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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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73話 フラグ回収―川の字で一緒に寝るなら恋バナしかない―(二度目)

 まさかのオルネッラの身体に戻る発言があって動揺した私は今、川の字になってオリアーナと寝ている。

 恋バナはもちろんない。

 動揺したまま夕食を食べて、動揺したまま帳簿を確認して、動揺したまま温泉入ってストレッチして、さっきの話の続きだ。


「お、オルネッラに?」

「はい」

「オリアーナの身体じゃなくて?」

「私の身体にはチアキがいるではありませんか」

「いやそうだけど」


 オリアーナはオリアーナに戻るのが一番いいんじゃないの?

 てか私オルネッラ探し当てる気満々だったし、この身体に戻ってもらう事が目的でもあったんだけど。


「チアキは自分が残るという選択肢を持っていませんね?」

「え?」

「私にその身体を譲る気ですし、私が元に戻ればチアキ自身がいなくなってもいいと、私が自立したらそれで終わりだという気持ちがチアキの言う事の節々に感じられます」

「おう……」


 言われてみれば、私はオリアーナに生きてほしいという思いでいた。

 その中に、私自身の生死は含まれていない。

 どっちでもよかったんだろうな。

 初めてオリアーナと出会った時、自分の死体を見て死んだ事を受け入れていた。多少の後悔や未練はあったとしても、まあそういう人生もあるだろうと。

 うっかりこの世界にきてバタバタして、ひとまずオリアーナが生きたいと思える環境に整えればいいと考えてただけだったな。


「元々、私死んでるし」

「ですが、今は生きています」

「仮でしょ、仮」

「いいえ、私にとってチアキはチアキで、今ここに生きている私の大事な人です。失いたくありません」

「デレをありがとうございます」


 シリアスなシーンの手前、じとりとオリアーナから目線を貰った。

 いやね、煩悩には勝てないのですよ。大事な人なんて言われてみなよ?

 鼻血出なかっただけ我慢してる方だよ。


「私はまだチアキと一緒にいたい、だからオルネッラの身体に戻ります」


 ここまで愛の告白を受けると、もうどうしたらいいのやらだ。

 デレが溢れすぎてて困る。

 同時、彼女が生きたいというなら全力で応援する。

 実際、自分の身体があるにも関わらず、他の身体で問題はないのかと調べてみれば、肉親だと拒絶反応みたいなものは軽減されるので、むしろお勧めの部類だった。

 まあ関係のない私がオリアーナの中に入れてるんだから、成功を証明してしまっているようなもの。


「チアキに生きろと言われ、この世界に戻って来てから今までずっと考えていました。生きる必要があるのかと」

「うん」

「チアキは私が恵まれている事、私のせいで周囲に不幸が起きるわけではない事、愛がある事を何度も伝えてくれました」

「そうだね、事実だから」

「今までそんな風に見えた事がなかった私には、チアキの発言は非常に不可思議なもので、同時にそう考えられるチアキが羨ましくもありました」


 そんな気はしてたよ。

 それに前の世界でも、幸せの沸点低いよねってよく言われてたし。


「オルネッラが目覚めないのは……いいえ、オルネッラの魂がこの世界から失われたのは、なんとなく分かっていました」

「え、どういう?」

「直感です。オルネッラは目覚めないと感じていました。それを認めたくなくて、見て見ぬ振りをして十年ずっと目覚めを願っていた。チアキに出会う以前は先に私が疲れしまいましたが、今ようやくオルネッラの死を認められたのかと」

「そう」


 確かに出会った瞬間のオリアーナは自殺志願者だったからな。

 クールすぎて能面だったし、自棄を起こしてもいた。

 それが今やデレを見せるようになったのだから大いに変わったよ。


「あれ、待って。今オルネッラに戻られると、エドアルドへの返事はどうなる?!」

「……そこですか、チアキ」

「大事だよ! やっぱり川の字で寝る時は恋バナしかない」

「チアキらしいですね」

「え、そう?」


 えへへと照れるととても冷静な目で見つめられた。

 あれ、違う?

 オリアーナは度々平坦に話を進めた。


「エドアルドには私から……オリアーナである事を伝えようと考えています」

「いいね!」


 告白イベント(返事/本番)が見られると言うことだ、嬉しい限り。


「チアキは私がその身体に戻ると考えていたから、なるたけ私らしく振舞おうとしていましたが、近しい者には順を追って話していければいいかと」

「うん、そこはオリアーナの好きなようにでいいよ」


 あれ、となると私はもうクールキャラ演じなくてよさそう?

 やったね、解放される。


「あくまで近しい者だけです。父や親しい友人数名で良いかと」

「え、そしたら私は大方九割はクールキャラ演じろって?」

「そうなります」

「む、無茶や……」

「ええ、まだ演じられていませんね」

「ふふ、きつい御指摘ありがとう」


 というか、演じられない。

 演じられないんだって(大事な事なので以下略)。

 しかし私の私情はさておき、オリアーナのことは全力で応援する。これしかない。腹をくくろう。


「オリアーナの気持ちは充分分かった。やろう」

「ありがとうございます」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「さてやってみますか」

「私達がいてもよかったのかしら?」

「うん、私の魔法レベルでは心許ない。オリアーナもオッケーだし」


 立ち会いはエステルとトットだ。

 ヒーローヒロインスキルがあれば大丈夫だろう、ほぼ無敵だ。

 私の魔法のレベルは正直な所、オルネッラの身体を生かす為の魔法をやってみるかみないかというところまでは上達したけど、持ち出し禁止の複製本の高度な魔法がどうにかなった時に対応出来るほどに至っていない。

 安全は大事なチェックポイントだから、サポートしてもらうに限る。


「ではやります」

「オッケー」


 わんこなオリアーナが魔法を使う。

 複製本にあった魂を移動する魔法だ。

 それは意外にも、とても静かで綺麗なものだった。

 薄い光の粒子が部屋を舞って、僅かに風を感じる程度の、心地良いと感じるぐらい緩やかな魔法。

 そして一瞬で終わる。

 部屋がいつも通りになり、光も風もおさまる。

 わんこを見れば、表情や仕草が全く違う。テゾーロに戻っている。

 オルネッラを覗く。

 瞳を閉じたままの彼女を見て、息を飲むと、僅かに瞼が動いた。


「オリアーナ?」

「…………」


 ゆっくり瞼が上がった。

 間を置いて、私にするりと視線が向けられる。


「お、オリアーナ?」

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