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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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156話 もう、誤魔化しがきかない

 勢いがついてしまい、私を抱えたまま座席に埋まり直す。ぼふっとクッションの音がして座席が軋む。

 待って待って近い近い。抱きしめられてる。ディエゴの胸に綺麗におさまっているのが分かると、かっと体温があがるのを感じた。


「ごめ、」

「待て、チアキ」


 離れようと身体を起こすと中途半端なところで止められた。そのせいで私は完全にディエゴの膝に乗る形になった。肩に手を置いて距離をとりつつも向かい合う形になる。


「!」

「暴れるな」


 危ないだろうと言われる。

 あ、だめ。さっきよりだめ。

 ディエゴの言いたいことはわかる。いくらボックス席とはいっても限度がある。身を乗り出してた挙げ句暴れたら落ちるのではと心配になったんだと思うんだけど、本当だめ、これ近いから。


「どうした?」

「あ、いや、離して」


 暴れないからと加えて言うけど、ディエゴは私を囲う腕の力をゆるめるどころか力を入れてきた。腰を浮かしかけた私は膝立ちになり、その体勢のままディエゴとさらに距離が縮まってしまって心臓が跳ねる。さっきから近すぎていい匂いすごいし、そもそも場所が場所だから囁き声で、色々きつい、というか暴力、五感の暴力すぎ。


「ちょっと、もう」

「……」


 黙ったままじっと見つめてくるだけ。ううん、こそばゆい。

 やっぱりあの時、墓穴掘ったし地雷踏んだ。ああもう。


「離してくれないなら」

「ん?」

「ええい」


 肩に置いていた手を離して、彼の頭を包むように回す。ディエゴの頭部を抱きしめる、すなわち私の胸の鼓動を今度こそ確かめてもらう事にした。


「チア、キ!」


 さっきまで静かだったディエゴもさすがに慌てた様子で、ボリュームは落としたまま声を荒げた。駄目だとか、腕を解けとかもぞもぞ私の胸の中で囁くものだから、そのこそばゆさに身を捩る。するとディエゴが唸った。


「あ、やめて」

「?!」

「喋るとくすぐったい」

「っう!」


 場所が場所なだけあって声にならない悲鳴のようなものをあげているけど、解放される気配はなかった。そっちがその気なら、こっちも離してやるものか。


「そういえば」

「……」


 最近触れられるだけで体温あがって困るところではあったけど、今はそうでもないかも。慣れた? いや、落ち着いた?

 熱くなるのとは全く違う感覚は先日落ちてきたものだ。勘違いだと思っていたけど、今もきちんと私の中で落ちてきたところにいて僅かに傾いて主張した。単純な事に、喜んでいる。


「そっか」

「……」

「ディエゴ触るの気持ちいいんだ」

「!!」


 というか、心地良いかな? 似たようなものか。

 そしてここにきて、ディエゴはようやく私を拘束する腕を緩めた。やっとか、と、ほっと撫でおろして私も同じように緩めると、彼の手は何故か私の腰を掴んだ。

 驚いてびくりと全身震えるが、声を上げなかったことは本当えらいと思う。危うく変な声出るところだったんだけど。


「ディ、エ、ゴ」

「……」


 すいっと持ち上げられ、そのまま隣の席に座らされた。無表情のまま彼は自席に座り直す。あれ、反応が何もないとか。それ以前に女性一人を軽々と持ち上げる筋力なんなの。ディエゴも実はスーパーマンだったの。オリアーナは確かに細身で体重軽めだけど、だからといって軽々しく持ち上げられるようなものじゃない。


「ディエゴ」

「……」


 彼の名を囁いてみたけど、特段反応を示さず舞台を見つめている。その耳が赤いのを見て、やっぱりディエゴだと分かって少し安心してしまった。

 私も舞台に視線を戻す。そうだ、当初の目的は舞台鑑賞だ。初志貫徹しよう。


「……」


 しばらくしてから、今更自分何をしでかしたのと自身の行動の恥ずかしさがぶり返して、恥ずかしさに顔を覆いたくなった。こんなところで何をしているの、私。

 純粋に舞台を楽しみに見に来てる人にもチケットとれなかった人にも役者にもスタッフにも以下略申し訳ないことを……心の中で土下座しよう、申し訳御座いません。


「ふう」


 一息ついて自分を落ち着かせて、舞台に集中してみる。舞台はシナリオ構成も演出も好みのもので、物語に入りやすい作品。ふとした恋愛シーンにトットとエステルを見てるようで尊大な癒しにニヤニヤしながら、同時に頭の片隅にやってくる実感に顔を覆って唸りたくなる。今更ということと、舞台に集中して自分というツッコミしかない。


「……」


 そうこうしている内に、第一幕が終了する。明るくなる場内に拍手が響く。目の前は眼福なのに、脳内も幸せなのに、それと同時並行で訪れた応えがじわじわ沁みる。


「どうだ?」

「控えめに言って最高」

「そうか」


 ディエゴの嬉しそうな様子に、この間落ちてきたものが嬉しそうにコロコロ転がっている。さっき喜んでいるとまで自覚してしまった。

 うん。やっぱりだめ。もう否定できる理由も言葉も思い浮かばない。

 でもチアキも彼が好きでしょう? というオリアーナの言葉がまた頭をよぎった。

 ああそうなの? やっぱりそうなの?


「観念する?」

「何をだ」

「こちらの話です」


 ディエゴが好き。

 もう、誤魔化しがきかない。

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