30話 珍しい面子で茶会
「エステル」
「ええ、昨日ぶりね」
「トット」
「ああ」
「エドアルド」
「こんにちは」
何故この面子で揃ったのか。
曰く、たまたま偶然同じ時間に訪れてしまったと。若干エドアルドの方が早く着いたみたいだけど、今日何がどうしてこんな訪問者が来るのか。
「昨日の事が心配だったんだ」
と、エドアルド。
可愛いぞ、普段着もおいしいです。けど彼は少し淋しそうに、そして困った顔をして去ろうとする。
「僕は帰ります」
「そんないいのに」
「いやオリアーナが元気そうならそれでいいんだ。満足だよ」
「……っ」
可愛いなあ。
しかしここに来るのにそれなりに距離もある。折角なのでいてもらいたい。
「いいえ、お越し頂いたのなら何もなくお帰り頂く事は悲しく思います。私の為にもどうか帰らず」
そもそも仲の良い相手に対して帰れで終わるのは、この世界でも失礼に値するのでは。そうなると増々エドアルドには帰ってほしくない。
折角オリアーナに無条件で優しくしてくれるのだから。そうしてしばし悩んだエドアルドが少し困った様子でながら応えた。
「オリアーナがそう言うなら」
よし。
心の中でガッツポーズだ。
たぶんそれを他三人はわかってるけど気にしない。視線で分かるが気にしない。おいしい話はいくらあってもいいもの。
「あ、ディエゴも来てるんだった」
「彼が?」
三人とも驚いている。
今頃告白イベントをクリアしてるかと思うとニヤニヤが止まらない。監視もつけずに置いて来てしまったけど、ディエゴなら問題ないだろう。ああ告白イベント見たかったな、練習とはいえど。
「ええ、姉の見舞いに」
「オルネッラ嬢と親交があったのか」
「まあそんなとこで。呼んできます」
「ああ」
折角なので皆で茶会するのも悪くはないだろう。
アンナさんに三人を庭に案内してもらい、ディエゴを迎えに行った。庭で茶会ぐらいしか思いつかなかった。幸い、過ごしやすい気温に格好の晴天、木陰もある場所に用意されているから、今日なんてもってこいだろう。
「ディエゴ、入るよ?」
部屋には彼がベッド近くの椅子に座り、オルネッラを見ていて、こちらに視線を寄越すことはなかった。思うことも色々あるだろう。長い間目を覚まさないわけだし、彼にいたっては告白できずこじらせている。
「今日は来て良かった」
「そう」
「まさか面会を許してくれるとはな」
「何も問題ないでしょう?」
「俺はお前に手酷い言葉をかけていただろう」
そこか。
自分を悪く言う人間を家に招くってことはそうしない。オリアーナも気にしてたあたり、本来歓迎される立場ではないのは明らかだった。
今回この訪問が実現したのは、私がオリアーナの中に入っていた偶然があったからだろう。なにせ自分のテンションをあげる為、オタク的充足を得る為には手段を選ばないと言っても過言ではない。
「そこは気にせず、これからもお越しください」
「え?!」
「ん? 何かおかしなことでも?」
「これで終わりじゃないのか?」
何を言っているのか。
あくまでここまでのはフラグたてにすぎない。そう、オルネッラが起きた時に脳内保管出来るくらいスムーズな告白シーンを見たいという私の願望のために、ディエゴには練習してもらわないと。
「練習してたら、その時って瞬間に言えるって言いましたよね?」
「……ああ」
思い出したらしい。
どっと疲れが押し寄せたのか、肩を落としがっかりしている。
「話し掛けていれば姉も起きるかもしれない」
「それも言っていたな」
「ほら、何度もやってみるのはいい事って思えるでしょ?」
「そう、だな」
しばし無言の後、彼はゆっくり立ち上がり、帰ると一言告げた。
いけない、大事なことを忘れていた。
「今、ステラベッラとサルヴァトーレとエドアルドが来てるん、ですが」
「何故その面子だ?」
「偶然にも揃いました」
「それで?」
「皆でお茶会するから、ディエゴも一緒に」
「断る」
応えるのが早い。
私の言うことわかってたな。
「いいじゃん」
「……茶会は苦手なんでな」
「王族いるけど?」
「……」
「彼はディエゴが来るのを楽しみにしてますねえ」
「……」
トットの力凄いわー。
彼自身が王太子であることを振りかざさないけど、周囲にとっては相応の力を発揮する。ディエゴも言葉に詰まるあたり、この世界の王族の立ち位置が知れる。
昨日の叔父もエステルとトットに対しては営業が激しかった。そのことを考えるとディエゴの反応は妥当だ。
「もう来るって言ってしまいました、と言ったら?」
「なんだと……」
正確には訪問がありましたという事実しか伝えてないし、呼んでくるとは言ったけど、ディエゴが確実に来るかどうかは言及していない。それを知らずに、ディエゴはそれはもう苦虫を噛み潰したような顔をして渋々了承した。
「茶を一杯だけだ、すぐに帰る」
「ありがとうございまーす!」
「語尾を伸ばすな」
品位にかけると駄目だし。
おっふ、油断するといけないいけない。
「全く……本当にお前は変わったな」
「え?!」
庭へ行く道中、そんな言葉をかけられるから、ぎくりとする。
「そ、そう、ですか?」
「ふん、俺には関係ないが、サヴォスタ王太子殿下やグァリジョーネ候爵令嬢のおかげか」
「え、ええと、そんなとこです」
誤魔化しながら庭を進めば、一角に元々茶会が出来るよう大きめのテーブルが用意されている場所がある。使った試しがなかったけど、こんな時に利用することになろうとは。あってよかった。
先に庭へ案内されていた三人は楽しそうに談笑していた。華がたくさんありすぎて困る。緩む顔を引き締めながら、クールに座り直すと、エステルがにこやかに声を発した。
「思っていた以上に元気そうでよかったわ」
上等な紅茶に軽い茶菓子、イケメンと美女を囲んで私の目は至福だ。
どうやらお三方は昨日の社交界での私を気にしていたようだ。
エドアルドには体調芳しくないとも伝えてしまっていたし、エステルとトットにも話したい事があったから近い内にと昨日の別れ際で話していた。
「オリアーナ、今日調子はどうなのかな?」
「だいぶ良くなりました。ご心配頂きありがとうございます」
ディエゴの胡散臭い視線は置いておこう。
さっきブラックアウトした人間が言えた台詞でない事は私自身も良く分かっている。けどあれは原因不明だ、ノーカウントだ。
「王太子殿下もグァリジョーネ侯爵令嬢も、オリアーナが心配でいらしたんですか?」
エドアルドがトットとエステルに話を振る。
それにまず畏まらないよう伝えた上で、二人は肯定の言葉を返した。
「ああ、ここ数ヶ月体調も芳しくなく、講義でも振るわなかっただろう? 本来休んだ方がいい祝日まで動いているようだったのもあり心配でな」
「ええ最近はずっと一緒にいてフォロー出来ればと思っていたのですけど、つい無理をしてしまう癖があるようで」
「そうだったんですね! だから!」
言葉に真実が混じっているあたり凄いな。




