78話 こじらせ系ツンデレの行動力
「オリアーナ、お早う。隣いいか?」
「きく前にもう座ってんじゃん……」
「ああ、そうだな」
昨日のままのテンションじゃないか。
横にいたトットとエステルも驚いているあたり、彼の行動が普段と違う事が窺える。
十年こじらせたのが、こういう形で爆発してしまうと取り返しがつかない。私はオルネッラでないことを伝えたし、告白に対してお断りもしたというのに。
初恋こじらせ系作品しか作らない某監督を呼び出して、ディエゴを捧げてあげたいぐらいだ。きっといかように料理してくれることだろう。
「なあ君」
「なんですか? 講義中は静かにしようね」
講義の中、ひそりと話しかけてくる。
「君が今まで魔法を失敗していたのは、わざとだったのか?」
「え?」
オルネッラは魔法の才にも長けていた。ノーコンを晒すような真似はしないだろうと。
ついでに言うなら彼女が眠りについた時期を考えれば、今私がこの期間習ったことは彼女は学び済みのはずだと。
「いいえ。魔法の調整は苦手なので、素でやらかしてます」
「そうか。そういえば君は中庭で王太子殿下とグァリジョーネ侯爵令嬢と一緒にいるな」
「そうだね」
「そこで君だけ三日に一度、壁に向かって飛んでいるという話があったが本当か?」
「垂直飛びの事かな」
「すい?」
真っ直ぐ飛んで高さを計測していると伝えれば、それはもう楽しそうに頷く。
ツンからくる照れがどこにもなくてつまらん。完全に好きな人=オルネッラを前にしたデレだけだ。
講義中きかれることは、私がこの世界に来てからの事ばかりだった。彼が見てない事で耳にしたことを確かめているようでもあった。ほぼほぼディエゴは私の行動を見て把握してるから、今更知るものもそんなにないだろうに。
「ディエゴ……」
「なんだ」
「楽しい?」
その言葉に何故か言葉に詰まる。何故、ここで詰まるのか分からない。さっきまでキャラどこいったぐらいな勢いで随分流暢に話していたというのに。
「講義、真面目にきこうよ」
「あ、ああ、そうだな、つい」
素だったの?
でも狙って隣に座ってきたよね。そう言うと、隣に座るだけでよかったと、もぞもぞ言ってきた。
好きな子の隣に座っちゃった、きゃっ、とかいうやつ?
でもついテンションあがって喋っちゃったとか、そういうやつなの?
「可愛いねえ」
「!」
いけないいけない。見た目と恋愛偏差値そぐわない不器用ツンデレ楽しいですわ。
ゲームならすぐにエンド迎えられるタイプ。
「お、俺は」
「ん?」
「可愛いじゃなくて、格好いい、と、思われたいんだが」
「ぶふ」
「……笑うな」
間違いなく可愛いという形容詞しかない。ディエゴ、君ってば典型的な回答だぞ。好きな人に格好良く見られたいなんて!
ぶすっとしつつも耳を赤くしてるディエゴが可愛いくてニヤニヤするしかなかった。
こんなにも自由にしていたのに、教授に注意されなかったのは幸いだったけど、お陰様で大して中身を聴かずに講義は終了してしまった。後でエステルに確認するか。
「じゃあね」
「ああ……」
それでもオルネッラに恋してますという顔をして、その場を去るディエゴ。彼の誤解をどうやって解いていくかな、まったく。
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「チアキ、何かあったの?」
「中身が違うことがばれた挙げ句、私のことをオルネッラだと勘違いしている」
「あら」
中庭のお休みタイム、今日も変わらず垂直跳びをし終わって、エステルの煎れてくれたお茶を飲みながら遠い目をしている。
幸い今ディエゴはいない。よかった、自分の時間を持てるぞ。
エステルトットにはディエゴの初恋こじらせを説明して、話を聞いてくれないことを言えば、軽く笑われた。
「ふふ、可愛い方ね」
「いいじゃないか、チアキ」
「何がいいの」
そろそろ落ち着いて自分の事を考えてもいいんじゃないのかとトットが言う。
私は常日頃、自分の事しか考えてないのだけど。
確かに最近多忙だったから、皆との時間もなかった。ディエゴがオルネッラのとこに告白練習しに来ない程度の忙しさはもう止めた方がいい。
もう粗方安定して推移し始めたから大丈夫だと思うけど。
「もうあれほど忙しさ極めないよ」
「そうね、王陛下からの依頼であったけれど、チアキが無理するのは私も嫌だわ」
「エステル! 天使!」
「ステラの言う通りだ。事業の関係上、根を詰めないといけない時があるだろうが、そこは遠慮なく俺達を頼ってくれ」
「トット! 神!」
二人に癒される。
そういえば、新規事業もすんだことだし、そろそろ自分にご褒美でもするか。
温泉旅行……近くに温泉あるから不要だな。
美味しいご飯にお酒……いつも出てくるな。
美男美女を鑑賞……これもいつもだ。
なんてことだ、ご褒美が常に自分の傍にあるなんて。幸せすぎてどうしたらいい。
「チアキ顔が」
「おっと」
「相変わらずね」
「まだまだ修行が必要ですな」
「ええ」
「ステラ、そろそろ」
「そうね」
「ん?」
なんと二人は今日も王城へ帰ると。なにやら他国の使者の迎賓が今日までとか。
「明後日ぐらいからなら、一緒に走る事が出来るわ」
「ゆっくりでいいよ。外交大変だもんね」
「なに、大したことはない」
「さすがですな、王よ」
二人を見送って、私も歩いて帰るかと歩き始めてしばらく、なんだか微妙に気配を感じた。
うん、嫌な予感。
しかし見過ごすのは嫌なので、思い切って振り向けば、やっぱりだ。ディエゴがいた。
「どうしたの」
「いや、丁度君を見つけたから、話しかけようか悩んでいた」




