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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
162/164

162話 ここにキスしないの

「うえへへへ」

「だからあれ程」

「いいじゃーん」


 呆れて言葉を失っているディエゴをよそに、私の気分はかなりいい。

 この独特のふわふわ感、妙に気分がよくて歌いだしそうなぐらいの上がり方、うん、久しぶりに浴びる程飲んだって感じがする。あんなに沢山のおいしいお酒を飲めて幸せな時間だった。またこよう。


「おっと」

「チアキ、足元を良く見ろ」

「みえてるよ」


 ディエゴが険しい顔してる。そんなにふらついて、と言われる。私は真っ直ぐ歩けてますが、なにか。

 盛大な溜息をついたと思ったら、自分の視界が揺れて変わる。あ、これさっき体験したやつ。


「ちょっと、」

「駄目だ」


 即否定とは何事。

 姫抱っこされたまま、待たせていた馬車に連れていかれ、そのまま座らせられた。向かい合うんじゃなくて隣に座って来るディエゴを見上げて苦情を入れる事にする。


「あるけるし」

「あれを歩いているとは言わない」


 嘘だ、私はきちんと歩いていた。ちょっと蹴躓いただけなのに。本当心配性、お姑さん厳しい。


「……ねむい」


 馬車がゆっくり動き出す中、隣のディエゴに頭を預けてみる。図書館の時のように震えることなく、眠っていいと上から落ち着いた声がおりてきた。


「……」

「どうした」


 僅かに傾けてこちらを見下ろすディエゴも多少は酔っているのか瞳が少し濡れている。そしていかんなくデレを見せて……そう、つまるとこ微笑んでみせた。うっわ、すごい。ツンどこにもない。


「……」

「チアキ?」


 私が何も言わないのを不思議に思ってか、髪を梳かれ頬を撫でる。心地良くて目を瞑ると、ふっとさらに笑う声が聞こえた。

 身体をずらされ、頭を預けられなくなったから目を開けた。色の変わったディエゴの瞳が私をとらえた。


「したいの?」

「え?」

「きす、したいの?」


 それは、と口ごもる。あの時と同じ瞳をしていれば、否応なしにディエゴの今望むことがわかってしまう。だから、敢えてきいた。きちんと言葉で聴いてみたかった。

 ディエゴは私の手をとって、瞳の色を変えず何かに耐えてるような顔をして、静かに応えた。


「君の気持ちを置いてするのは、もう、止めようと誓った」

「ん?」

「しない。俺の気持ちが一方通行な限りは」

「なんだ、そんなこと」

「え?」

「それなら、できるってことでしょ」

「チアキ、それは」


 視線を一度落として、逡巡した様子を見せた後、ディエゴの手が私の頬に添えられた。

 あの時と違ってするりと受け入れられる。近づくディエゴを見とめ、静かに目を閉じてされるのを待った。

 なのに、触れられた感触は期待した場所じゃないってどういうこと。


「……」

「なんで、ほっぺちゅーなの」

「……」

「ほっぺ」

「言うな」


 目元を赤くして口元を抑えている。私はいいと言ったのに、どうしてほっぺちゅーになったの。チキンなの。ここは据え膳なんとやらじゃないの。

 僅かに呻いて、髪をがしがし掻き乱した。セットした髪がもったいない。とは言っても、件の御者との追いかけっこで多少崩れてはいたのだけど。


「ねえ」

「なんだ」

「ここにしないの」

「!」


 ディエゴの唇を人差し指で触れれば、耳まで赤くして身を引いた。だからそのまま追いかけた。ぐぐっと距離を詰めれば、ディエゴはすぐに馬車の端まで到達して逃げられなくなる。


「ふふ、おばかさんですねえ」

「や、やめ」

「したいっていったくせに」

「今の君は酔っているだろう!」

「しつれいな。しらふです!」


 それに劇場にいた時だって、御者を追いかけてた時だって、今以上に密着してたんだから、今更顔を赤くして慌てる程でもない。むしろ二人きりで誰の目にも入らない馬車の中なら、ディエゴとしても問題なくなんでもできるはずだと思ったのだけど。


「あ」

「……?」

「ディエゴのにおい」

「え?」


 これだけ近いとさすがに分かる。いつものいい匂いが薄まった分、しっかり感じた。


「ディエゴっていつもいいにおいするでしょ」

「ああ、香水の事か」

「そう、いつもおなじ。いいにおい。でもいまは、ディエゴのにおいがちゃんとする」

「は? え…………!!」


 少し考えたのか、答えに行き着いて目を開いたと同時に赤くなった。肩に両手がおかれ、そのまま力任せに離される。


「かぐな!」

「え? なんで? いやなにおいじゃないよ?」

「そういう問題じゃない!」

「なんでよ」


 離そうとするディエゴと、それに抵抗する私。なんだかこういうのしょっちゅうしてる気がする。折角だからもう一度嗅ぎたいと言えば、駄目だとお断りされた。何故だ、臭いからよるなと言われるより、マシだと思うのだけど。

 しばしの攻防戦の末、ディエゴは舌打ちをして私を抱きしめた。よし、存分にかごう。にしてもディエゴあったかいな。なんだか急に意識が遠くなってく気がする。


「酔っ払いめ!」


 何度も言うけどしらふです。

 そう言おうと思ったのに、それが口から発せられることはなく、私は深いところに意識が追いやられていくのを感じた。ああそういえば、すごく眠いんだった。

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