45話 ツンデレの告白イベント(練習) 四 後編
「仕方ない。私達も準備しようか」
「はい」
「はまりすぎも盲目になるからねえ。良さを分かち合いたいのはわかる」
「……父は男子を欲しがっていたのもありますから尚更でしょう」
「ああキャッチボールしたいとかいうやつか」
「きゃっちぼーる?」
「今度教えるよ。こんな丸い球状の物を投げ合うんだよ」
「そうですか」
ランニングウェアに着替えて玄関で待っていると、程なくして父親とディエゴがやってきた。
最新の紳士用ジャージを身にして神妙な面持ちでいる。そして私を見て気まずそうに目をそらした。
「丁度一つ予備があったよ」
「なによりです」
「それは差し上げよう」
「公爵、それはあまりにも」
「もらっておきなよ」
「しかし」
「今の父に言ってもきかないから」
「……」
「さあ行こう!」
様子を見て諦めたようだ。
小さく息をついて、よく似ているなと言われた。確かにこの父親、オタク気質だから方向性によっては気が合いそう。
「では軽くで距離は短めかな?」
「そうですね、お父様」
覚えていたのか。初心者は最初から無理しない。これは鉄則。
「ディエゴ、どう?」
「問題ない」
走りながら様子を見るが、父親のようにアル中でもなく、若さと体力にあふれているからか、問題なくついて来ている。そして、私を見やりすぐに目をそらす。
「どうしたの?」
「いや、その、服装、」
「ジャージ?」
「違う」
「チアキのランニングウェアのことかと」
「ああ、私の?」
「……」
オリアーナ、ナイスアシスト。
そんな目をそらすもの?
オリアーナの身体はモデル体型で八頭身なのに?
「この世界では身体の線がでる服を着る事がありません」
ああそういう。
ん?てことは。
「目のやり場に困る?」
「……言わせるなよ」
「うっふう」
「?」
可愛いかよ。
ツンデレめ、破壊力がすごい。うっかり油断していた、そうだ、この人ツンデレなんだ。
「チアキ、顔が」
オリアーナはわかっているようで呆れている。
すみません、顔戻せない。
「なんだ、その顔は」
見られていた。
仕方ない、これは仕方ないんだ。
いやでもまって。
「目のやり場に困るのに、しっかり見てるんですね」
「!」
からかえば途端顔を赤くして目をそらす。ひいひいするわ。
「今日はおいしくお酒が飲めそうです」
「どういうことだ?」
「ものの例え」
「本当によくわからないな」
「そろそろ折り返すぞ!」
「はい、お父様」
なんだかんだディエゴが問題なく付いて来てたので、長く走っていた。
いつものコースの曲がり角、馬車通りを横目に帰路を進む。父親がディエゴに絡みつつ走っているのを見て、すっかりジョギングに慣れたなと感心する。
道の向こうを見やれば、学園から帰るであろう馬車がいくつか見えた。そうか、勉強してる子もまだいるか。
「オリアーナ?」
「あ、失礼」
スピードダウンしてたらしく、すぐに追いつく。馬車見てましたと素直に言えば、よそ見に気をつけろとディエゴに言われる。割と心配性だな。
「よく走り切れたね」
「……なかなかだった」
少し息を切らせる程度とは、素晴らしい基礎体力だ。父はヘロヘロだったのに。
「次来る時も是非走ろう」
父は意気揚々と戻って行った。
着替えはいいと断り、制服を渡して馬車に入りディエゴは去って行った。馬車の中で着替えるのかな?
まあ、あのノリの父親と一緒にいたら夕飯まで誘われそうだし、そこは彼としては避けたいところなのだろう。
「……少し心配かな」
「彼ですか?」
「いや父親」
「何故?」
「あまりに調子が良すぎると、気持ちが落ちる可能性がある」
「そうですか……」
「メイド長さんと執事長さんにお願いしよう」
その夜のストレッチは問題なかった。
この数日よく見てもらうことで、父は落ちることなく日々をすごせたことは、やはり周りの助けがあってこそだとしみじみ実感する。
後はもう少し逃げ道を作っておかないとかな。ジョギング、ヨガ、ストレッチ、仕事、読書、食事ぐらいしかない。もう少し娯楽という趣味が増えれば、より今後のアルコール依存症を防ぐ手立てになるだろう。




