74話 フラグ回収―クールな反応は今じゃない―(ある種トゥルーエンド)
「お、オリアーナ?」
「大丈夫です、チアキ」
「おお!」
名前を呼ばれてガッツポーズだ。
声は全く違うけど、その冷静な口調、間違いなくオリアーナだ。
「覚えてる? 記憶欠けてるとかない? 身体に痛みとかさ」
「ええ、今の所は問題なさそうです」
「うおおおおおおよかったあああああ」
「落ち着いて下さい」
「え? どうして? ここに辿り着くまで長かったんだよ? 感動にむせび泣くとこじゃないの?!」
「泣くのは……」
拒否された。
がっかりだよ。
あれだけデレを見せておいて、重要で感動的で演出に力を入れそうなこういうシーンこそ、百二十パーセント超えたデレを見せてくれてもいいじゃないか。落ち着きすぎだよ、オリアーナ。
「問題なさそうだな」
「ええ、魔法も滞りなかったわ。彼女の様子を見ても問題はなさそうね」
「エステルとトットも冷静だね……感動ない?」
「あら、とても嬉しく思ってるわ」
「勿論だ」
心からそう言ってくれてるのはわかるけど、こうリアクション私が激しいだけで微妙に疎外感を感じるよ。
「父親にオルネッラ起きたって言ってくる」
「私達は帰りましょうか?」
「あ、いやいていいよ。ここでいなくなるのも不自然だし」
「わかったわ」
しょんぼりした私の心を癒してくれたのは、なんと父親だった。
オルネッラが起きましたよと言ったら、メイド長さん執事長さん共々目開いて驚き、そのまま彼女の部屋へ走っていった。
さすがにメイド長さんと執事長さんは他使用人達に伝達やらクラーレに連絡やらで冷静だったけど、この父親の様子ときたら。
部屋へ入り、上半身起き上がってベッドに身体を委ねるオルネッラ(中身オリアーナ)見て、大泣きして叫び散らして抱き着いた。
これだよ、こういう反応が欲しかったんだよ。
「うわああああああオルネッラああああああああああ」
「お、お父様、ちょっと」
「これよ、これ」
迷惑そうだけど、どこか嬉しそうなオリアーナもおいしいもんですわ。
ありがとう、父よ。君のそういう反応を待ってた。
「では私達は先に失礼するわ」
「オッケー、エステルトット。明日またよろしく」
「ええ」
咽び泣いて喜ぶ父親に君達がいてくれたから奇跡が起きたのか、と、もうテンション高すぎてよくわからない事を言っていたけど、そこはさすがと言うべきか、エステルとトットは軽やかにこやかにかわし、当たり障りなく言葉を交わし帰って行った。
もう本当、安定安心安全の三安揃う子たち。
「オルネッラお嬢様」
しばらくして館中の使用人がオルネッラの元へ集まった。
すごい人徳だな、オルネッラ。館中の使用人がドアの前でひしめきあっているなんて。
「一人ずつ声をかけたいのは山々でしょうけど、今日は休ませてあげて下さい」
「そうだな、オリアーナの言う通りだ。今日はクラーレに診てもらって明日から様子を見ていこう」
父親がやっと涙止まった。
同時、クラーレが顔面蒼白で到着した。そりゃそうだ、起きるはずのない人間が起きたのだから、夢でも見てるようだろう。
「オ、オルネッラお嬢様……」
父親にもまだ中身を話していない手前、ここで真実を話す事が出来ない。
追って時間をとるしかないか。
「クラーレ」
「オリアーナお嬢様」
「お姉様の事で後で詳しくお話を伺いたいので、今度そちらにお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「……ええ、かまいません」
察してくれたようで、よかった。
なにせ、今診察をして何も異常を見いだせなかったのだから、あっちも謎だらけで震えている事だろう。
逆に私の言葉で安心したのかもしれない。
父親は今こんなだから、オリアーナの言う通り、時間を見て話す事を考えるとして、クラーレに後々さくっと話をしておこう。
「ふむ、やっと落ち着きましたな」
「ええ」
「いやあ父親のあの反応よかったわあ」
「チアキと同じでした」
「十年の眠りから覚めたってビッグニュースの反応なら、あれぐらいでもいいじゃない」
「そう、ですね」
ひとまず一週間は経過観察と言う事で自宅療養だ。
その間に父は学園へ戻る手筈をすると意気込んでいた。
学園へ行くとなったら同じ教室で一緒に勉強するのか、なんだか不思議な感じがするな。
今までオリアーナと一緒に学園行ってたのに、なんだか違う感。
「私は明日いつも通り学園へ行ってくるよ」
「朝のジョギングは?」
「ん? するけど」
「私も」
「いや、一応目覚めたばかりだし、形だけでも療養してた方がいいんじゃない?」
「……」
不服そうだ、わかりやすい表情をしている。
身体は動くだろう。
そういう魔法がかかっていたのだから。けどだからといって急に走るとかなったら、たぶん周りが驚くし心配する。
「まず屋敷内を歩くところを明日見せておこう。それだけでも驚かれると思うけど」
「はい」
で、クラーレの魔法が優秀だから身体すごく元気、だから運動するって流れにして、早めにそういうことが出来るよう取り計らえばいい。
そもそも身体はオルネッラだから、事故の傷やなんやらは治したとはいえ、慎重に見ていく必要はある。
「分かりました、善処します」
善処しますって、それはもう善処しないってフラグと違いますかと内心思ったけど、ここはスルーだ。
たぶん私なら今日早々に走ってるし。我慢出来てるオリアーナが偉いわけだし。
「じゃ、私も寝るわ。お休み、オリアーナ」
「ええ、チアキ。お休みなさい」
部屋に戻れば途端安心がジワジワしみてくる。
ああよかった、一人の就寝は少し淋しいけどうまくいった。
やっと、オリアーナが進んだ。すごいことだ。
「本当よかったなあ、ある種トゥルーエンドなんじゃないの」
笑みがこぼれる。
この時。
まだやることはあるけれど、一段落したと私は結構油断していたんだと思う。
まさか翌日あんな恐ろしい事になるなんて、誰も求めてなかったよ、本当。
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「君はオルネッラではないのか?」
「ごぶふ」
こちらで1章は終了です。
75話以降は残ったフラグを回収しつつ恋愛編へ突入します。




