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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
25/164

25話 私の気持ちは静かに冷えていった

 想像通りというかゲーム通りだった。

 大きなシャンデリアに、見目麗しい男女たち。高級ホテル真っ青な豪華な食事に、種類豊富なお酒……これは飲み比べだ飲み比べしないと。


「チアキ、顔」

「おっと、失礼しました」


 お酒で顔を緩ませた私に、すぐ隣から囁かれるエステルの可愛い声には、少しばかり焦りが見られた。

 しょっぱなこんなでは先が思いやられることだろう。よし、期待に応えるために張りきって社交界デビューしましょうか。

 クールキャラで、オリアーナらしく。


「しかしまあ」

「チアキ、シャンパンで良いかしら?」

「お願いします」


 周りを見やれば、オリアーナの姿を見て驚いている。

 久しく顔を出してなかった挙げ句、根も葉も無い噂に翻弄されてる人たちだから仕方ないが。こちらを見ながらひそひそと話していた。

 これはこちらから話しかけたら逃げていく学園でのパターンになるやつかな。


「二人とも」

「サルヴァトーレ」

「おっふ」


 眩しい、眩しいぞトット。

 さすがヒーロー、ゲームを超えた衣装じゃないか。リアル王子、いや王太子だから王子なんだけど、格好よさが突き抜けた。しかもエステルと並ぶとさらに二人が輝くというこのカリスマ性、網膜に焼き付けて永久保存しよう。


「王太子殿下」


 エステル共々、社交界での挨拶を済ませる。

 基礎の基はクリアだ。背筋、角度、そして言葉共に学んだ通りにこなす。そこにきてトットが畏まらずにと私達に言えばいつも通りだ。


「挨拶が済んだら戻る」

「お待ちしてます」


 トットも大変だ。

 立場上、会場にいる全ての人たちに挨拶を行う。それにエステルが付き添うかどうかだが、そこまで強制されてないあたり、この世界の自由さは助かる。今日エステルは私の傍にいるから。


「グァリジョーネ候爵令嬢、ガラッシア公爵令嬢」


 話し掛けられ向けばエドアルドがいた。

 こちらも眩しいのがきた。アイドルだ、ライブやるタイプのアイドルだ。可愛いが突き抜けてるぞ、そのへんの令嬢も真っ青だ。

 今日は神様が私にご褒美くれる日なのかな。美しいものを見られ続けるとか最高だ。


「オリアーナ、大丈夫?」


 囁く。

 ああもう反則、けどクールだ、二ヶ月の特訓で得た成果をだすんだ。


「問題ありません」

「何かあったら言ってね。すぐオリアーナのとこに行くから」

「お気遣い感謝します」


 うん、抱きしめたい。

 それでも顔に出なくなったあたり鍛えられたと思う。そりゃエステルの心配そうな顔を横目に過ごしているんじゃ自制心もフルスロットルになるものよ。


「グァリジョーネ候爵令嬢」

「お久しぶりですね」


 ディエゴもやってきた。

 私の名を呼ばないまでも、エステルに挨拶後軽く鋭い目線をよこされる。


「よく来れたものだな」


 エステルに聞こえないよう私に一言。

 うん、学園でも変わらないけど、社交界衣装だとより格好良さ割増しだね。遠目から見ればクールなイケメンだろう。けど、ディエゴはツンデレ。ツンデレはその顔を崩すに限る。


「そういえば、姉の元へいらしてないようで」

「ぐ、それは、」

「家の門の前で留まっていた方がいたと報告があり、私、少々気掛かりでして」

「!」


 お前だよな、と暗に言ってみる。いい動揺ぶりでおいしい、うん実においしい。にこやかな笑顔を向けて、とどめに「お越し頂ける日を楽しみにしています」と言ってやった。あ、にこやかな笑顔はクールとは違うかな。


 そんなディエゴはにこやか笑顔を疑問に思わなかったみたいで、私を無視しエステルに笑顔で一言添えて去っていく。

 折角格好いいのに私にデレはやっぱりないか。親交深めてないしな。見た目はトットやエドアルドに負けていなくて実にいい。ツンツンしてるところもオリアーナとは違ったクールさがあるわけで、衣装は落ち着きを演出して渋格好いい。

 着物似合いそうだな、よしデレ期に備えて着物発注しよう。


「エステル」

「どうかして?」

「久しぶりと仰っていたようですが」

「ええ」


 ディエゴもあまり社交界には顔を出さないタイプらしい。

 来れば女性陣に囲まれるわけだが、それが億劫なところもあるらしく、今日のように来ても二階バルコニーで一人でいるらしい。吹き抜けの二階に目をやれば早々にディエゴがいた。移動早すぎるだろ。


「グァリジョーネ候爵令嬢」


 またまたエステルに声がかかる。

 久しぶりの人物、あの初めての学園で唯一話してくれた怒りの令嬢、エスタジ・コンパッシーオネ伯爵令嬢だ。会いたかったよ、お嬢さん。


「コンパッシーオネ伯爵令嬢」

「本日は王太子殿下と御一緒ではないのですね」

「ええ、今日はガラッシア公爵令嬢と共に参りましたので」


 エスタジ譲が話しかけると、それを皮切りに次から次へとエステルに挨拶しに令嬢たちが集まって来る。

 さすがヒロイン、人を引き寄せる才能がずば抜けてる。あっという間にエステル中心に輪が出来て、どんどん引き離されていく。おっと、これはわざとやってるかな?


「ガラッシア公爵令嬢、こちらではお久しぶりですこと」

「コンパッシーオネ伯爵令嬢。ええ、お久しぶりです」


 自らお越し頂きありがとうございます、そう言いたくなるのを我慢だ我慢。そして彼女が声をかけたのをきっかけに、他のご令嬢も参戦の後、ありがちな嫌がらせが始まった。


「公爵家の事業を傾かせた挙句、親族まで陥れた貴方がどの顔をしてこちらに?」

「嫌ですわ。会場の空気が悪くなります」

「私達の家の資金を狙っているのではなくて?」

「それはないですね」


 おっと言葉遣いに気を付けないと。

 彼女達のやりたいことは明確だ。ようは不幸の原因はオリアーナにあり、関わると不幸になると。だから仲間外しに躍起になる。レベルが小学生、実年齢よりやってることが幼稚というのは致命的だよ、令嬢達。

 まだまだ繰り返される嫌味の応酬に、この程度とはとがっかりし、エスタジ譲には見切りをつけてエステルの元に戻ろうと思い、目の前の令嬢達に声をかけた。


「そうですか、では私はこれで」


 と一歩踏み出そうとした時、足が重くかたく動かなくなった。見えない石が目の前にあって超えられないような感じ。


「!」


 こいつら、足に魔法までかけてきたな。

 一歩踏み出せば転ぶ程度に動きを止める魔法、踏ん張りがきいて膝をつく程度に済んだけど、これがオリアーナなら転んでいた可能性が高い。

 社交の場で転ぶことがどんなに不名誉か。わざとにも程があるぞ。


「あら、ガラッシア公爵令嬢、何もない所でどうしかしまして?」

「いいえ、おかまいなく」


 子供だ。幼いオリアーナには辛い事だったかもしれないが、この程度とはがっかりだ。呆れて一息、本当こんなことするぐらいなら、決闘してやるぐらいの本気の殴り合いがしたい。


「……ふん」

「!」


立ち上がる前に頭に感じる冷たさと独特の豊かな香り。


「……」

「あら、失礼」


 白ワインが私を濡らす。

 頭上からくすくす笑う令嬢たちの声に私の気持ちは静かに冷えていった。

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