146話 目の前にして話す事か?!
「けれど、チアキ。見知らぬ相手が嫌だというなら、知っている所からお相手を考えることになるのよ?」
「エステル、その話もうやめようよ」
いいえと、やめる気はないと意思表示するエステル。オリアーナも頷いている。
困った、逃げられない。コマンド逃げるが通用しない。
「ディエゴの何がいけないのですか」
「うええ……」
「そうね、チアキがどう暴走しても寄り添ってくれているものね。優しい方だわ」
「いいなあ、私もエステルに褒められたい」
チアキったら優しいのねぐらい言われたい。そんな私の願望はするりと無視されれることになる。ひどい。
「ソラーレ侯爵家であれば周囲も納得するでしょう。それに彼はずっとチアキのことが好きですよ。何がいけないのです」
「そうね、家柄も申し分ないわ。社交の場の立ち振る舞いも交遊関係も問題ない。チアキにひどいこともしないでしょうし、大事にしてくれるわね」
「なに、その安易にディエゴをおすすめしますみたいなやつ」
「あら、チアキ。わかっているのね。そうよ、おすすめしてるのだもの」
驚愕だ。さっきの無視といい、今の言葉といい、私が触れたくない話を避けてくれるはずのエステルがこんな仕打ちをするなんて。
「エステル……私に激甘なエステルどこ……」
「あら、私は貴方に甘いわよ?」
「好き!」
「ええ。だからね、いいと思うのだけど。よく知ってる男性でチアキを大事にしてくれるの。チアキに恋愛感情がなくてもいい相手だと思うわ」
トットとエドアルドに助けを求めるために視線を寄越しても笑顔でかわされて終了だった。なんだよ、みんなしてなんなの。
恋愛感情云々からせめてきたくせに、今ではそれがなくてもディエゴでいいじゃないな流れだ。エステル初志貫徹どこ。まあ結婚相手を決めましょうぐいぐいでこられ続けてもきついけど。
「チアキ、先日の事を違うと言ってましたが、それは本当ですか?」
「はい?」
「本当に違うのですか?」
「……う、うん?」
「貴方は私達の機微には鋭いというのに、自分の事はとことん鈍いのですね」
「え、ひどい」
「ええ、ひどくて構いません。チアキには早々に認めてもらいたいのです」
「オリアーナ……」
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「というわけ」
「俺を目の前にして話す事か?!」
案の定ディエゴは盛大につっこんでくれた。オリアーナが見えていたことに関する発言は伏せつつ、そのまま恋バナの内容をディエゴに話した。やはりというべきか困り果てている。
「ディエゴは私の気持ち欲しいでしょ?」
「は?!」
「だから、その気がない私と結婚しても嬉しくないかなって」
「それは勿論、君の気持ちは欲しい……だが、」
「ん?」
「他の男と結婚されるのは許せない」
難儀なものよ。こじらせはまだまだ健在。それにしても、恋バナ振っても大丈夫なの、すごいな。
「ディエゴの気持ちは本物だしね」
「な、そんな、わけ」
「違うの?」
「違わない!」
「はい、ありがとう」
ぐぐぐと唸るディエゴに、おいしくデレを頂く私。まあこの距離感で一緒に暮らしていくなら、それはそれでいいのかもしれない。でも肝心なとこはディエゴが本気ということだ。今の状態ですら、彼がいつ怒り出してもいいし、見限られても仕方ない状況なのに、こうして私に付き合ってくれている。エステルの言う優しいは本当に当てはまるな。
「君は」
「?」
「決して勘違いだとか気の迷いとかは言わないな」
「自分が決めた気持ちを、他人がとやかく言える筋合いないでしょ」
「はは、そうだな」
困ったように笑う。今のは困らせたくて言ったわけじゃないのだけど。やっぱり年齢より幼く見えるあの笑顔はなかなか見られないんだな、なんて心の隅で考えてしまう。
「笑いを狙ったわけじゃなかったんだけど」
「いや、チアキらしいと思ってな。君は優しいから」
「優しい? それはディエゴの方でしょ」
「君は優しいさ。そういうところが好きなんだ」
だいぶすんなり気持ちを言えるようになったな。それを伝えると、君のおかげだと逆に感謝された。
「オルネッラへの練習の成果?」
「そうだ。そういえば、あの練習もいつしかオルネッラに言うという意識はなくなっていたような気もするな」
「え?」
「当時は気づかなかったが、気になる相手がオルネッラから君に変わってきていたんだろう。オルネッラに告白と言うよりは、いつか誰かに言える時の為の練習になっていた」
「そっか」
それにしたって、告白の現場は結局見られなかった。眠るオルネッラに告白するこじらせツンデレ。いいなあ、画的に一度見たかった。そう、そもそも私は体験型を求めてない。ほしいのは鑑賞型だ。
「……興味なさそうだな」
「十分美味しいデレだと思うけど、やっぱりイケメンから美女への告白を見ているのがいいな」
「君は充分美人だろう」
「オリアーナの見た目ね。正直だいぶ好みです、もちろんオルネッラの見た目も」
「正直だな」
この世界はどこまでも私に優しいから、顔面偏差値が異常に高くて助かる。自分が自分好みの美女になって、それを鏡で毎回拝めるのって実はものすごい贅沢では? 今気づいた……私相当贅沢してすごしているんだわ。
「あ、ちなみに体つきと声はエステル、胸の大きさはオルネッラの身体が一番なんだよね。柔らかさもオルネッラの身体が一番だった。もちろん顔はエステルもオルネッラも好き」
「そういう下世話な話は訊いていない」
「えー、ディエゴならわかると思ったのに」
「なんでそうなる!」
「オルネッラ大好きだったじゃん。小さい頃、あの可愛さにかこつけて触ってないの?」
「断じてしていない!」
オルネッラの記憶を見た限りではディエゴがオルネッラの胸を揉むっていうのは確かになかった。ディエゴのことだから、ちゃっかり触ってたと思ったけど、さすがにラッキースケベはないか。




