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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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43話 違和感が二つ

 クラーレが事故について掘り下げたくないのは知られたくない何かがある、と考えると今までの違和感も頷ける。


「ありがとう、クラーレ」

「ええ、先日は問題なかったようで何よりです」


 墓参りと事故現場への献花の報告をし、父親の心理面の確認をしてるのを見るが変わらず。ゆっくりやりましょうという言葉が交わされる。確かに時間はかかりそうだし、顔色や震えを見たかぎりでは私もクラーレと同意見だ。


「あの、伺いたいことが」

「はい、お嬢様」

「姉への治癒魔法で脳のダメージに効果的なものはありますか?」

「それは」

「姉には目立った外傷はなく、眠り続けたままです。もしアプローチするなら脳への治療かと思ったのですが」


 脳死や植物状態という概念がこの世界にはない。魔法で治せるものが多いから。

 この世界の書物にも私の世界では治せないような病を、呪文一つで治せると書いてあるのだから、乙女ゲームはファンタジーだ。


「そういう魔法があると聞きまして」

「そう、でしたか……」

「オリアーナ、最初の治療でクラーレが最善を尽くしているんだ。今更、」

「今更?」

「あぁ、今同じ事をしても効果はないだろう?」


 いくらなんでもそれは聞き捨てならない。今更ってなんだ。効果がないと誰が決めた?


「今やらなくてどうするんですか? オルネッラは生きているのに?」

「オリアーナ、それは」

「現状維持では何も変わりません。貴方方はオルネッラに目覚めてほしくないんですか?」

「そんなわけないだろう!」

「なら今できる最善を尽くしなさい」


 父親が唸る。よかった、まだ自分の娘に想いはあるらしい。

 けど問題はクラーレだ。さっきから全く話そうとしない。表情もかたく、少し目が泳いでるようにも見えた。


「クラーレ、やれるかやれないか。応えてもらえますか?」

「……」

「クラーレ、私からも頼む」

「……」


 目を瞑り、息を浅くはいて、苦々しく口を開いた。


「お嬢様の仰る魔法はあります。ですが……私には出来ません」

「何故?」

「元々王室お抱えメディコの練度でなければ成し得ない高度な魔法です。私は運よく学生時代に王室メディコの研修に行く事が出来たので知り得てました」


 だから教授はクラーレが優秀だと言うのか。たぶんその研修は特待生とか一定の用件がないと行けないものだろう。


「あの時、私も試してはみたのです。ですが結果はご覧の通り……失敗し、オルネッラお嬢様は起きるどころか眠り続けることになりました」

「クラーレ」

「オリアーナお嬢様の仰ることもわかります。しかし私にはまだその魔法を使うことは出来ません。使いたくないのです」


 医者も手術で失敗し、執刀できなくなる話を聞いたことがある。クラーレは震える声で、せめてもの罪滅ぼしでオルネッラの現在の治療にあたっていると言う。父はその姿に感動したのか優しい言葉をかけている。


「チアキ?」

「……」


 が、気になる。

 ひっかかる。


「クラーレ、気にすることはない。よくやってくれているんだ。さあ今日はもう帰るといい」

「はい」


 黙って見送る事にしたが、結果的に何も前に進んでいない。

 オルネッラの目覚めを諦めるなんて選択肢は考えていないし、クラーレへの違和感をどう考えていけばいいか。


 私が納得できていないのは、オルネッラをどうして王室メディコへ診せないかだ。専属制度があったとしてもこちらは公爵家、専属は王室への研修経験もある。無碍に王室が治療を拒否するとも思えない。


「……ふむ」


 これはまだまだ追求できそうだな。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



 オルネッラのことはさておき、学園では学園で心配になる子がいる。


「エドアルド?」

「ああ、オリアーナ。おはよう」


 疲れているように見える。さすがにここまでくると私も癒しを超えて心配する。


「大丈夫、じゃないですね……」

「心配してくれてるの?」


 力無く笑って、いつもと逆だねといってくる。

 私が来るまで、エドアルドはオリアーナを支えてくれてたのだろう。周りの噂に左右されず寄り添ってくれる人は貴重だ。だからこそ今のエドアルドは気になる。


「エドアルド、私でよければ話聞くけど?」

「うん、大丈夫。オリアーナは?」

「え?」


 ここに来て辛いことないかとか、こちらを気遣う言葉ばかりが並ぶ。


「私は大丈夫なので自分を」

「オリアーナ、僕は何があってもオリアーナの味方だよ。オリアーナは?」

「はい?」


 逆にきかれちゃったよ。

 時と場合によるからな。今までの善行を考えれば彼がボコボコの対象になるとは思えないけど。


「僕が、君に嘘ついてたとしても……」

「嘘ついてるの?」

「いやその、例えばで」

「うーん、内容によるけど」

「……そう」


 そうだよねと視線を落とす。このままだと消えかねない勢いだな。


「けどね」

「?」

「少なくてもオリアーナは貴方に感謝してるし味方だとは思うの」

「感謝?」

「そう。ずっと独りじゃなかったのはエドアルドのおかげだと」


 彼は先程よりまともに笑ってみせた。うん、そっちのがいいね。


「そういう話の前にエドアルドは休むことからだね」

「え?」

「オリアーナを気遣うのはいいんだけど、まず最初は自分を労らないと」


 散々オリアーナに無理して来なくていいとか言ってたんで、今ここでお返ししようその言葉。


「無理せず休みなよ。まずはよく寝ておいしいご飯食べて、そこで幸せ感じればいいんじゃないかな」

「……そっか」

「その後でいいので、私はできれば元気で満面の笑顔のエドアルドが見たい」

「うん、わかった」


 相変わらず力はなかったけど、私の言葉は少しは伝わったらしく、お礼を言って去って行った。まさかあの顔色でこの後の講義でるわけないと思う。


「チアキ?」

「どうかしたのか?」


 エドアルドの背中がまだ見える所、でトットとエステルがやって来る。


「いや、エドアルドが元気ないなーって」


 確かに今日は覇気がなかったと語る二人。何気なく彼彼女は周りの人々の機微をよく見ている。国をおさめる者とそのお相手なだけありますなあ、将来この国は安泰だよ。


「何かあった?」

「いえ、私は何も聞いてないわ」

「俺も特段聞いていないな。彼の家にも問題はなかったはずだ」


 そうしたら、エドアルド自身で解決しないとだめか。感情に落とし前を付けて戻って来るのを待とう。


「調べとくか?」

「ううん、今回はいいよ」

「そうか」


 相変わらず優しいですねえ。しかしもはや探偵屋さんだよ、トット。君の設定はパーフェクトヒーローなのに。探偵屋にジョブチェンジは必要ないよ。


「ま、様子見かな」

「オリアーナ」

「?」


 別のところから話しかけられると思えば、ディエゴが馬車からおりてきた。

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