34話 ツンデレの告白イベント(練習) 三
「お嬢様」
「ただいま、アンナさん」
「お客様がお待ちです」
「誰ですか?」
「ディエゴ・ルチェ・ソラーレ様です」
「わお」
ディエゴが来るなんて。
いいとこで週一、来週末に来るかと思ったら今週中に来たよ。
彼の行動力が加速している。もはやシャイボーイとはさようならだ。ツンデレは譲らないけど。
「いらっしゃい」
「遅い時間にすまない」
「大丈夫、ですよ?」
学園終わりの放課後なら事業収支の確認がなければ時間は割とあいているし、その事業収支は今や父も確認しているから以前ほど私の出番はなく、夕餉までは自由だったりする。夜分遅くでもないから、気にしなくてもいいとは思うけど。
「終われば、すぐ帰る」
「そんな気にしなくても」
オルネッラの部屋へ案内し、アンナさんにお茶を用意してもらう。
前回と同じく花束を用意してだ。学園で講義を受けた後、買ってきた? 事前に準備していたとしてもマメだな。
「よく来たね」
「そうだな……何故だろうな」
顔を見たくなったとか、真面目に告白の練習をしようと思ったのか、そのあたりはよくわからないけど来たことは純粋に褒められることだろう。習慣化するまで時間は必要だけど。
「あ、お花はいらないよ?」
お気になさらずと添えると、だが、と、もそもそ抵抗する。
「この部屋をお花畑にするなら話は別だけど、講義後で少ししかいないなら気にする必要ないし。もちろん花以外もいらないよ?」
「お花畑……」
「気にするなら、せめて週一の休日に限るにしようよ」
「……善処する」
この世界のマナーなのか。
花は好きだからもらえる分には嬉しいけど、この習慣が毎日になったら彼のお花負担代が大変だろう。
家柄的にも金銭には困ってないだろうけど、数時間もいないのにもらってもという話だし、かといって他のもの持ってこられても困る。
「私はディエゴがちゃんと練習しに来てくれるだけで嬉しいけど」
「そ、それは、」
来てくれるだけでいいよという意味で伝えた言葉は、彼にとって驚きの言葉だったらしい。私から見ても分かるくらい目を開いて驚いていた。
「そうか……」
「うん?」
「いや、そうだな」
「どうしたの?」
驚いた後は一人納得して瞳を伏せて呟く。詳しく理由を説明してほしい。なんだかおいしそうな話な気がしてならない。
彼は出した紅茶を飲み干して、私を見据えた。
「では練習して帰るとしよう」
「う、うん? 今から?」
「ああ」
「わかりました」
彼はオルネッラに向き合った。
顔が、というより瞳が変わる。
いいねえ、この変化。たまらない。
「……」
「……」
「……おい」
留まったままでいたら、ディエゴがツンな様相を顕わにした。
さりげなくいたつもりだったけど。
「今日も出ないとだめ?」
「……すぐ終わる」
「んー、三十秒?」
「早すぎる」
「三分間?」
「それなら問題ない」
「はーい」
一つダンスでもしようか。
オリアーナとともに静かに出ていく。
「チアキ」
「どうしたの? 二人きりにして心配?」
「いえ、三分程度であれば……」
「そう」
失礼かもしれませんがと、オリアーナがもじもじしている。
先を促して静かに彼女は言った。
「チアキは姉に似ています」
「オルネッラに?」
それディエゴにも似たようなこと言われたな。
確かあれは堂々としてる様がだっけ。
「私達貴族は、何事も完璧に出来て当たり前の世界にいます」
「うん」
「幼少期から立ち振る舞い、知識等多くの面で教育を受けつつ、周囲からはそれを求められます」
幼少期か、幼女なオリアーナ可愛いだろうな。
妄想だけでもこんなに可愛いんだから、リアルはもっと可愛いだろうに。見たい、切実に。
「でも子供にも限界があるよね。長年かけて身につけるならまだしもさ」
「皆がそう考えてくれればよいのですが、現実はそうもいきません」
「そうなの?」
「その中で姉は、やろうと思ってるだけで偉いと……続けて偉いとよく褒めてくれました」
「いいお姉さんじゃん」
周りが厳しい中で唯一の癒しだな、オルネッラ。
オリアーナの姉を慕う気持ちの滲み方は、こういうとこの積み重ねからきてるのだろうか。優しいお姉さんいいね。
「だから彼も、もしかしたら同じような事を姉に言われたのかも知れません」
「……あ、ディエゴ?」
「はい」
「あー、だから驚いたのかー」
感心してたら、いきなりドアがあいて、ひえっとなった。
ディエゴが出てきてこちらに視線をよこす。何故か訝しんでいる。
「な、何か?」
「いや、声がしたから誰かと話しているものだと」
「き、気のせいじゃない? お、終わったなら送るよ、送ります!」
「ああ」
オリアーナと話してる時は独り言になってることを失念していた。
犬と話してたと言っても愛犬家として見てくれるかというと、ディエゴはそういうタイプじゃなさそうだな。
「明日も来る?」
「明日は家業の事で予定が埋まっている」
「そう」
そういえば彼の家は何を生業としていたんだっけ。
「休日と週中なら来られるが、そちらは問題ないか?」
「大丈夫ですね」
「そうか、また来る」
「お待ちしてまーす!」
「語尾を伸ばすなと前も言っただろう」
ツンもデレも等しく出てきていいものを見られた。
頑張れ、ツンデレ。
そして早く告白シーンを私に見せてほしい。




