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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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62話 お隣さん、現行犯です

 貴族界隈ではすでに湧いていたので、ジャージから始まるウェアや、ジョギングやストレッチといった運動の広まり方は非常に迅速かつスムーズだった。生産供給が追いつかないので、生産ランニングを早めていかないと、巷で販売するには遅すぎる。


「さて、今日は会えるかな」

「どうでしょうか」

「ゴミ投棄以外にもご了承得なきゃいけないことあるから、なんとしても話をしたい」

「そうですね」


 オリアーナと道中進むのはお隣りさんの家だ。ジャージを手にして、珍しくウェアではなくご令嬢らしい出で立ちで正式訪問。私のこの努力の姿、褒め称えよう。


「あ」

「どうしました、チアキ」

「いるわ、お隣りさん」

「どちらに?」


 屈んで何かしているけど、草が割と茂っている部分を挟んでいるから見えづらい。いやちょっとまて。


「捨ててるな」

「チアキ、どういうことですか?」

「お隣りさんのゴミ投棄現場目撃ですわ」

「それは」

「あ」


 立ち上がった隣人と目があった。明らかにやばいという顔をして走り出したものだから、私も隣人を追いかけるために走る。現行犯の権限って誰にでもあるんだから。


「待って下さい!」

「……」

「チアキ?!」


 やはり無視か。

 けど多少距離があろうとも、運動を普段重ねている私に敵うものではないことをお分かりだろうか。なんて、だいぶ距離を縮め、お隣りさんが家に到着する前に捕まえられると思った時。


「―」

「!」

「チアキ!」


 魔法を放たれた。

 風が起こり宙に浮く。おいおい、かなり力強くやってくれたわ。宙を舞い、後ろに一回転、華麗に着地。


「加点ありだな」

「チアキ?! 無事ですか!?」

「余裕」


 しかしその間にお隣りさんは家の中へ、わかってはいたけどコンコンしたところで出てこない。


「すみませーん、あけてもらえませんかー?」


 当然のことながら音一つない。


「やはり出てこないのですね」

「まあ現場押さえられたらねえ」


 聞こえてはいるだろうから、前フリだけでもしておこう。


「私の領地でやる事でお話があるんですけどー!」

「チアキ」

「明日来るので次は出てくださいねー!」

「それで出てくれるのでしょうか」

「あちら次第だけど、どうかな。だいぶしつこく通ってるから、そろそろ根を上げる頃かなと」


 あちらのゴミ投棄が先だったのは事実だし、こうして訪問し続けても投棄が悪化するわけじゃない。では何が男爵夫人を動かすのか。


「うん、オリアーナ行こう」

「はい」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「あ、皆、私お隣さん家にお届け物してくるから先帰ってていいよ」

「届け物?」

「ジャージ一式、ご夫婦分」

「それならすぐ終わるじゃないの?」

「折角だから待つわ。行ってきて、チアキ」

「うん、わかった。さくっと行ってくる」


 とは言ったものの、ジャージプレゼント以外にお願い事と不法投棄についての言及があった。

 すぐ終わるだろうか。そもそも出てくれるだろうか。傍にはわんこなオリアーナがついてきてくれている。


「夫人が出るとは思えませんが」

「まあチャレンジしてみましょうよ」


 コンコンとね。

 もちろん反応はない。

 二度、三度試す。


「うん、駄目だね」

「やはり昨日のように外に出てる時に会うしかないのでしょうか」

「うーん……じゃ、最後に三三七拍子で攻めてみよう」

「さんさん?」

「リズムの事だよ、聞いて」


 一本締めでもよかったかな?

 特に何にも行事が行われていないけれど。

 順調に三三七拍子でドアノックして、これさーとオリアーナにドヤ顔したら、油断してたのか扉が開いた。


「まさかの」

「チアキ危ない!」

「え」

「―」


 扉が半分開いて夫人が顔を出す、その認識をした時にはすでに魔法が放たれていた。

 お腹に衝撃。これはただの衝撃波、空気を圧迫して爆ぜただけの単純な魔法だ。


「ぐう」

「チアキ!」


 オリアーナが犬として吠える。

 その声に少し距離を置いて待っていた皆の声が上がるのが聞こえた。

 けどそれどころじゃない。踏ん張らないと。扉閉じられたら終わる。


「気合い!」

「チアキ!」


 衝撃波を全て受けきる。

 怯んだ夫人の隙を狙って、ドアに手をかけて閉めないよう足も挟む。


「御機嫌よう、今お時間よろしいでしょうか?」

「ひっ!!」


 以前も眠り魔法を気合いで跳ねのけた経験が生きた。駆け付けたトットにドアを抑えてもらい、夫人に向き合う。


「こっ、来ないで!」

「おっと」

「っ!?」


 魔法を使いそうだったので思わず顎を掴んでしまった。

 エスタジ嬢といい、ここの女性陣の顎は細くて柔いな。いかん、煩悩が。


「魔法使わないでくれます? 私は話をしたいだけなんですけど」

「え、え、」

「了承したとみなします」


 手を離す。

 すると夫人は見事に期待を裏切ってくれた。


「―」

「!」


 ドアに魔法をかけたのかトットが触れていた手がバチッと音を立てた。手を離したその隙に、私を突き放してドアを手に勢いよく閉じてくる。鍵もきっちりかけて。

 

「へえ」


 私を邪険にするならまだしも、トットに魔法を放つとは。王族への抵抗はもはや国家反逆罪だぞ。てかこの美しい顔面見て抵抗しようと思う? 無理。


「チアキ、落ち着いて」

「そうだね、エステル」


 後ろで焦りを見せる雰囲気と左隣にいるトット。

 ああやれやれまったく、話し合いのステージすらのらないのか。


「エステル」

「……チアキ」

「無理」

「おい、待て」

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