31話 イケメンはイケメン
「そうだったんですね! だから!」
言葉に真実が混じっているあたり凄いな。
心配してくれてることも真実、フォローしてくれてるのも事実、一緒にいるのも同じく。
体調芳しくないというのは正直、私がオリアーナの中にいる時点で同義だ。すごい、学生でこのスキルはすごいぞ。
そして当たり障りのない茶会ならではの流れ。
エドアルドは二人の前だと随分畏まるようだ。トットの王族という立場が立場だし、ヒーローとヒロインのスキルたるところでもあるかな。
対してディエゴは滅多に喋らない。話を振られれば応えるが、それ以上盛り上げる事もせず、当たり障りなところで終了だ。
二人とも、私に対するものと違う一面が見られるのは大変良いことなので、緩む顔をこらえながら眺めている。どっちに転んでもイケメンはイケメンだからね。
「殿下」
話がいい具合に区切ったところで、ディエゴが音を立てずにカップをソーサーに戻し、そのままトットの方を顔を向けて呼んだ。自分をこの茶会に招き入れてくれたことに感謝し、エステルやエドアルド、私にも軽く伝えて帰ることを最後に添えた。
「では俺はこれで帰ろう」
「もう一杯くらい、いればいいのに」
「この後予定もあるし、一杯と約束しただろう」
その瞳には余計な事を言うなと書かれている。
余程こういう席が苦手なのだろう。
「ソウデシタネ」
「あ、そしたら僕も」
エドアルドが今度は一人ずつ挨拶して共に立ち上がる。
私も続いて、二人が馬車に乗って帰って行くのを見送った。エドアルドがいる手前、ツン行動が出来ないディエゴは、それは営業用の大人しいクールな様で帰宅し、エドアルドは最後まで私の事を気にして労わってくれていた。この二人対極だな。どちらもおいしいけど。
「ただいまー」
そして戻れば、トット、エステル、オリアーナから歓待される。
相変わらず贅沢な空間だ。
「さて、やっと話せるか」
「そうね」
二人のイケメンが去って、トットとエステルは私のことをチアキと呼ぶ。王太子と侯爵令嬢から通常運行へチェンジだ。
「社交界ではお世話になりました」
座りながら平伏する。
まあ心配かけたことには変わらないだろうし。
「いいのよ。むしろあの程度で済んでよかったわ」
「え、私が暴れ狂うと思ってたの」
「似たような事は想像していたな」
「おう」
しかも二人ときたら、アフターフォローまでしてくれていた。
エスタジ嬢にはエステルが様子を伺い、会場参加者にはトットから適宜理由をつけて説明してくれたよう。仕事が早い、そして助かる。
「二人とも、ありがとう」
「どういたしまして。でも私達がしたくて、やったことだから」
「そうだな」
「くっ、聖人かよ」
これが二物というものらしい。
神々しい。
光り輝いて眩しいんじゃない? サングラス常備した方がいいんじゃない?
「エスタジ嬢はとても驚いていたわ」
「ははは、そうだろうね」
「ただ、そう。憶測で話してはいけないのだけど、気まずそうな雰囲気を感じたの」
「気まずい?」
話が大事になったからか、それとも自身がオリアーナにやらかした行動についてか。
わからないな。
エスタジ嬢のことを知らなすぎるし、オリアーナ自身からの情報では明るく少しプライド高そうなイメージでしか捉えられなかった。
ようはいじめにいたる理由やきっかけが分からないことには始まらない。
「またエスタジ譲と話す時があれば訊いてみようと思うのだけど」
「あ、うん、いいね、ぜひ。あ、オリアーナはそれでも?」
「かまいません」
「いいってさー」
とはいっても、ゲーム内でのエステルには親友と呼ぶ女性はいなかった。
画面越しに話していた時も、その設定はいかされていたようだったし、今は私と共にいる事が常だ。となると、次話す機会は当面先だろうか。
「それで、チアキ。俺に頼みたいというのは?」
「ああ、叔父さんの事だね」
「そうか」
トットも予想はついていたのだろう。
快く了承し、スムーズに話が進んだ。
持つべきものはなんたらとはよく言ったものだ。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「オリアーナ」
「はい」
夕餉、父親とともに食事をすることをまだ続けている。
食べながら話をすることについては父親はそこまで厳格ではなく、箸を休めながらなんてことない会話はしている。
「茶会をしたと聞いたが」
「ええ」
「友人、か」
「ええ、そうですね」
「そうか、そうか……」
なんだか感慨深そうに頷いている。
父親にとって、オリアーナの友人関係は心配でもあったらしい。
今までアル中だったから、自分のことに手一杯だったけど、今はオリアーナのことに目を向けられる位に至ったことはとても良い傾向だ。長い治療過程の中でよくやっている。こんなに早くに効果がでてるのは、やはり父自身が真面目に粘り強く取り組んだからに他ならないし、父親の心持と覚悟の賜物だろう。
「それで、どちらの令嬢なんだ?」
「サルヴァトーレとステラベッラとディエゴとエドアルドです」
「んん?」
「あぁ、サヴォスタ王太子殿下、グァリジョーネ候爵令嬢、ソラーレ候爵令息、ソッリエーヴォ伯爵令息ですね」
「いや知っている、が、まさか、そのような方々と」
トットとエステルのことかな?
事実、二人のこともそうだが、ディエゴとエドアルドもなかなか素晴らしい家柄の嫡男らしい。知らなかったな、だてにイケメンなだけはあると。
「そうだ、オリアーナ」
「はい」
友人状況はそこそこ、父親は話題を変えてある提案をしてきた。
「クラーレからも許可が出た」
「はい」
「今度、共に商談へ行こう」
「わかりました」
なんという成果だろう。
この短期間の治療過程で仕事の許可が出た。
友人状況に父親が感慨深くなる一方で、私は父親の回復ぶりに感慨深い思いに浸った。
次の週末が楽しみだ。




