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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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23話 地獄の特訓をお願いしたい

「ガラッシア公爵令嬢」

「はい?」


 話しかけてきたのは珍しい、学校の教授だ。

 私がノーコン晒した物体浮遊の魔法担当で、今でも何度も授業を受けている。

 この人の受け持ちがやたら実践多い授業だから、毎回痛烈な嫌味を言われているな。クールキャラは難しんだってと言い訳したくてたまらない。

 そしてノーコン晒す度に、エドアルドとディエゴあたりが訝しんで見てくるから、下手に面識ある人物と一緒に授業受けるのはハイリスクだ。


「早朝貴方が奇妙な姿で出歩ているという話がありました」


 早速変な方向で伝わっているぞ。

 違うこれはれっきとしたスポーツであり、健康増進に繋がる素敵な行いだ。そんな不審な感じにされても困る。


「早朝外に出ているのは事実ですが、おかしなことはしていません」

「そういう問題ではありません。公爵令嬢としての立場を考えるよう」

「立場?」

「ここ最近の貴方は品位に欠けているのは言うまでもなく、冷静さも落ち着きなければ、授業は故意に間違え他者の視線を得ようとしていますね」

「いえ、故意ではありません」


 前半はほぼ事実なので認める以外の選択肢はない。にしても、こう見られてるとなるとクールキャラが遠いな。品位と冷静さか……やっぱりそこか。


 そしてジャージが立場上、品位の面で駄目ということだろうか。

 ジョギング自体を否定しているなら、残念ながらそれは譲る気はない。ジョギングは嗜好、そして今後父親も治療の一環で走る事になるのだから止めるわけがない。


「早朝の件ですが、メディコからも推奨されてしている事です。何か問題でも?」

「……メディコが?」

「はい」


 少しの間、考えて答えに至った教授は再度「立場を考えるよう」と言って去っていった。

 あれは後々メディコに確認しそうだな。どちらにしろ、こちらは医学的な立場から、きちんとプランニングしたわけだし、何もやましいところはない。


「まったく、健康にいい事にいちゃもんつけるとは何事か」

「そこではないと思うのだけど」

「ん? クールキャラの方?」


 それに小首を傾げる一同。ああクールキャラって話してなかったっけ。キャラという単語はエステルとトットには教えた記憶あったけど。


「クールキャラ」

「私がそう言ってたら、オリアーナみたいかどうかって思ってもらえれば」


 どちらにしてもクールキャラであることをより洗練させないといけない。なんていったって社交界に出たいから。


「そうそう社交界出たいんだ」

「え?!」

「チアキ、本気で言っているのか?!」

「二人ともそこまで驚かないでよ」


 オリアーナの了承を得て二人に話す事にした。

 オリアーナは社交界に久しく出ていない。同じ年の女性陣からの嫌がらせがあることと、社交界によく出ているという彼女の叔父の存在が理由だ。


 叔父は同じく流通業を主としているが、件の海賊が関税を勝手に敷いて新規ルートを開拓しなければいけなかった時、叔父自ら協力を申し出て流通ルート確保へ動いてくれる予定だった。

 そう予定。

 口約束で行ったのも良くなかったし、それがあちらの意図であったのだろうけど、あらかじめオリアーナから経費という名目で資金を借り、それを叔父はあろうことか踏み倒したのだ。借入金に至るのはここで現金という資金が失われたのも大きい。


 そしてさらにこの叔父は、社交界で何故かオリアーナに騙されたと嘘を吹聴した。ガラッシア公爵令嬢が公爵に変わり事業を牛耳り、自分もその資金を騙され奪われたと。聴いた限りこのどうしようもない叔父は、何がしたくてこんな嘘を吹聴したのか分からないがタイミングが色々悪かった。


 オリアーナにとって悪い噂が勝手に一人歩きし始めた時、女性陣との不和が生まれる。

 オリアーナ曰く、当時は良いと思っていた親交深い友人の令嬢が、突如としてオリアーナに対して冷遇してきたという。その人物が、私がこの世界に来て初めてまともに話してくれた怒りのご令嬢だと知るのはそう遅くなかった。


 叔父の噂が原因なのかは分からない。

 他に理由がありそうだが、そこは令嬢が話してくれたわけでもなく、オリアーナが知るところではないから、彼女自身も分からず戸惑うばかりだった。そしてこのご令嬢、周囲に影響力のある人物だったようで、結果的にどこにでもある仲間外れや嫌がらせみたいなものに繋がっていったらしい。

どこの時代もいじめがあるとは嘆かわしいことよ。


 それに加え、母と姉が事故でなくなっていることに、あることないこと噂をされ後ろ指さされる。ただでさえ孤独を感じていたオリアーナに、さらにダメージを与えるとは何事だという話だけど、当然それに耐えられなく彼女は社交界に顔を出さなくなった。


 それをオリアーナから聴いて、私はその現場をリアルで体験すると決めたし、あのご令嬢や叔父に会ってみたくなった。

 ついでに叔父に関しては一発殴りたいのが本音。私の推しを苦しめる人物はぼこぼこだ、ぼこぼこ。


「でも今のままではとても社交界には……」

「なので、エステルとオリアーナに地獄の特訓をお願いしたい」

「じごく?」

「とても厳しい練習という事だよ」

「そう、それでも数ヶ月はかかるかと」

「それは私の淑女レベルの問題か」

「ええ」


 はっきり言ってくれてありがとう、エステル。

 可愛い顔してはっきり言うとかとてもおいしい。ちょっとしょっぱなから血吐く思いだけど。それでもやりたいんだ。


「魔法の方はどうする?」

「トット、それは同時並行だね」

「わかった」


 授業で訝しんでくる人物を確実にゼロにしたいところなので。うんうん、ここにきて当面の方向性がうまく纏まってよかった。

 社交界に出る。

 その為に、ありがちな特訓タイムに突入だ。超人的な力を手に入れて必殺技とか習得する気持ちでいこう。それだけで気分が上がる。


「チアキ、まずはその顔をやめましょう」

「申し訳ありません」

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