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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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88話 薔薇をプレゼントされるイベント

「あ、耳を胸に当てればいいのか」

「止めろ、より駄目だ」

「何故」

「言わせるのか?」

「ん? うん」

「……君が動揺したのは充分分かったから、もう止めにしてくれ」


 仕方ない。

 そこまで言われたら諦めるしかないし、彼も私の気持ちに寄り添ってくれたので、ここまでにしよう。少し喧嘩腰になってしまった。ディエゴはボコボコの対象じゃないし、意固地になることもない。


「……本当に気が短いな」

「自覚してるよ」

「けど、それは他の男にはするなよ」


 エドアルドの時といい、俺が嫌だから止めてくれ系が出てきた。主張が出来る事はいいのだけど、やっぱりお姑感が否めない。

 もっと品良く確かめさせることが出来てれば問題なかったのだろうか。いやこの場合さっきのが一番手っ取り早くて良いと思う。


「はあ……分かってないな」

「理解してるつもりだけど」

「……」


 若干引かれた。引かれる筋合いはない、断じてない。

 それはもういいとばかりの呆れ顔を披露して、どこぞに隠し持っていたのかディエゴは薔薇を一輪出してきた。マジックショーでもここでやる気だろうか。


「チアキ、君に」

「くれるの?」

「ああ……知らないのか?」

「え? 何を?」


 驚かれたのは、社交界の内容がこうしたダンスだった場合、男性から女性に花を贈るという、いかにもゲームっぽいイベントがあるらしい。もちろん強制ではない。事実、ちらりと階下を覗けば、渡しているペアもいれば、そうでないペアもいた。

 大丈夫、私の目にはきちんとエステルがもらっているか、オリアーナがもらっているかを確認出来た。二人とも無事もらえている。ああ、惜しむらくは遠かった事だなあ。表情が見えづらい。


「君は花が好きだろうから」

「うん、よく知ってたね」

「毎回花を持って行く度に喜んでいたからな。あの時はオルネッラの為に持って行くこと自体に喜んでいるのかと思っていたが」

「個人的にも花は好きだからね」


 とは言いつつも、人の反応をよく見てるな。

 私の事をオリアーナだと思い込んでた時期で、興味の対象は眠るオルネッラだったのに、周りもきちんと見て記憶していて、きちんと回答に行き着いている所は感がいいというか頭がいいというのか。どうあれ貰えて嬉しい事に感謝だ。


「ありがとう」

「ああ」


 薔薇一輪、深紅の薔薇だ。

 王道を攻めてくるとはさすが、薔薇と言えば深紅。テレビでよく見てた、今でも台詞言える。


「深紅も良いけど、色はオレンジが好きって言ったじゃん」

「……え?」

「え?」


 私おかしなこと言った?

 ディエゴの驚き方がいつもと違う。この世のものじゃないものを見てるような驚き方だ。


「私、何か変なこと言った?」

「え、あ、いや……いや、君に失礼だ。言うのが憚れる」

「私がこの性格で構わないって言うの分かってるよね?」

「……」

「へいかもん」


 ディエゴが逡巡するのも目を視線を逸らすのもよく見る光景なのに、そこに気まずさがあるのは何故だろう。ディエゴは渋々といった具合に口を開いた。


「昔、オルネッラが同じ事を言っていた」

「ん?」

「オルネッラに同じように深紅の薔薇を渡した時、彼女は薔薇ならその色が好きだと言ったんだ」

「ふむ?」

「今、チアキはその色の薔薇が好きだと、俺に言った過去がある言い方をしたから」


 そういえば、私は彼に好きな薔薇の色なんて言ったことなかった。

 実際私は薔薇なら橙色が好きだから、前の世界で友人に言った事とごっちゃになったのだろう。

 大穴でサイコメトリー的な力をもってしてオルネッラの事を知り得ていたか。それはそれでジャンルが違う方向へ行くな、うん。

 勘違いをして言ったことだとディエゴに説明すれば、彼は安心したように息を吐いた。それもそうだろう、薔薇を渡すだけでとんだ不思議発言に巻き込まれたわけだし。


「では、君の好きな色も贈ろう」

「今度でいいよ」

「ああ」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「オリアーナお嬢様」

「どうかしました?」

「お嬢様宛の贈り物が届きました」

「おお……」


 社交界翌日、アンナさんが持ってきたのは花束だった。

 それはもうたんまりと、他の花をまじえつつメインは薔薇。


「薔薇でその色は珍しいですね」

「そうだね」


 行動が速い。

 昨日の今日でお花屋さんに宅配屋さんはさぞや頑張ってくれたことだろう。もちろん、贈り主も頑張った。


「うむ」

「どちらから?」

「ディエゴですねえ」

「そうですか」

「私が薔薇ならオレンジ色が好きと言った翌日がこれです」

「そうですか」


 花瓶にいけるとしよう。

 こういうとこは実にモテる男のすることだな、律儀なとこがマメで迅速に繋がっている。

 そしてツンデレ……何故彼はゲーム攻略対象じゃなかったのか。


「チアキ……」

「なに?」

「いえ、嬉しそうでしたので」

「うん、お花好きなもので」

「そうですか」


 お花が苦手な人もいるけど、私にとってはあるだけでテンションあがるものの一つだよ。

 美味しいご飯もお酒も綺麗な食器やインテリアもテンションあがる。というか、この世界にいられること自体テンションあがる。

 美女を目の前にお茶したり事業運営したり幸せすぎるだろう。前の世界でも美女もイケメンもいたけど、そもそもジャンルが違う。二次元だった世界が現実になっているということが重要だ。


「いい匂いですねえ」


 薔薇は香り高いとこもいい。屋敷の庭にも薔薇は植わっていて日々癒されるけど、人からプレゼントされるのも、それはそれで格別だ。


「チアキが楽しそうでなによりです」

「オリアーナもお花好きでしょ?」

「ええ」


 静かに嗜む派で、庭の温室や毎年咲く薔薇を楽しみにしてたはずだ。

 庭師から学び、とって集めてはオルネッラにプレゼントしていて。


「ああ」

「どうしました?」

「ディエゴとお花のプレゼント合戦があった」

「どういうことですか?」


 私が渡す、いや俺が先だ的な。

 天使二人の花束余裕でもらいます、両手あいてるんでと言っても、オルネッラの取り合いでどっちかっていう可愛い言い争いがあったと。


「え?」

「……え?」


 オリアーナが驚きの表情で花瓶に花をいける私を見た。


「確かに幼少期、そのような事が一度だけありましたが、チアキに話していないはずです」

「お?」

「ディエゴから聴いたのですか?」

「お、いや? ん?」


 誰からもきいてない、と思う。どこかで話していたのだろうか。

 いや、この場合、妄想がすぎて作った話が当たりだったの方が納得がいくか。現実で二次創作なんてレベルの高いことをしてるな、いや元々現実ではなったから通常の二次創作になるの?


「チアキ?」

「あ、ごめんごめん。なんでもないよ」

「そう、ですか」

「最近とんと記憶力がねえ」

「……」


 オリアーナに哀れみの瞳を向けられる。いやもう弁解できないけど、なにもそこまであからさまな顔しなくてもいいと思う。

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