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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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92話 萌えとはかくも罪深きものか

 いつの間にそんな演技できるようになったし。不覚にも演技なのにときめいてしまったじゃないか。くそう、ツンデレのツンは純粋なツンだからいいんだ!

 にしても表情、言い方……実に王道だった。オリアーナからきいたの? そしたらオリアーナがよく知ってる。そこまで話した記憶ないけど、いやまあダダ漏れだったけど、ここまで分析できたのはすごい才能だよ。


「ツンデレは演技で習得するものではないのです……」

「そこまで嘆くものなのか」

「純粋培養のツンデレだからいいんだよ。ディエゴは不純なもの取り入れない、素のツンデレだったからよかったんだよ……その頃のが断然好みだったというのに……どこで染まってしまったのか……」


 最近ぐいぐいだし、まあそこはこじらせ系だからありえるとしても、ダンスになんなく誘う様とか、今回のデートの誘いとか。スムーズにして紳士でイケメンらしく誘うって、そこもおいしいけど、やっぱり初期設定のツンデレがほしいわけだよ。

 という私の主張を聴いたディエゴが、何とも言えない顔をしていた。


「……俺が君を誘うのに、どれだけ勇気が必要だったか分かっているのか?」

「え、そんな大きな決断?」


 今のディエゴには告白もダンスの誘いもデートの誘いも余裕でしょと加えれば、眉間に皺を寄せて瞼を閉じた。くぐもった唸り声も聞こえたけど。


「告白だって毎回緊張してるし、ダンスの時も今も……君は断るの前提に俺と向き合ってる。それをなんとか承諾してもらう事に必死なんだ」

「おお」

「格好良く見られたいから余裕の振りをしてるだけで、内心どれだけ俺が気が気じゃないか分からないだろう?」


 少し照れつつも紛れも無い本音を吐露したディエゴ。ぐいぐいなのもスマートな誘いも全部照れ隠し故の演技、俺様キャラも演技。全てはツンデレを隠すための演技とは。なにそれ震える。


「か、」

「どうした?」

「可愛いいいいいよおおお!!」

「ああ、やっぱりそうなるか!」

「これだよ、これ! 真実! ディエゴ! 君はツンデレだよ! もっと! もっとください!」

「だから嫌だったんだ!」


 何故話してしまったのかと自身を嘆いた後、可愛いはやめてくれと懇願される。可愛い以外の選択肢はないだろう。お年頃だから格好いいがほしいんだろうけど、ツンデレは可愛い以外ない!

 芝生の上を両手で顔を隠してゴロゴロする。可愛いは世界を救う。少なくとも私を救うのは決定項だ。


「あああ久しぶりだね、この供給ー!」

「……くそ」


 侯爵令息として、あるまじき言葉が出たけど気にしない。言葉遣いは私が言える立場じゃないしね。


「うえへへ」

「妙な笑い方をするな」

「いや、もう今日は幸せな日ですな」

「っ」


 芝生の上で目を合わせたら、急にディエゴが起き上がった。いつもの照れ隠しですね、耳が赤いからわかります、おいしいもっと。


「はあ……萌えとはかくも罪深きものか」

「またよく分からない事を」

「ディエゴは染まらず、そのままでいてね」

「……」


 ここまで楽しませてもらったのなら、お礼にいくらでも舞台を見に行こう。どちらにしろ2.5次元舞台ばりのものを見られそうだし、煩悩に忠実に従おうじゃないか。恐らくこの舞台鑑賞は私が幸せなだけで終わるタイプのやつ。


「舞台は少し先だぞ」

「いいよ、前の世界でもそんな感じだったから」


 数ヶ月前のチケットをファンクラブ事前抽選、チケットサイト事前抽選、後援スポンサー事前抽選と、事前だけでもかなり多くて結構前からあったから、決戦日まで長い目で見ることには慣れている。その分楽しみも増すというもの。こういうとこは待てができる不思議。


「それまでは日々を楽しむだけだよ」


 なにせ、この世界は常にイベントに満ちているから。


「イベント?」

「おっと声に出てたね。私の胸を熱くする特別な出来事のことね」


 その言葉にディエゴはなにかを思い出したらしい。


「ああ、それなら」

「ん?」

「一週間後に王太子殿下とグァリジョーネ侯爵令嬢の婚約を記念したものが」

「なにそれ詳しく」 


 前のめりに起き上がる。やっぱりと言わんばかりに呆れるディエゴに先を促した。


「非公式なものだ。学園で二人の関係にあやかって、男女が菓子を贈り合うと」

「なにそれ、どこのバレンタインデーよ」

「勿論正式な祝いは王陛下立ち会いの元、王城で晩餐会があるが」

「そっちも捨てがたい」


 けど晩餐会は限られた者しか出られないらしい。幼馴染で仲良しな父親の力をもってしても、ガラッシア家は残念ながらお呼ばれしないというか、王族ぐらいしか集まらないとか。だからこそ、婚約を知る人々が二人を盛大に祝うために考えついた先がバレンタインデーもどきということ。


「女性から贈るとか男性からとか決まりあるの?」

「ないな。仲の良い者に渡し合うだけというのもあるし、勿論告白する者もいる」

「なんでもありですやん」

「菓子を贈り合うのは建前で、お二人の事を祝いたいという気持ちが強いのだろう」

「さすがトットとエステル」


 二人がこの世界にどれだけ影響あるというのか。さすがヒーローヒロイン、世界を巻き込んでいるとはゲーム通りすぎる。

 私が一人納得して頷いていると、ああそうだと、ディエゴはにんまり笑顔で私を見やった。あんまりいい予感はしない。


「俺は君に告白するために菓子を持ってこよう」

「ネタバレ予告をありがとう」

「甘いものは苦手か?」

「好物ですがなにか」


 よかった、上等なものを用意しようとディエゴ。さっきの勇気が云々の話はどこへいった。それも隠した上で、これが勇気を振り絞るということなの? それが真実だと今のにんまり笑顔も虚勢で、胸の鼓動鳴り止まない状態ってこと? 妄想がすぎる、楽しい。

 どちらにしろ、エステルとトットを祝いたいから欠席するわけにはいかない。となると、私はディエゴから逃げながら、エステルとトットを祝い且つ学園生活を営むのか。


「次回、恐怖の追いかけっこ」

「次回?」

「無視して」

「え?」

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