46話 二度目の社交界、仕掛けられる
「チアキ、この前の事故の件だ」
「ありがとう、トット。仕事早いね~」
「しかし、君の叔父上は次から次へと話題に尽きない」
そして地方自治について考えさせられるとトット。
この前の路地裏の件といい、彼の預かり知らぬ国のことを知り、より変えていこうという気になったらしい。さすがヒーロー、もう国の長の思考でいる。
「真面目で勤勉、ただし他者には厳しめで神経質って感じかな」
「そうだな、こちらで把握している性質は概ねそのような形だ」
その性格のすぎた結果が過失の殺人なんて笑えない。
「チアキとガラッシア公爵が無事で本当よかったわ」
「エステル心配いらないよ。最悪私が馬車にぶつかればいい」
「さすがにそれは危ないわ」
「重力差の影響で、まだスーパーマンなんだって」
「ステッラベッラ嬢が言いたいのはそういうことではないかと……」
目の当たりにしてたオリアーナですら助け舟を出さないなんて。
今の私ならあの時、父親を抱えたまま馬車より高く飛べたのではと思っている。普通にかばうだけしか出来なかったからな。
「イメトレが足りなかったかな?」
「いめとれ?」
「現実で実現するための練習を頭の中で想像して行うこと。イメージトレーニングの略」
「相変わらず面白い言葉を使っているな」
他国言語を学ぶ感覚でトットは吸収していく。挙げ句ヒーロー特典スキルで吸収スピードが段違いだ。というか、一回言えば覚えてしまう。怖いわ、キャラ設定。
「チアキ、エスタジ嬢のことなんだけど」
「ああ、何か分かった?」
件の社交界翌日に、フォローという形でエステルがエスタジ嬢に接触し、うまいことしてくれたのは記憶に新しい。
エスタジ嬢はまだまだツン状態。デレに持ち込むには何かのイベントが必要だから、社交界に顔のきくエステルにお願いして、今の状況に至った情報を調べてもらってたっけ。
「エスタジ嬢から直接はきいてないわ。あくまで社交界で話されてるオリアーナ嬢のこと」
「オッケー、どぞー」
いわく、エスタジ嬢と仲良くする傍ら、オリアーナがエスタジ嬢のお父さんと関係を持ち離縁の危機に追いやったとか、他の夫婦を離縁にさせたとか仕様のない話が出回った。それに加え、オリアーナはエスタジ嬢の当時の恋人を横恋慕したというのだ。その人物とはオリアーナとは当然何もないし、今はエスタジ嬢とも別れている。挙げ句エスタジ嬢が次に好意を寄せた相手がディエゴだった。そのディエゴをまたしてもオリアーナが横恋慕しようとしてるとかしてないとか。
「ディエゴが好きなのはオルネッラだよ」
「そうなの」
「うん、自分から言った。非常においしかったです」
「そう、随分事実と違う方向に進んでるわね」
エステルにスルーされるあたり、だいぶ彼女は私に慣れたと思う。
初めの時はなー、おいしいって? って意味きいてくれたのになー。
「オリアーナ、横恋慕してないんでしょ?」
「はい」
「なんでそんな噂でたよ」
その出所が笑えることに叔父だった。トットとエステルの力すごいなー。
そしてこの叔父、とことんオリアーナ追い詰めようとしている。となると、エスタジ嬢のはただの誤解で嫉妬。
「いつの時代も恋だの愛だのは人の関係を壊すねえ」
「チアキ?」
「サークルクラッシャー的な」
「え?」
叔父の動機は簡単だ。
ガラッシア家の衰退、もっと根本はガラッシア家事業を失敗に陥れる。その目的のためにオリアーナの友人関係にまで手を出して……いい度胸だ。
「ふむ、もう一度会うか」
「チアキ?」
「ねえ、次の社交界行きたいんだけど」
軽めに提案してみると、オリアーナがやや引き気味に応えた。
「よく行こうと思いますね……」
「オリアーナ、社交界は叔父やエスタジ嬢に会うのに手っ取り早いんだよ」
あれ以来、淑女教育も魔法訓練も欠かさずしている。
前のボーダーを超えているなら、社交界へ行っても問題ないはずだ。
「けれど以前のような事になると、それはそれで心配だわ」
「それは保証できない」
「チアキ」
「沸点がねー、低いといいますか」
父親の時もエスタジ嬢の時も、ついついやり返してしまったかな。
叔父と教授ぐらいか、言葉でおさまったのは。それでもオリアーナのクールキャラはさよならしてたけど。
「叔父にはもう一度ぐらいは会わないと」
「解決してないと?」
「釘を刺した程度だよ。第一ラウンドが中途半端に切られた感じ」
「……私達と共に過ごすのを前提でなら、社交界に出向くのも良いかしら」
「ではそちらでよろしくお願いします」
こうなってくると叔父をぼこぼこにしないと気が済まないところもあるが、頑張って気持ちを抑えて社交界にいくとしよう。
エスタジ嬢は粘れば誤解も解けるかとは思う。なにせ事実とは異なるのだから。
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「さて着いたね」
「チアキ、楽しそうね」
「おうとも」
「チアキ、顔が」
「おっと」
オリアーナに注意され気を引締める。
オリアーナには変わらず庭に待機してもらうがそこは仕方ない。
「まだいないか」
「今日は来るはずだ、安心していい」
「えーと、国境警備の総司令が来るんだっけ?」
「ああ、海上保安の副司令もいらっしゃる」
「オッケー」
共に流通業には欠かせない王室管理系の重役、挙げ句辺境伯である叔父には重要人物中の重要人物だろう。あの営業大好きの叔父が来ないわけがない。
「まあ、まだ人あまりいないしね」
「早くに来たからな」
どこかの世界的なお姫様アニメの城で出てくるような大きな階段を昇る。これで会場入ったらまた階段おりるんだから、不思議な造りだよな。
「おお」
前を歩くトットとエステルの後ろ姿が輝いてたわ。いけないいけない、この二人全方位で眩しいんだった。
そして事は面子が揃っていないのに起きた。癒されながら階段を登り切ろうという時、右腕を掴まれる。
「お?」
同時後ろに引かれる。
油断してたから踏ん張れない。
というか、この力……強化かなにかしてるな。
腕に後残ったら、どうしてくれる。オリアーナの身体なんだぞ。
「チアキ?」
察しのいいエステルが振り向いて落ちていく私を見とめた。
その彼女の背後を走り去る一人の男を視認し、トットが素早く指示をだした。
んー、知らない顔だな。
「チアキ!」
引かれた影響で半身捻って視線が外れる。
階段を転がり落ちる。
のは、舞台女優でもないのでちょっとな。ええい、やるしかないか。
「ままよ!」




