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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
157/164

157話 俺が君を守りたいんだ

「最高すぎて言葉にならない」

「なによりだ」


 黙って大人しく見ていれば、ディエゴと絡むことはないと学んだ私は、ひたすら大人しく残りを鑑賞した。舞台に集中すれば、脳内は尊さに癒しを感じて幸せいっぱいだし。

 そもそもディエゴと一悶着あって全く舞台に集中できていないのは、舞台に失礼な話だ。しっかり反省して、きちんと鑑賞。えらいぞ、私。ここまで冷静なところに持ってこれた自分を褒めた。


「それに役者すごく近かった。近いと美しさ割増しで困った」

「そうか」


 大衆演劇とかはお見送りあったけど、この世界もそういう風習があってよかった。本当よかった。握手会が開かれるなら、きちんと握手券買って並ぶよ。全員分で。


「ありがとう、ディエゴ。グッジョブすぎるよ」

「ああ」


 2.5次元鑑賞という当初の目的も達成したし、この後はちゃんとディエゴに返事したいとこ。

 ここまできて今更お受けしますなんて都合すぎるけど、期間は学生の間なら有効ではあるはず。ディエゴも私を見限ってないから、応えてもいいよね? いいんだよね? こんなことに悩んでる私なんなの? やっぱり魂が十代に変質したんじゃない?


「チアキ、まだ時間あるか?」

「うん、一日あけてる」

「なら少し街を歩こう」


 馬車の御者に伝えにディエゴがその場を離れる。

 ううん、今この人通りで軽く応えるのも憚れるかな。ディエゴのことだから雰囲気がどうとか言いそう。

 そもそも私が応えて信じてくれるかというところからだろうな。散々からかって、はぐらかしてきたし。自分の行いどんまい。言葉で信じてくれない時の、次点伝わる方法を模索しておこう。


「ん?」


 ここは割と大きな通りで馬車も多く行き交っている。その向こう側で子供がお母さんと呼んでいた。私の側に母親がいたようだ。手を振っている。妙な既視感だった。


「あ」


 子供が道を飛び出した。子供の側にいた父親は気づくのが遅れた挙げ句、人混みに阻まれて追いかけられない。近く馬のいななきが聞こえ、側の母親が息を飲んだ。当然、父親も母親も動けず、馬車通りには小さな子供が一人。


「あ、そっか」


 どこかで見たと思ったら、最初に交通事故に遭った時か。

 そんなことを考えつつ、私はほぼ条件反射で飛び出して子供を抱えて母親に投げた。綺麗にキャッチしてもらってほっとする。


「さて」


 これがあのおばあちゃんの呪いというなら仕方ない。とことん人が乗る何かに縁がある。

 けど、あの時と違うのは、私の身体能力がスーパーマンということ。目の前に迫る大きな馬車ぐらいなら垂直跳びでかわすことができる。

 今の私をなめるなよ。計測値の報告はここでしてなかったけど、日々少しずつ記録更新してるんだから。垂直飛びで迫りくる馬車をかわし、通り過ぎた所で着地する。うんイメージ完璧、いける。


「チアキ!」

「え?」


 踏ん張って、足を曲げたところに急な浮遊感を感じ、すぐに大きな馬車は視界から消えた。安全な対面の道へあっという間に逃げおおた。

 鼻を掠めたこのひどくいい匂いはよく知っているし、今日は充分すぎるぐらい堪能している。


「ディエゴ」

「君は目を離すとすぐ!」


 え、姫抱っこ?

 お、お姫様抱っこ?

 ちょっと待って。やめて待って、どういうこと?

 横抱きにされている。

 視界がいつもと全然違うし、しっかり抱きとめてもらっているけど不安定さも感じる。膝裏にディエゴの腕が通って、背中から回された片腕は私の脇腹あたりを抱いている。


「ちょ、離して」

「駄目だ」


 こんな人の溢れる大通りでお姫様抱っこってなんなの。ディエゴがそんなことできるはずないと思って見上げれば、その切羽詰まった様子から周りが見えていない事を悟った。それでも次されても困るから、きちんと説明しておこう。


「私スーパーマンだから大丈夫なんだって」

「だからって黙って見てるなんて出来ないだろう!」

「うええ……」


 ディエゴの私を抱く手に、腕に、力が入ってよりディエゴの匂いが強くなる。

 神よ、確かにお姫様抱っこについてはほのめかしました。けどそれエステルトットにやってもらう予定だったんですけど。違う、またしても違いますよ神。鑑賞型希望なんですって。


「ああ、よかった」

「え、ちょ、」


 ちょうど前髪の生え際あたりに違和感、ううん感触があったのは気のせいじゃない。少し影が入る視界が証明してるようなものでしょ。


「ディエゴ」


 一つ息を吐くと、それが直に額にかかって急に見えない近さが本物になった。恥ずかしさにぞわっと肌が粟立つ。

 身を捩ると、さらに力が入った。頭の感触は離れていくけど、その分近くなった。よりぴったりくっついてしまう。いやいややめて離してって。


「動くな、落ちるぞ」

「や、も、いいから、下ろして」

「嫌だ」


 なんで。

 顔を向ければ、予想通り近いところにディエゴがいる。私の瞳を捉え不快だとばかりに眉根を寄せた。


「君はいつもこうだ。俺に守らせてくれない」

「自分の面倒は自分でみれるよ?」

「そうじゃない、俺が君を守りたいんだ」

「ふお」

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