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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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51話 二度目の社交界、告白イベント(過去形/本番)

 オルネッラが好きなことを言うなと言われたしな、ここは黙っておこう。


「彼が好きなのはたぶん、」

「ん?」

「いいえ、なんでもないわ。だから私は今ソラーレ侯爵令息に対しては特に」

「ふうん」

「ああ、でも貴方がそう言ってくれるなら、かつての想いを伝えるのもいいわね」

「なん、だと?」


 なんてことだ、告白イベント(過去形/本番)が起きるの!?

 是非お願いします!


「そうそう、思った時に伝えるのがいいと思う! すっきりするよ!」

「ええ、そうね。やってみようかしら」

「ぜひ!!」


 意気揚々と二人で別室を後にして足早に会場へ戻った。

 やっと私の願いが!

 美人が美人に告白するイベントをこの目で見届けるイベントが達成される!


「ディエゴはバルコニーだね」

「ええ……私やるわ!」

「その意気だー!」

「チアキ」

「ひえ」


 焚きつけてる私の背後で、いつもよりやや低めの透き通る声が私にかかる。これは私を戒める時というか、地獄の特訓でよく聴いた声。


「な、なんでしょうか」

「立ち会いは不要でしょう?」


 なんで知っているの。

 そうこうしている内にエスタジ譲は真っ直ぐ階段を上ってバルコニーへ向かっている。

 お、追いかけたい。


「チアキの考える事は大体分かってきたわ。それにあのエスタジ嬢の様子で」

「左様で御座いますか」

「覗き見するのはいかがなものかと」

「ソウデスネ」


 さようなら、私の告白イベント(過去形/本番)。

 しょんぼりしていると、トットが私とエステル分のシャンパンを持ってきてくれた。ここは美味しいお酒でカバーしよう。


「ありがとう、トット」

「いや、こちらとしても助かったところだ」

「ああ、叔父様の件ね」


 やっと同行願えたんだ、トットからすれば治安の関係からありがたい話だろう。

 しかしまあ父親の耳に入ったらどうなるか。オリアーナもこれ以上は何かやり返す気はないみたいだし。


「トット」

「どうした」

「もちろんこの国の法に則って進めてくれていいんだけど」

「ああ」


 この国は爵位のある者に対して優遇制度がまだ現存している。

 そして殺人未遂に関しては、オリアーナはともかくとして、父親がなんて言うかで加減が大きく変わるだろう。

 それでも私は構わないと思っている。

 オリアーナがあの時、落ちる叔父を助けたから。


「オリアーナの父親が何か言ってきたら、きいてあげてね」

「わかった。こちらとしても国境の事もある。恐らくチアキの考える程の重罪にはならないぞ」

「いいよ、もう充分私はボコボコにしたから」

「ぼこぼこ?」

「こらしめたって事」


 そうこうしている内に、エスタジ嬢がバルコニーを後にして戻ってきた。

 顔つきがさっぱりしている。そして泣きそうな顔でもあった。


「お疲れ様」


 手を伸ばせば、彼女は驚いて目を丸くして、次にぽろっと涙をこぼして笑った。

 ああ美人は涙流すのも美しいなんて反則なんじゃないの。

 脳内で告白シーンを疑似再生して楽しもう。あと少しで見られたであろう素晴らしい告白シーン(過去形/本番)を。


「ありがとう、すっきりしましたわ」

「そう、お酒でも飲みなよ」

「ええ」


 ディエゴが断る以前に、昔好きでしたと言うだけで済んでいる。

 けれどエスタジ譲の中で、確かに彼を好きだった時があった。ディエゴの想いを乗り越えて新しく恋を見つけられてる今、彼女はもう大丈夫。

 うん、実にいい話で、いいまとまり方をしている。


「彼に好きな人をきいたわ」

「応えてくれたの?」

「ええ。私の予想通りだったわ」

「そっか」


 ふふと笑う様は実に少女らしい。

 というか、完全にデレしかないな、今日のエスタジ嬢。

 ありがとうございます。心の中で合掌だ。


「私は貴方に感謝しなければいけない事と、謝らなければいけない事が沢山あるわね」

「もうそれはいいよ」

「いいえ、私貴方にまだひどい事を……」

「ん?」

「オリアーナ」

「ああ、エドアルド」


 エスタジ嬢といちゃついていたら、エドアルドがやってきた。そういえば、挨拶もまだだったか。


「エドアルド。ごめんなさい、挨拶もしてなくて」

「いや、いいんだ」


 やっぱりまだ疲れてる。


「やっぱり君はオリアーナじゃないんだね」

「え!?」


 おおおお?! この社交界という場で、それを追及しないでほしいよ。

 この子、本当敏感だからすぐ気づきそうだし。

 いや、気づいているの? だから言いに来たの?!


「いや、ごめん。そんな事を言いに来たんじゃないんだ」

「あえ、そ、そうです、か」


 なら安心、いや安心じゃない。エドアルドの体調がよくないし、ちょっとなんで今日来たのか。


「エドアルド、休んだ方がいいんじゃないですか? それか帰るか……」

「あ、ああ。そうだね。うん、そうするよ」


 この子、消えそう。

 大丈夫じゃないぞ、本当何があった。

 いや、私か?

 私がオリアーナらしくクールに振る舞えてないから?

 別人と疑われて、それで悩んでいるなら、これはもう私が追い詰められている。


「うん、ありがとうオリアーナ」

「え、あ、はい」

「また学園で」


 ふらつきながら帰る様は、もうどうしたらいいのか。

 クールに至るまではまだ時間かかるから、それまでにエドアルドが倒れてしまいそうだよ。


「エステル」

「何?」

「淑女教育にさらに力を」

「チアキ、たぶんそこではないわ」

「え、そうなの?」

「恐らく」

「……他の要因が?」

「ええ」


 少し時間を頂戴と、エステルが言った。

 よしお任せしよう。

 その間に、淑女レッスンを深める方向にして、同時にせめていく流れにすればいい。


「いつもすまないねえ」

「えっと、その時は確か……“それは言わない約束でしょ”でよかったかしら?」

「エステル、正解」


 かの侯爵令嬢に、古いネタまで仕込んでしまったよ。

 けど律儀に答えてくれるエステル好き。

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