60話 お城で王陛下謁見イベント 前編
「……城だ」
「どうしました?」
「いや、城だなと」
「ええ城ですが」
オリアーナが小首を傾げている。
いやいや、海外にも生きた城はあったけど、ファンタジーの城なんてそうリアルで見られないでしょ。
お買い得だな、いつもよりめかし込んだかいがあったわ。これがファンタジーの王道、城だ。
「おおおお」
「チアキ、顔が」
「失礼しました」
リアルなファンタジー城の中は、かつてパソコン画面で見た光景そのもの。入場すれば、ゲーム背景通りだ、すごいぞ。
ありがたいことに、わんこのオリアーナも王への御前前までなら入場可能だった。ゲームの設定ゆるくていいわあ。
「すごいなあ」
「チアキ、顔が緩んでいます」
「王の御前じゃないから許して、無理」
「……」
素敵すぎでしょ、この内装に護衛兵たち。
海外の文化遺産とはまた違う、この独特の柔らかさ。華美なのだろうけど、公爵夫人邸宅とは違い重みがある。これが王一族の歴史か。
いいなあ、トットのルートでたまに王一族の歴史的な話が出てきたことがあったけど、歴史の重みって大事だよねえ、渋み増すわあ。
そうこうしている内にあっという間に目的地に到着。城内ツアーしてほしい。
「じゃ、いってくるね、オリアーナ」
「はい、お気をつけて」
さすがに気を引き締めないといけないのに、ガラッシア公爵ご入場ですとか、なにその王道の台詞。顔ゆるむからやめてほしい。
オリアーナの無言の視線をもらって、きゅっと唇を真一文字に引き締める。というのに、さらなる試練が私を襲った。
「……エ、エステル! トット!」
謁見の間へ入ると、ありきたりな配置。
最奥に王が、その手前にエステルとトットがいるではないか。あああそれはトゥルーエンドルートに入った時の城内イベントで着てた衣装だ!
このイベントでトットはエステルを選ぶんだよ! エステルも王太子と結ばれる決意をするんだよおおお! うわああちょっと待って心の準備できてなかった!
好きイベントなんだよ、城内イベント! 二人とも、輝いてる!! 本当にヒーローとヒロインだった、知ってたけど!
「オリアーナ?」
「!」
「大丈夫か」
「はい、失礼しました」
父に囁かれ、我に返り足を進める。
目線は王だ。
いけないいけない。まさかリアルでイベント衣装見られるとは。
てかもうトット王太子だったの忘れてた。王子そのものだよ。そして隣のエステルの輝きときたら! 候爵令嬢じゃないわ王女だよ王女。今すぐ抱きしめたい、二人ともまとめて抱きしめたい。
「……」
煩悩と戦いながらも、王陛下を見やる。
トットの父親だけあって見事な顔面。イケオジに加え、佇まいの品の良さときたら。これが純粋培養された品性というものか。
私が目指す品性というのは、最終的にここに辿り着くの? 地獄の特訓がさらにハードモードになるんじゃない?
「……」
そして私かしずいてるわけで、いや言葉としてはお辞儀でいいのか?
どっちでもいい、今は心がフィーバーしてるから。だってリアルでそんなことできる日がくるとは思わなかった!
殿とか言ってみたい、目の前王だけど。ああでも王呼びもあり! そんな軽く言える立場じゃないけど!
「……?」
なにやら足音多数離れていくのを感じる。
かしずいてるからわからないけど。程なくして重厚な扉が閉じる音がした。どういうことだろう。
「良いぞ」
「?」
「チアキ頭をあげていい」
いつの間にか近くにきてたトットに声をかけられ、父親ともども顔をあげる。傍には入れないはずのわんこなオリアーナまで入って来てるとは、どういう状況かな。
「おお……」
すごい近くにエステルとトットがいたものだから輝きで眩しい。画面見てるときだって近いけど、リアルにおける破壊力だ桁違いすぎて困る。なんだどうした、ここが楽園か。
「久しぶりだな、ガラッシア公爵」
「王陛下」
「!」
背景でしたと言わんばかりのイケオジがこちらに来ていただと。護衛までいないじゃないか。
しかも王と親しいの、この父親? 随分にこやかですこと。
「すっかり良くなったようだな」
「ああ、心配かけた」
フランクすぎじゃない?
馴れ馴れしくない?
王ってそんな近いの?
そういうタイプの王なの?
それもそれでありだけどね!
「ああ、オリアーナ。久しいな、美しくなった」
「ありがとうございます」
「チアキ、王陛下と父は幼馴染です」
「う、嘘、だろ……」
「?」
「あ、いえ、失礼」
幼馴染だと。しかも今は亡きオリアーナのお母様まじえての幼馴染だ。おいおい、そうきいたらもう脳内は三角関係幼馴染になるよ?
今父親と母親が結ばれてる当たり、恋愛三角関係が展開されたということにしよう。これはなんと王道な。王様の気持ち全然知らないけど、三角関係幼馴染で脳内保管しておこう、そうしようそれがいい。苦しい決断の末に、父親と母親が結ばれ、王は立場もあってか身を引いた……これもいいな。
お互い公言した上で引っ張りだこになる紅一点というのもありだ。ああどれを選んでも最高のルートじゃないか! そんな妄想に力を入れていると、王陛下自ら私に話しかけてきた。
「話は息子から聞いている」
「は、はい」
「君の父親がここまで回復したんだ。そのじゃーじとやらで走ることを、より国に広めたい」
「え?」
「国の後援の上で新事業としてやってほしいという事だ」
「おお?」
出来れば前振りほしかったかな?




