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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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57話 社交界の重鎮からの手紙

「オリアーナ、おはよう」

「エドアルド、おはようございます」


 翌日、遠くから手を振るだけだったエドアルドがこちらに近づいてきて、笑顔で挨拶してくれた。

 まだぎこちなさは残るが、これが出来ただけでも非常にいい傾向。素晴らしい、すぐに成果出せる子はすぐに成長するぞ。


「そうそう、エドアルド早速なんですが」

「何?」

「お誘いです」

「?」


 健全な小首傾げを見られたのっていつぶりだろう、なんておいしい。

 ありがとう、脳内保管の上で心のまま誘える。


「ジョギングのトレーナーになってみません?」

「え?」


 正しいジョギングのやり方を私が伝授して、それを学園内で実践しようという子たちに教えるというものだ。

 同時、準備運動やストレッチ、ヨガに至るまで範囲を広げていく。

 ようは部活動の部長をやりませんか的な提案だ。


「え、僕?」

「うん、オリアーナをずっと支えてくれてる献身さはきっとここにいかせる。ハニーフェイスだし」

「そ、そうかな……」

「うん」

「僕が」


 いきなりの提案に悩むエドアルド。

 父親のように運動に目覚めてないし、経験も浅いしな。あ、そうか経験を埋めればいいのか。


「そしたらまた一緒に走ってみましょうか」

「え?!」

「今日予定は?」

「な、ないけど」

「じゃ、迎えに行きますんで」

「え?!」

「また後で!」

「え?!」


 エステルとトットのところに戻ると生暖かい視線が私を包む。


「ただいま」

「相変わらず強引なのね」

「いや照れますな」

「それがチアキらしさだ。それにしても随分動いているな」

「そうだね」


 急にやる事が増えだしてる気がする。

 最初は父親がある中だの、詐欺かなんかの罪を着せられていただの、親友とは仲違いしてるだの、避けようがないものをクリアするのに必死だった。

 粗方落ち着いてきたかなと思ったら、何故かその分を補うように出てくる何か……何故だ。

 そんなことを考えていると、私達の前にエスタジ嬢が現れた。


「おはよう、エスタジ」

「おはようございますわ。オリアーナ、折り入ってお話が」

「なんですか? てか、ここでいいです?」

「構いません。その、ネウトラーレ侯爵夫人が貴方の所の面妖な衣装で走る事について興味をお持ちだそうで」

「ネウトラーレ侯爵夫人?」


 エステルが「社交界の重鎮よ」と囁く。

 そんな人、ゲーム内にいなかったな。なんだか肩書が凄そうな人だ。


「つきましては、次の休日にネウトラーレ侯爵家へと」


 と、手紙を差し出してきた。

 社交界の重鎮はその辺の爵位のある娘さんを郵便局代わりにするのか。


「専門で配達する人いるのに」

「チアキ、この場合意味合いが違ってくるの」


 エステルが耳元で囁いてるだけで幸せだけど、なにやらこの世界、社交界で力のある者を介して手紙が来るという事は、普段中立である重鎮が貴方を優遇しますよという意味を持つらしい。なんだ、それは。


「優遇されなくていいんですけど」

「チアキ!」

「……オリアーナ?」

「あ、ありがたく頂きます」


 手紙を受け取る。

 ここで断るとエスタジ嬢が慌てるだけだ、もらえるものはひとまずもらうとしよう。

 エスタジ嬢がジャージの件だと言う事からして、運動を推奨するといった内容だろうか。


「くれぐれも、奥方様には粗相のないように」

「オッケー、任せて」

「そういう所ですわ」


 エスタジ嬢が呆れている。エスタジ嬢相手なんだから、もう口調は砕けててもいいじゃないと思うのは私だけか。


「商談と似たようなものでしょう? 問題ないですよ」

「商談! そんなわけないでしょう!」

「ものの例えですって」

「あ、貴方は最近品性が欠けています!」

「それは鋭意努力中です」


 クールな品性を得るために淑女教育は頑張っている。つい心開いてくれた人にはフランクになるけど。

 社交界の重鎮であるネウトラーレ侯爵夫人は私が考えるに恐らく興味本位だと思われる。

 若者の間とはいえ、ジャージでジョギング流行っていたら気にもなるだろう。

 ファッションチェックみたいなものかな。


「そしたらエスタジにもジャージあげるね」

「はい?!」

「ずっとあげようと思ってあげられなかったんだよね。是非お使いください。ちなみに新色」

「え、あ、ありがとう……」

「今日から君も走ろう! そして健康になろう!」

「チアキ……」


 いい仕事したわ、とエスタジ嬢と別れ、手紙の中身を見る。簡単に私宛てに日時場所を指定されているだけ。

 シンプルだ、拝啓に季節の挨拶もなし。仕事の事務連絡でもこんな簡潔じゃないぞ。全く仕方ない、ジャージをワンセット持っていこう。


「エステル、トット」

「何かしら?」

「夫人のスリーサイズわかる?」

「すりーさいず?」

「胸腰回りお尻回りの大きさ、寸法」

「……」

「それをきくのは、どうかと思うぞ」


 笑顔で固まるエステルに、溜息を吐くトット。なんだ、知ってそうなのに。


「お土産で持ってくジャージのサイズのためだよ」

「分かっているわ。それでもそんな直接的にきくのは避けた方がいいわね」

「そっか。淑女たるものスリーサイズはきかないか」

「ええ、そうね」


 淑女教育頑張ります。

 最敬礼してエステルに誠意を見せてるところに、トットが助太刀してくれた。


「……ちなみにそうだな、夫人の容貌はこのような形だ」


 と、トットがさらっと、それはもうさらっと紙に全身像をかいてくれた。めちゃくちゃうまかった。もう画家やんそれ名画でっしゃろレベルで。衣装も高級そうですこと、それを再現できるトットの画力なんなの。それ売ってください、言い値で買おう。


「天は二物を与えたもう」

「これでいいか?」

「充分です」


 そしてそのおかげでサイズがわかるという。

 ナイスアシスト、トット。なんだかんだ優しい。

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