40話 時間切れ
「オリアーナ」
「おっと時間切れか」
父に名を呼ばれ顔を向ければ、自治の長と話を終えた父親が手招きをしている。
まあ今日の妨害行為について真相という証拠が掴めてない今は、これ以上つついても先に進めない。
「いいでしょう。叔父様、今日はこちらで失礼します」
「ああ……」
父親からは私達の会話は聞こえない程度で話していたので、後は丁寧な所作で別れの挨拶をこなす。最後、笑顔のままで叔父を見上げた。
「叔父様が何を思っているかは分かりません」
「……」
ライバルである父親に嫉妬したとか、ただ自分だけが利益を独り占めしたかったのか、動機はいくらでも推測できるがどれも正解かは知れない。本人にしか分からないから。
「ただ父は貴方の事を良く思っています。大事な妻の親族で、仕事の話も出来、互いに切磋琢磨している頼もしい親友だとも言っていました」
父から叔父の話を聞いたとき、父は叔父に対して好ましい思いしかなかった。それは本音であると感じる程度に。
妻と一緒になれたのは彼のおかげだとか、流通業について知識を深められたのは彼のおかげだとか、彼が国境や海里管轄をしているから自分達が快く事業展開出来るのだと。となると、推測の範囲では叔父が一方的な確執を持ってやらかしたと考えることができる。
「これからも良き関係でいられるよう願っております」
さて前文については語った。
ここから本文へいくにあたり、どう転ぶか。
「どうした、オリアーナ」
「いいえ、お忙しい叔父様と久しぶりにゆっくり話せましたので嬉しくて」
「そうか」
さすがに父がここまで回復したとなれば、以前の資金の詐欺紛いな事はしてこないと思うけど、念の為用心しておこう。今の叔父が父にオリアーナのことについて、あることないこと吹聴するようには見えない。
それ以前に、父親のオリアーナへの信頼度があがってきている。
叔父の事を話す時、以前の借入金に至った経緯については、きちんと父親と話をつけているし、父は真実を確信とまではいかないが把握していた。それでも父は叔父を信頼しているのだから、本当に素直な人間だ。今日命狙ってきたけど。
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「ふむ、どこかで休もうかと思ったが、時間も少し押しているな」
「ではそのまま向かいますか?」
「そうするとしよう」
馬車に乗り、いよいよ現場と墓参りだ。墓参り後に現場に献花して終わる。
父親の調子を見る限り疲れもなく、顔色や顔つきも問題ない。
いけるかな。
「あ」
「どうした」
「失礼」
馬車の小窓を開ける。
見知った人がいた。
「ディエゴ」
「!」
さすが、私のイケメンセンサー。
たぶんここに推しであるトットやエステルがいて、仮に誰も気づかなくても私は気づく自信がある。
それはもちろん関わった他のイケメンや美女も同じだ。
よってディエゴはセンサーにかかる。
「オリアーナ、降りるか」
「いいえ、その必要はありません」
父が馬車を止め、小窓ではなく馬車の扉を開けた。
しかしディエゴが丁重に断ってくる。
折角だからおりて話しても良かったけど、これが通常のツン言動だと思えばおいしいものだ。
「ガラッシア公爵殿」
「ソラーレ侯爵令息か」
「日々お嬢様にはお世話になっております」
「いや、畏まる必要はない。君の家の方が立場は上だ」
爵位制度って何が一番偉いんだっけ?
そこまで知識ないんだよな。ときめきの為に調べた過去の知識を呼び起こさねば。
というより王都に来ていると言う事は、彼も事業か何かか。
経済の中心は、どの世界をとっても中心都市、王都に集まってくる。
「公爵殿は商談ですか」
「ああ。それは終わり、今から他に向かう所があってな」
「それは、お引き止めして失礼を」
「いや、オリアーナが君を見つけて声を駆けたんだ。なあ、オリアーナ?」
「あ、そうそう。今日これから用事あるんですけど、私がいなくても姉に会えるように話通してあるんで好きな時にお越しください」
「いや、さすがにそれは…」
渋られた。
確かに告白練習現場は見たいから、私の不在の間に来られるのは残念でしかない。けど拗らせを解消するにはひたすら積み重ねだと思ってるし、じゃんじゃん来てほしい。そしてあわよくば立ちあいを許可してほしい。
本人から正式に見ていいとなれば、オリアーナも覗き扱いはしないはずだ。私に美女に告白をするイケメンというときめきをください。
「そうですか、明日は一日あいてるので」
「わかった」
律儀だなディエゴ。
彼と別れ馬車を走らせながら、父が珍しそうな視線を彼にむけていた。
「ソラーレ侯爵家の嫡男は人嫌いと聞いていたが、なかなか礼儀正しい良い青年だな」
「そうですか」
そう見えるのか。
ツンデレのツンが礼儀正しく見えるというのは初耳。もっとよく見ておこう。
「お父様、お時間とらせてすみません」
「問題ない。ゆっくり行くとしよう」
そうして馬車はオリアーナの母であり、目の前の人物の妻が眠る墓地へと進んで行く。
心無しか、近づくにつれ父の言葉数は減っていった。




