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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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22話 話しかけてきたのは珍しい人物だった

「さあお父様、行きましょう!」

「……ああ」


 早朝、早速庭の中をウォーキングから開始だ。

 私はしばらくすれば外にジョギングに出てしまうけど、父親はそのまま屋敷へ戻っていく。


「やはり夜は眠りづらいな」

「そうですか」

「酒の量は控えるよう努めたんだが」


 急には難しいことを再度伝え、専属医が示した酒の減量を試していくしかない。

 そして、ふと夜寝る為にはどうしたらいいか閃いたぞ。


「お父様、寝る前にお時間ありますか?」

「ああ……どうした?」

「ストレッチしてみましょう」

「すとれっち?」


 適宜内容を説明する。

 折角だからヨガも取り入れて瞑想も行っていこう。続ければ、それが快適な安眠にもつながっていくだろうし、寝る前のルーチンになれば、ストレッチ=眠りというスイッチに変わっていくはずだ。


「わかった。時間をあけるようにしよう」

「お願いします。折角なので皆でやってみましょう」

「皆?」


 おっと、メイド長さんや執事長さんも一緒にとは思ったけど、やはりこの世界にそういう概念はないのか。けど私以外の人もやって損はないので、そこは試しに今日誘ってみよう。こうなるとジャージの追加注文もしないとな。


「それではお父様、失礼します」

「ああ、気を付けて」


 父親と別れ、いつもの道をひた走る。


「チアキ」

「ん?」


 オリアーナが走りながら話しかけてくるのに応えるとオリアーナが父は治るのかときいてくる。何度かきくあたり、かなり気になる事なのだろう。そして私の回答も毎回同じ。


「お父さん次第だよ」


 私は治そうと意志のある者に対してなら出来る限り協力するけど、と加える。今の感じからいくとだいぶ見込みあると思うけど、そこは継続出来るかで大きく変わる。

 ようはモチベーションが続くかどうか。それを自分でコントロール出来るかだ。そういった面も訓練するのが今回のプランニングでもあるわけで。


「……はい、その」

「何?」

「チアキの知識では、」

「うん?」

「姉は、目を覚ますのでしょうか」


 おっと、ききたいのはこっちか。

 さすがに植物状態から起こすとなると専門的すぎて私には難しい。けど可能性は模索したい。その為には、エステルとトットから詳しくこの世界についてきくことと、オルネッラがどういう状況なのか改めてよく知る必要がある。


「条件が揃わないとなんとも言えないね」

「そうですか」

「だから今はひたすら情報収集ってやつかな」

「それは……」

「準備段階ってやつだよ」


 にっこり笑って返すけど、オリアーナがどう思ってるかいまいち分からなかった。

 確かにオリアーナが自殺志願に至るにあたって発端となったのは母と姉の事故だろう。けれどここで姉が植物状態から目覚めたとして、オリアーナの周囲の環境が解決するとは考えにくい。

 どちらにしろ時間がかかるなら、まずはオリアーナの周囲から考えていくのが彼女が自殺志願に至らない良い道筋なのではと思っている。

 そこは彼女に話さないけど。

 どちらにしろ彼女が姉の目覚めを望んでいるなら、他のことと並行して考えていくとしようじゃないか。

 オリアーナはすでに私の推しだ。クールキャラのデレの為に尽力させて頂きますとも。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「チアキ、ここ最近貴方が変わった姿で走る様子を見たという話が」

「ん? なんて?」

「チアキ、ひとまずこちらで落ち着いて話さないか」


 中庭、校舎を前にして垂直飛びをする私に遠慮がちに話しかけてくるエステル。

 私の想像通り、ここに転移する際に得た超人的な力とかではなく、単純に重力の問題だったようだ。垂直飛びで二階に手を付けられるってそうないだろう。世界記録は二メートルいってなかったはずだから、もうオリンピックで金メダルとれるレベルだ。

 徐々にこの世界の重力になれてしまい、普通の人程度の力になっていくのだろうけど、しばらくは筋骨隆々の男性も真っ青なくらい力技を発揮できると言う事。それは実に楽しそうだ。


「やはり重力」

「どうしたの?」

「今だけスーパーマンみたいなものなのさ、私」

「すーぱー?」


 空を箒なしで飛んでみせたり、人が持てない重いものを魔法なしで持ち上げてみせたり、大地に掌底打ちでもすれば地面を割るし、水の上も走れるだろう。

 ようは魔法なしでも、とっても強いよという話。

 それをエステルにまま言えば、パソコン越しに話していた時と同じで驚きながらも頷いてくれる。可愛い子に話きいてもらえるって幸せなことだな。


「ステラ、チアキに話す事があるのだろう?」

「ああ、そうだったわ。チアキ」


 変わった姿で走る様子と。変わった姿……ジャージ姿な朝のジョギングが見られていたということだろう。

 それもそうか、帰り道は馬車通りを横目に走っている。私の家の方向は学園への道でもあるわけだから、必然的に学園の生徒達が私のジョギング姿を見ることになるのは言うまでもない。


「うんうん走ってるよ! 健康維持ね!」

「健康維持?」

「ジョギングって言うの。なかなかいいよ!」

「そうなの」


 エステルがジャージ着たら可愛いんだろうな。トットが着たら何故か格好よく見えるんだろうな。可愛い子は何を着たって可愛いし、イケメンは何着たってイケメンなんだろうけど。

 こっそり二人分のジャージ発注しよう。いや、ここはかねてから考えていた本格的なランニングウェアを着てもらうのもありだ。


「ガラッシア公爵令嬢」

「はい?」


話しかけてきたのは珍しい人物だった。

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