27話 俺たちの社交界はここからだ!
オリアーナは再び庭へ出て、私たち三人は会場へ戻る。
その中で、会場前でエドアルドが待っていた。
「オリアーナ、大丈夫?!」
「エドアルド」
「やっぱり、まだ社交界へ来るのが怖い?」
「いえ、そういうわけでは」
「本当?! 最近おかしいよ。オリアーナじゃないみたいで……」
中身オリアーナじゃないんだよ。
しかもこれから叔父へカチコミ行こうと思ってた。顔合わせ程度にしとくから許してほしい。そうだ、当初の目的は顔を見に行くことだったな、うっかり。
「ガラッシア公爵令嬢は、先日から体調が芳しくありません」
「やっぱり!」
「え、エステル」
「本日は私とサルヴァトーレもおりますし、お任せ頂けませんか?」
「そう、ですか……お二人が傍に?」
「はい」
「……オリアーナをよろしく頼みます」
エステル凄いぞー!
エドアルドが心底心配してるにも関わらず、エステルの言葉を受け入れ去っていくではないか。これがヒロインのスキルなのか。人寄せに加え、人を納得させた上の人避けまで出来るの。
「ありがとう、エステル」
「どういたしまして、けど、今日彼はずっと貴方の事を気にかけていると思うわ」
「そっか。気を付けます」
「ええ」
まあ余程近くにいない限りは会話も聞こえないし、さっきのように一発かまさなければいいだろう。さすがに一日に二度もやらかすわけにはいかない。
エステルとトットに続いて会場内に戻れば、最初と同じくこちらの様子を見ながらざわついている。
その度合いが戸惑いになってるという変化つきだ。エスタジ譲に至っては完全にびびっている。うむ、終わりまで大人しくしててもらえそうでよかった。
「オリアーナ」
「はい」
珍しく名前で呼ばれて驚きつつも顔を向ければ、エスタジ譲共々、自らやって来てくれたではないか。
「久しぶりだな、随分成長した」
「お久しぶりです」
コラッジョ・アッタッカメント辺境伯。
母の弟にあたり、同じく流通業を生業としている人物。
「しかし先程のは驚いたぞ。君は魔法もうまくこなせていると思っていたが」
「ガラッシア公爵令嬢は身体の調子が芳しくなく」
「これはこれはグァリジョーネ侯爵令嬢、ご挨拶が遅れまして」
あ、この人、私にというよりはエステルとトット目当てだ。何気なく私を気遣って話しかけて、その実エステルとトットに媚びている。
あっという間に私は蚊帳の外だ。
なにせトットは王族、自身の事業の為に許可だのなんだのあるし、王族専属になれば事業も安泰だ。なにかと布石を立てておきたいと言う事か。営業上手といえば営業上手だ。
「叔父様」
「あ? ああ、ああオリアーナ」
「事業の方はいかほどで?」
その言葉にあからさまに顔をひきつらせた。
私からこの話題を振ってくるとは思わなかったのだろう。営業用スマイルから途端、不機嫌な仏頂面に変化した。
「いやいや、本当一時は大変だったよ。資金も奪われ、この先どうしようかと考えに考え抜いて、流通ルートと商品を増やしたのだよ。その案が成功し、今や事業は問題なく動いているし、収支も良くなった」
「そうですか」
あくまで被害者の立場から立ち直った風を装うか。
声を張り上げている時点で周りに聞こえるように言って、嘘の事実を刷り込ませている。
「君の所はお父上も出てこなくなったと聞いているが大丈夫かな?」
「お気遣い痛み入ります。父は体調を悪くしておりましたが、ここ最近元に戻りつつあり、事業も本格的になっていくかと」
「そ、そうかそうか、今まで君が頑張ってきた事も、お父上は見てくれているのだろうな」
「ええ」
まあしかし、と口元だけ少し上げて視線はよくわからない怒りのようなものをこめて降りてくる。
「被害を被る者が出ない事を祈るばかりだな」
「あら、被害だなんて」
「資金を失うかもしれない。そんな危険が野に放たれるわけだ、誰もが心配しているだろう」
「私達を心配してくださってるのですね。叔父様はなんてお優しく慈悲深いのでしょう」
「え?」
「私達親子の事をこんなにも気遣ってくださって……未来のご心配は問題ありません。私達はもう口頭でお約束をする事はないでしょうから」
「!」
笑顔で返せば、その顔が歪む。
大人げない挙句、営業モードを続けられないのか、小物だな。
「ふん、君も変わったようだな」
「そうでしょうか。まあもっとも」
「?」
「もう子供ではありませんので」
変わっているのも当然でしょうと返してやる。
事実だ。
中身は子供ではないし、オリアーナも叔父に資金を踏み倒された時と違う。
「君が犯した罪は消えんぞ」
「あら叔父様、私、業務上横領も詐欺もしておりませんわ」
「ぎょーむ、え?」
おっといけない、通じない言葉だったか。それに横領とも違うかな、背任罪とか? まあいい、そこはスルーしてもらおう。
「私は清廉潔白である事の例えです」
「何を、」
「私が潔白である事を示したら、困るのは叔父様なのでは?」
「な、」
まあ何も準備してないので、今すぐには証明できないんだけど。やろうと思えばやれる。
この程度で動揺するような小物なら、誘導尋問して自白するんじゃとふと思ったけど、今日は何もしない。これ以上やらかしてキャラ違うことがばれても困るからだ。
「次にお会い出来る日を楽しみにしております」
では、とその場を立ち去る。
叔父は僅かに手を震わせていた。まあ宣戦布告にしては上々だろう。
そんななんとも言えない表情の叔父に煽り文句をつけてもいいかもしれない。
「俺たちの社交界はここからだ! みたいな」
それになんとも言えない雰囲気で二人から言葉が返ってくる。
「チアキ、それは……」
「うむ、ウチキリというものではないのか?」
「おっとそうだ、二人には説明してたね。叔父の煽り文句を考えていたんだよ」
もちろん打ち切りを突きつけるのは叔父に決まっている。




