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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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77話 ツンデレの告白イベント(本番/相手間違ってますよ)

「君はオルネッラではないのか?」

「ごぶふ」


 ちょっと待って、そっちなの。

 しかもその瞳、確信に満ちている。


「違います」


 事実だ。中身は違うけどオルネッラではないのだから、この回答でも問題ないはずだ。


「では質問を変えよう。君は見た目はオリアーナだが、オリアーナではないな?」

「ぐふう」


 当たりだ。文面通り、そのままだ。


「周囲には人が変わったと言われているが、実際は別人でないかと思ったんだが」

「そ、そうですか? そう見えます?」

「ああ、話そう」

「え、何を?」


 ディエゴは譲る気なんてさらさらないといった具合に言葉を続けた。


「王太子殿下とグァリジョーネ侯爵令嬢の愛称が周囲と違う」

「……うん」


 エステルとトットね。

 そもそも二人は愛称でそう呼ばれない。エステルに至っては、ゲーム内愛称はステラで、トットもステラ呼びしている。そしてなにより、トットは王太子殿下という肩書のおかげで、誰も愛称で呼ばない。私ぐらいだ。


「君もまた、オリアーナではなく特別な愛称で呼ばれているな」

「あ、あれは三人で仲良く考えた特別な愛称ですよ」

「そもそも、お二人と接点すらなかったはずのオリアーナが、急に親密になるのもおかしいだろう。周囲の話を聞いた限りでは、しばらく学園を休んでいたオリアーナが急に学園に来て、奇行に走った挙句、グァリジョーネ侯爵令嬢に抱き着いたと聞いた」

「五、六話参照」

「え?」

「なんでもないです」


 その時現場にいなかったのによく知ってる。

 まあ噂にはなったし、かのヒーローヒロインと一緒にいれば目につくだろう。それがよりによって当時仕様のない醜聞持ちとされていた人物だったのだから尚更話題になる。

 ええい、何故ディエゴの耳に入ったし。


「振舞いは当然以前のオリアーナとは全く違うものだし、言葉遣いもかけ離れている」

「それは否定出来ない」


 クールキャラ演じられないんだって。オリアーナのキャラが私と真逆だから難しいんだよ。

 てか、こんなにもぐいぐいで別人をせめられるなんて、ディエゴと関わりすぎたが故の結果なの?

 ツンデレおいしいなんて毎回絡んでた結果が今だというのか。


「我々の知らない言葉もよく使う」

「あれです、変わった書物にはまっててその影響ですよ」

「俺が決定的だと思ったのは、君がオリアーナの事を話す時、“私は”という言葉ではなく、“オリアーナは”という言葉を使っていた事だ。他人事のようにも聞こえる言い方だと思ったんだが」

「他人事ではないんだけどね」


 私の大事なオリアーナの事なので他人事ではない。

 けど、うん、ディエゴの言う通りだ。確かに私はこと何かある度に、オリアーナは○○だった的な言い方をしていた。オリアーナは自分の事を、オリアーナは~とは言わないし、そういうキャラでもない。そこはさすがに失態だ、どうしたものか。


「最初はオルネッラを真似て何かをしようとしているのだと思った。けど、よくよく見て話してみれば、取り繕っている様子でもなかったし、本音で話しているようにも見えた」

「うわ……」


 論破じゃん。完全に論破……ディエゴ、探偵かよ。


「堂々としてる君にオルネッラが重なったのが最初だった。そこから何度か聴いた君の言動や見える所作、やろうとすること全てが別人だった。それからずっと気になっていた。幸い、俺は君と関わる理由があったから、君を見て考える時間も充分あった。最終的に確信したのは、アッタッカメント辺境伯の件があってだ」

「叔父上……」


 ボコボコタイムをがっつり見られてた挙句、止めに入ったとこね。

 スイッチ入ってる時は、どう考えてもクールキャラじゃないし、そもそも公爵令嬢が他人をバルコニーから落とそうという発想にはならないだろう。

 あ、でも叔父は私を大階段から落とそうとしたわけだから、爵位持ちだからという理由でやるやらないは関係ないか。いや今はそこを考えてる場合じゃない。


「あの時から、ずっと、」

「いや待とうディエゴ、落ち着け」


 その表情に言い方、その雰囲気はさすがの私も察する。

 でも待って、今じゃない。


「いや、その時と思った時がその時だと教えてくれたのは君だ」

「確かにそう言ったけど、そうじゃない。そうじゃないんだって」

「もう後悔したくないんだ」

「だから一旦落ち着いてって」


 だめだ、この人完全にスイッチ入った。

 でも違うそうじゃない。相手がそもそも違う。


「俺は君が好きなんだ」


 ああああありがとうございますー!! 神よ、感謝します!

 けどそうじゃない、ツンデレの告白イベント(本番)を確かに見たいと思っていた。

 けど、それは体験したいというわけじゃなくて、目の前で告白してくる彼を見たいというわけでもなくて、遠くから美人が美人に告白する様を見てウハウハしたかったんです。叶ったけどちょっと違うんです、神よ。


「君は、オルネッラなのだろう?」


 私の両手をその手に捕らえて詰め寄って来る。

 ああああそうだねええオルネッラの前では完全なデレしかないんだったねえええ!

 イケメン顔が近い! 眩しい!


「ち、違います!」

「だが」

「違うったら違う! あと近いから離れよう!」

「何故だ、ど」

「だから違うって! オルネッラに用があるのは私だよ!」

「え?」

「私も! オルネッラに! 用がある!」


 オルネッラを探して求めているのは紛れもなく私だよ。本当今すぐ出てきて、このツンデレどうにかしてほしいわ。

 さすがの私の言動に、何を言っているんだと困惑した顔をするディエゴは、やっと徐々に離れていく。するっと握られていた手をほどいて、やれやれと肩を落とす。

 練習の成果が出た。ここまですんなり、そして情熱を持って告白イベント(本番)を迎えられたのは、ひとえに彼が眠るオルネッラに告白の練習を続けたからだ。少しずつ努力を積み重ねていくことの大事さを証明してくれたね、ディエゴ。


「君が好きだ。俺と正式なお付き合いを」

「だが断る」

「……」

「……」


 大事な事だろうけど、二度も言わなくていいよ。

 充分おいしい思いをしたので。これ以上は一旦ストップだ。

 するとディエゴは目つきを強くして言葉を続けた。


「……俺は諦めないぞ」

「え?」

「諦めない、また君に告白する……君が応えてくれるまで」

「え、私の“だが断る”きいてた?」


 私、応えてるのに。中身オルネッラじゃないことにも応えたのに。

 ああ大丈夫だと訳の分からない笑顔を最後にディエゴは去っていく。

 なんだどうした、そのデレ笑顔最高ですありがとう。

 いやこの場合、オルネッラありがとうのがいい?

 それにしても勢いが凄すぎてどうしたら。


「これがツンデレのデレ……」


 私はただただ驚愕に打ち震えてるだけだった。恋は盲目とはよく言ったものだ。

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