うだろうから、どっちも見られるようにするには考えないと。
この学園の敷地内は広いには広いけど、あっちに走って次はこっちに走ってにはさすがにならないはずだ。オリアーナとエドアルドはきっと前と同じ場所にいくだろうし、トットとエステルも人目につかないという点を考慮すれば場所も限られる。そういった点から考えられる場所を算出すると、2組の距離はそこまで遠くならない。イエス!
私の脳内マップでは確実にイベントを脳内保管できるプランニングができた。よし。
「おし?」
「皆大好きだよってこと。そして癒しをくれる子たちのこと」
そんな様子を横目に笑うエステル。特段変化のないオリアーナはディエゴに向かい合い一言。
「では、チアキを頼みます」
「ああ」
そうして各々中庭別々の方向へ去っていく、方向からどこへ行くは特定した。私の予想通りだ。後は、絶好のポイントで茂みの間から見るだけ、聴くだけ、幸せを感じるだけ。
その前にやる事がある。
「チアキ、俺は」
「ディエゴ、これ」
手を出すよう言えば素直に出してきたので、掌に優しく置いてみる。パッケージからすぐに分からなくもないが、思い当たる事がないのか彼は小首を傾げた。
「なんだ?」
「オリアーナと一緒に作ったお菓子」
「え?!」
もらえると思ってなかったのだろう、しかも手作りだしね。意外だといった雰囲気を纏わせて、私が渡したお菓子をまじまじ見ている。そこまで顔には出てないけど嬉しそうだし、この機嫌の良さなら私のお願いもきいてくれるに違いない。よし。
「ありがとう。そうだ、俺も」
「タイム」
「え?」




