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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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86話 ぐいぐい系男子の上から目線発言

「王太子殿下、グァリジョーネ侯爵令嬢。本日もお変わりなく」

「ああ」

「エドアルドも、オリアーナも」

「うん」

「ええ」


 なんだかんだで親密になってるようでよかった。トットとエステルへの呼び方はまだしも、エドアルドとオリアーナは名前で呼んでいる。

 ツンデレがここまで心を開くということは、あれから色々話したりやりとりしてるな。オリアーナが応援すると言ってから、割と三人意気投合してる風には見えたけど。

 オリアーナに友達が出来て、それが支えになるなら大歓迎。このまま長く付き合ってあげてね。


「チアキ」

「何?」


 皆への挨拶の最後に私を見やって、彼は真剣な面持ちで私に手を差し出した。


「俺と踊ってほしい」

「お」

「どうぞ喜んで」

「オリアーナ、勝手に応えないでよ」


 一文字しか発してないよ、私。なんでそんなに即答なの。

 オリアーナが踊りたいのかきいても違いますってはっきり言ってくるし、チアキのかわりに応えましたって……私の気持ちはどこにあるのかな。本人確認しようよ。


「丁度いいわ。チアキがきちんと踊れるか確かめられるのね」

「エステル、そこなの?」

「確かに丁度いい。確認と共に俺達も行くか」

「ええそうね」

「待って二人が踊るなら私ガン見したい」

「待て」


 側のイケメンに止められた。君の相手は俺だろうと主張する。踊ってたらガン見できないじゃん。


「私とサルヴァトーレが踊りながら確認出来るからチアキも出来るわ」

「私が初心者なの忘れてる?」

「チアキ、音楽が」

「え」

「行こう」


 押し問答のところに音楽が流れ、そのまま始まってしまう。

 ディエゴに手を引かれ、皆から離れたダンスエリアへ連れていかれた。

 うわああエステルトットが遠ざかるうう。けど踊ろうと手と手を取り合うのは見えた。オリアーナとエドアルドもだ。なんだ、そのイベント。保管させてよ。


「ああ、近くで見たい……」

「相変わらずだな」


 この名残惜しさ全開の私にディエゴは呆れた様子だ。それでも手を離す事は決してしない。ついでに呆れはするけど怒りはしない。そういうところは紳士だよなあとしみじみ思う。私という存在に慣れたというのもあるだろうけど。


「君の相手は俺だろう」

「見たいイベントが……」

「……」


 はあと溜息をつかれた。私が癒しの供給を求めて何が悪い。

 

「俺を見ろ」

「おう」

「チアキの相手は俺だ」


 芝ドンの時と同じく視線をディエゴに戻される。頬にかかる感触でやっと気づいた、この人今日手袋してるじゃん。

 ダンス用衣装に手袋ってなにそれ反則なんじゃない。レッドカード即退場ぐらいのインパクトだよ。そういえばダンスの誘いの際の片手差し出しは確かに手袋してたわ、見落としていた。この際、社交界において爵位のある男性が頻繁に手袋する習慣ってあったっけなんてツッコミはしない。だってここはゆるゆる設定のゲームの世界だもの、その辺は萌え需要に則ったにすぎないと理解している。

 そしてそれに加えて俺を見ろ発言、キャラ変だよ。ツンデレじゃない、俺様の方向でいくの?


「ORESAMA発言」

「なんだその、おれさまとは」

「ぐいぐい系男子の上から目線発言」


 小説のタイトルみたいな言葉纏めになってて笑える。その説明に何とも言えない微妙な表情になっていたけど、すぐに咳ばらいを一つして。


「あくまで、ダンスの相手という意味でだ」

「おお」

「それに、お互い向き合わないと踊れないだろう」

「そうだね」


 ツンデレありがとう。

 自分の言ったこと思い出して恥ずかしがってか、自分で自分をフォローしてきた。可愛い。


「ほら」


 音楽が始まってしまっている為か、挨拶もなしに手を取られ、腰に彼の手が添えられる。

 ここまできたら仕方ない。ダンスは魔法中級編に同じく割と苦手なとこではあるのだけど。


「初めに言っとく。ダンスは修行中の身です」

「フォローする」

「頼もしいねえ」

「ほら、集中しろ」

「はーい」


 返事は伸ばすなと怒られる。品性という項目についてディエゴは割と厳しいよね、お姑さんみたい。

 そんなお姑ディエゴは有言実行、その言葉通りとても踊りやすく動いてくれる。これがリードというものか。

 今までエステルとトットが練習に付き添ってくれたけど、基本から習うというところでリードはなしだった。相手次第でこんなに踊れてる感を味わえるなんてすごい。


「ディエゴ」

「どうした」

「上手だね」

「……え?」

「上手だなって。動きやすいよ。面白い」

「そ、そうか……」


 もじもじした、なんてことだ。ここにきて照れるところなの。まったくけしからん。脳内シャッターは連射モードにした。


「バルコニー族なのに上手とか、何処で仕入れるのそのスキル」

「え?」

「ダンスが上手なの何故ですかってこと」

「ああ、祖母が割と厳しかったな」

「おばあちゃんかあ」


 人と関わるのが苦手なのに社交界スキルをやたら仕込まれた挙げ句、幼少期から連れ出されていたとか。それは大変だね。

 しかしおばあちゃんのおかげで今完璧に踊れてるのだから結果オーライだ。イケメンが完璧な社交ダンスを披露、これだけで全てを成し得たと断言してもいい。

 しかしまあ、ディエゴには性格的にもきつかったのだろう。


「ディエゴ、シャイボーイなのにね」

「ん?」

「いや、性格的に社交界でたくさんの人と関わるの大変だったでしょ?」


 何て言ったってバルコニー族だ。

 年頃の女子がキャーキャー言うようなイケメンが女の子の元に現れないなんて、オルネッラが好きで他の子には対応しないというスタンスをとっていたとしても、一切誰の相手もしないという境地へは貴族間の付き合い上、なかなか辿り着けない。

 実に硬派だ。

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