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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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64話 お隣さんと和睦

「喘息と痛風ですか」

「それは何だ?」

「移らない咳と激しい痛みが起きる病気です」

「そう、か」


 今の状況なら男爵もスムーズに話をきいてくれそうだ。試してみよう。


「今日こちらをお持ちしたんですが」

「これは?」

「ジャージというものです、ジョギングやストレッチという新しい運動に使います」

「ふむ」

「男爵はジョギングではなく、ウォーキングをしたほうがいいでしょう」


 ウォーキングとは、ゆっくり歩くことだ。七千から八千歩が目安。ただ痛風がある手前、そこを改善しないとかな。いくらよくなってるとはいえ、急には痛みで辛いだろう。


「よければですが助言をしても?」

「ああ、ぜひ頼みたい」

「いけません!」


 ここでもまた奥様ブロックがきた。

 何をそんなに私の言うことが不満なのか。男爵もそう思っていたのか、どうしたんだと理由を求めた。


「が、ガラッシア公爵家は呪われています!」


 呪われてるわけない。

 まあ不運は重なった時期はあったかもしれないけど。むしろその呪いを受けていたら、私はたぶん今ここに立ててないと思うのだけど。


「他者を蹴落とし成功を奪い取るような輩です」

「社交界の話であれば、それは偽りです」

「嘘だわ……最近は王陛下の元にまで行って、その、じゃーじとやらでさらに利益を独占しようとしてる。毎日毎日人を連れておかしな姿で家の前を通って見せびらかして」


 全部見てたんだな。

 夫人の言いようから感じるに叔父と少し似たようなものを感じる。まあそこに悪意までは見られなかったけど。ようは感情のおさめかたを知らない的な。


「もしかして羨ましいです?」

「はあ?! そんなわけ、」

「貴方もお友達作って、家族仲良くして、事業大成功したいんじゃないんですか?」

「そんなわけない!」

「じゃあなんでこちらの領地に投棄したり、魔法かけてまで会わないようにするんです?」

「それは貴方が」

「最初に拒否したのは貴方ですよ。しつこさは認めますが、私から何かしたわけではないですよね」


 少し凄んでしまったのか、夫人が僅かに震えた。

 おっといけない、ついつい。私も人のこと言えないね、感情をおさめつつ冷静に話すのは修業だ。年単位で身に着けるものだと思っておこう、なにせ私がクールキャラになれる日はまだまだだから。


「ガラッシア公爵令嬢の言う通りだ」

「あなた!」

「妻は貴方に憧れてただけだ。私がこんなになってから苦労ばかりかけていた。君も一時期大変だったろうが、そこを乗り越えた姿が羨ましかったのだろう」

「あなた! 違うわ!」

「違うものか。何年連れ添ったと思ってる。いい加減認めなさい」


 ぐうの音もでなかったようだ。目線を泳がせ、何度か夫婦で目を合わせて、がくりと肩を落とした。

 うんうん、長年連れ添った夫婦ならではの愛、いいですねえ素晴らしい。一件離縁にもつれ込みそうなノリなのに、お互いへの愛がしっかり感じられ、メンヘラ気味のツンデレに決め台詞を叩き込める病弱な男気溢れるクールガイ、おっといけない脱線してしまう。


「すみません、話しても?」

「チアキ……」


 場を和ませるためにあえて入って行ったんだよ、わかってオリアーナ。私の煩悩を律するのはついでだよ、あくまでついで。

 気まずそうにする夫人をそのまま、男爵が頷くのにアドバイスをすることにした。


「私からの生活習慣に関するアドバイスです。

野菜中心の食生活はそのまま、動物のレバーや魚は少し控えてください。食べすぎはしないこと、痛みがなくなったらストレッチ、歩ければウォーキングも加えます。睡眠はいつも決まった時間に寝て起きるを試してください。早寝早起がいいです。そして、毎日換気で家中風を通すこと、布製の家具もなるたけ毎日埃をとってください。犬猫を飼うのは当面先で」

「チアキ、急にそんな詰め込まれても」

「あ、つい」

「いや、ありがとう。妻がひどいことをしたというのに」

「いえいえ、近いうちに領地内に施設を作るので、そこで試しに来て下さい、って、あ」


 いけない、忘れてた。

 領地内に施設作るんだった。お隣りさん近くではないから、工事音とか聞こえないとは思うけど、人の往来や粉塵がまう可能性もある。

 この季節の風向き的に粉塵はいかない事は確認済みだけど、喘息の件があるから、そこを念入りに説明した。了承を得て施設建設に乗り出すことに一歩進むことが出来て、なんだこれ話がスムーズだな。


「君はメディコの資格まで有していたのか」

「あ、いえ、独学です」

「なんと」

「あと改善するにはご家族の理解と協力が必要なんですが」


 ちらりと夫人を見るが、私に対する敵意は変わらない。あくまで主人が言ったから何も言わないだけというスタイルを貫いているだけそうだ。


「夫人は自分の感情と向き合うところからですね」

「私は病気じゃありません!」

「そうですね、身体は健康でしょう」

「ならば貴方の治療は必要ありません!」

「私が貴方に言ってることは治療じゃないですよ」


 ならなんだと小さく唸る。


「苦労して辛い思いをたくさんしたのかもしれませんが、他人を羨むところに繋げても意味はありません」

「羨んでなんか」

「いい加減にしないか」

「あなた」


 二度にわたり、男爵が間に入る。

 自分だけの問題だけど、ここは親族に頼るのがいいだろう。このタイプは自問自答できない。他人からのアプローチが必要だけど、私では話を聞かないから、他にその役を担う人物が必要だ。となれば、やはり夫であるこの人にしか出来ない。


「私が妻と話そう」

「お任せしていいんですか?」

「ああ、そのぐらいしか出来ないが」

「充分です」


 お礼を伝え、魔法で扉を直して隣人宅をあとにした。

 定期的に行くことと、クラーレを月一行かせることを約束する。彼はオリアーナの父親の件から随分変わり、今や魔法や薬以外で治す方法に理解のある貴重なメディコだ。


「ではまた伺います」

「ああ、ありがとう」

「……」


 さて父親共々、劇的な変化がみられるかは本人達次第。ひとまず私はドアを気持ちよく吹っ飛ばす事が出来たので気持ちがいい。


「チアキ、扉は」

「ああいけない、直さないとね」


 オリアーナがだいぶ私の扱いに慣れてきたことは言及しない。

 そして扉の修理は私が地味に一人でやったことも言及はしない。皆、私に慣れすぎじゃないの?

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