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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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49話 二度目の社交界、エスタジ譲とご対面

 わんこなオリアーナが魔法を使って叔父の落下を防いでいた。

 宙に浮く叔父は意識を飛ばし失神している。小物だな、たかだか二階なのに。ゆっくり芝生におろしたところで、そこにトットとエステルが現れ、こちらを見上げた。

 にこやかに手を振ってみる。


「やっほー」

「……話は聞いていた」

「うん」

「こちらで身を預かる形で問題ないな?」

「よろしく」

「チアキったら」

「えへへ、ごめんね。我慢出来なくて」


 叔父が軽い失神から意識を覚醒させて、周囲に王室警備隊とトットがいたことで逃げられないと悟り肩を落とす。

 この十年オリアーナが苦しんだ事が、こうも瞬間的に終わってしまう。いっそ十年スパンでやり返すぐらいの気持ちでいた方が良かったのかな。


「御同行頂けますね」

「……ああ」


 叔父が去っていく。

 オリアーナの望んだことが第三者機関にお願いする事なら、それもまた一つの答えか。


「どういうことだ」


 事態を把握できないディエゴが私を見上げる。

 軽い足取りで柵からおりていつも通りの対応だ。


「オリアーナと父親の殺人未遂と資金詐欺と社交界孤立は全て叔父が仕組んだことでした→証拠を掴む→自供させる→連行イマココみたいな」

「あんな荒い方法で自白させたのか」

「うん」


 ツッコミないのは余裕がないからかな。

 引き気味なのは仕方ないとしても、私は叔父に対して殺人未遂までは至ってない。


「……誤解を招くぞ」


 溜息ついてる。

 あれ、でもまった、それって。


「心配してくれてるの?」

「え! あ、いや、そういうことでは、」


 デレきたぞ。

 みなさーん! デレが! きましたよー!


「心配してくれてありがとう」

「!」


 おーおー、照れてる照れてる。

 可愛いな。


「さて、まあこれからか」

「何がだ?」

「あんなに下がざわついてるから」

「ああ」


 バルコニーから中に入れば、階下の会場が相当ざわついているのがわかる。

 社交界で逮捕者出たなんてスキャンダルだろう。しかも初めの侵入者の件とは種が違う。


「あー、行くかー」

「待て、どうする気だ」


 階下へ続く階段へ移動すれば、ディエゴが後からついて来る。


「皆驚いてるでしょ? オリアーナは清廉潔白であることを証明しにいくの」

「どうするんだ」

「簡単だよ」

「え?」

「胸を張って会場に戻るだけ」


 ディエゴが一瞬動きを止める。

 やっと納得したか。


 彼から視線を外し、階段をおりる。

 有言実行、堂々とだ。

 すると視線は全てこちらにくる。

 階下にはエステルがすでに待ち構えていた。


「チアキ、大丈夫ね?」

「もちろん」

「待て」


 ディエゴがまだ追いかけてた。

 そこにエステルが間に入る。


「少しだけ、お待ち頂けますか?」

「しかしグァリジョーネ候爵令嬢」

「これはオリアーナ嬢の問題です」

「……」


 とてつもない美人が凄むと恐怖割り増しだよね。

 しかもエステルは日常でそう圧をかけない。

 常に聖母だから、こんな姿しょっちゅう見る事は滅多にない。

 いいなディエゴ、羨ましいぞ。

 この状況じゃなければ、そこを変わってほしい。


「ガラッシア公爵令嬢」

「はい」


 最初に話しかけてきたのは、身分順だろうか総司令からだった。


「先程君の叔父、アッタッカメント辺境伯がバルコニーから落下したが」

「ええ」

「彼が王室警備に連れていかれたと」

「はい」

「ではやはり、今までの経緯は真実ではなかったのか」


 経緯? 噂の事でいいのかな?

 すると副指令がでてくる。


「君がアッタッカメント辺境伯の資金を奪い事業を低迷させた事や、社交界にまつわる醜聞だ」

「全て嘘です」

「やはりか」


 分かってたのか、二人して納得です~みたいなリアクションしている。知ってて、こちらを観察して見極めていたのか。

 けどこの二人、相当影響力があるようだ。周りの雰囲気が一気に変わった。

 けども。


「いいえ、納得できませんわ!」


 そこに高らかに響く声。

 ここでそんな声あげられるなんて勇気あるね。


「エスタジ嬢」

「貴方が私の家族を危機に追いやり、私の当時の婚約者を奪っていた事と、アッタッカメント辺境伯が何の関係があるというのです!」

「だから噂だと」

「ソラーレ候爵令息にまで色目を使って何を言うのです!」


 色目とは。

 ツンデレを堪能はしてたけど、十八禁の展開はどこにもない。


「てかディエゴはオル」

「待て!」

「おっふ」

「言うなよ」


 いけないいけない、さすがに好きな人暴露は失礼だったな。

 十年もこじらせてましたと公表されるのは辛いところだろう。


「まあディエゴのことは置いておきましょう」

「何を」

「それよりも、その話。そもそもオリアーナに事実確認してませんよね?」

「それは、」

「元婚約者殿にだって聞いてないですよね?」

「それは、」

「もう一度言いますね。自分で真実確かめてないですよね?」


 例えば、その話を聴いた時、私ならトットやエステルといった私よりもその業界に詳しい人に話を振るし、場合によっては調べてもらう。

 本人に直接きくのもしてほしいところだけど、これは個人の個性にもよるからな。どちらにしろ一所の情報だけにとらわれず、思考して他の情報も仕入れて精査しないと。

 エスタジ嬢は素直なのだろう、すべて鵜呑みにしているようだ。裏をとるということを知った方がいいと思う。


「エスタジ嬢のとこのお父様お母様に直接確認されたらいかがです?」

「え、な」

「貴方から見ても夫婦仲がおかしいと思った時があったのでしょう?」

「きけるわけがないでしょう!」


 そっかーそうだよねー。繊細な子だなエスタジ嬢。


「ではオリアーナの話を聴いて、社交界でその話を出した時、知る者がいましたか?」

「え……」

「皆、初めてきいたわーといった反応だったのでは?」

「それは、」


 図星だろうね。

 エステル調べでは、この噂はエスタジ嬢からきている。そしてエスタジ嬢に話を吹き込んだのは、叔父が金で買い付けた男爵家だ。


「た、たとえ、それが貴方の言う通りだとしても、オルネッラ嬢のことはどうなのです!? 貴方が自身の母を死に追いやり、姉を眠らせ続けてるのではありませんか!」

「あれは事故です」

「嘘を、」

「事故ではない事を今の段階では誰も証明できませんよ」

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