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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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142話 あ、いけない流される

「チアキ?」

「何?」


 肩口にうずもれてたディエゴが顔を上げたのが重みがなくなることで分かる。いやもうそれどころじゃないのだけど。どうする、どうしよう。今のテンションはだめだ、すぐ離れて落ち着かないと。


「耳が、あか」

「え? 何かついてる?」

「いや、気のせいだ」

「んん?」


 やっとディエゴが腕の力を緩めてくれた。ゆっくりと解放してくれる。背中の温もりと重みが離れていく。

 すすっと距離をとると、手を取られて彼の方へ向けられる。ああもう、もう少し離れさせてくれてもいいじゃない。


「チアキ」

「うん」


 懐かしい眼光の強さ。たかだか一ヶ月にも満たない期間まともに見てなかっただけで、ひどく懐かしかった。

 私と目が合って、少し眉を寄せて僅かに細める。なんだ、その表情。なにが不服だというの。


「機嫌悪い?」

「いや」


 再会が後ろから抱きしめられるという形だから、私としてはだいぶ恥ずかしさというか気まずさがある正面からの対峙なのだけど、ディエゴは何を思っているのだろう。

 未だ落ち着きを取り戻せないけど、ひとまずなんだ、うん、離れた事で少しは会話できそうかな?

 もうさっきから私の内心は大変な事態に及んでるんだけど。逆に話した方が落ち着けるような気もするし。


「まあ、そうだね、うん」

「?」

「おかえり」


 適当な言葉だったかはさておき、ディエゴがいつも通りに戻ってくることが嬉しい。それは隠せないので、そのまま一言おかえりに乗せるしかなかった。勿論笑顔で歓迎している事だけは伝えられるように。


「っ……」

「?」


 少しだけ息を飲んだ事が分かった。

 ただ真っ直ぐに私を捉えて、そして少しだけ目元が赤い。


「チアキ」


 左手が私の頬を撫でる。そのまま少し傾けられ、私を離すことなく、ゆっくり顔が近づいてきて。


「ディエ、ゴ」


 あ、いけない流される。

 このままだと。

 このままだと、ああそのままキスしちゃいそう。


「……」

「……」


 からかえないし、拒めない。

 こんなに息がかかるぐらい近くて、鼻もくっついてあと数ミリなんて、星空眺めた時はなんともなかったのに。

 今日は全然余裕ない。どうしよう。


「チアキ……」


 目を細めて、掠れた声で私を呼ぶ。

 だからもう今日はだめ、だめなんだって。


「ディエ、ゴ」


 このまましちゃってもって思ってる。違う、私おかしい。


「チアキ」


 あ、無理。流される。

 ぷっつり何か切れかけた時だった。


「あ、お兄様! こちらにいらしたのね!」

「!」

「!」


 文字通り、がばっという効果音が出そうな勢いでディエゴが離れた。顔を赤くして、手を口元に置いてから、一つ咳払いをして声のかかった背後を振り向いた。

 ああ私も少し頬が熱いかな。ひとまず温度落とそう。エステル程うまくいかないかもしれないけど。


「お兄様ったら遅い!」

「馬鹿、馬車の中で待ってろと言ったはずだ!」 

「なあに? 探しに来てみれば女性を襲うなんてはしたないんじゃなくて?」

「お、襲っていない!!」

「同意にしたって外はどうかと思うんだけど」

「違う!」

「はあ?」


 なんてタイミングだろう、お嬢さん。本当感謝しかない。お嬢さんのくれる時間で私はしばしナチュラルハイなテンションを鎮め、冷静になる事としようじゃないの。


「ディエゴ、その人が従妹のお嬢さん?」

「え、あ、ああ」

「ディ兄様?」


 ディエゴの影になって隠れていた私を身体を曲げて見る事で視界におさめる。その姿はやっぱり前に覗き見した時の女性だった。そんな彼女は私を見て、眼をこれでもかと広げて驚き震えた。


「ま、まさか、」


 同時、ディエゴが観念した様子で私を紹介する。


「お前の会いたがってたガラッシア公爵令嬢だ」

「こんにちは」


 と、明るく手を振ってみるが、ふるえたままのお嬢さん。どうしようかな、と思ったあたりで急に黄色い声を上げて肩が鳴った。


「ああああああ好きですううううう」

「うん、ありがとう」


 ディエゴを押しのけ、私の両手をがっしり彼女の両手で掴んでくる。これは向こうの世界でも良く見てきたコアなファンだ。


「うわあああああ好きですううう生はもっと格好いいいいいいい」

「ありがとう」


 私も推しを目の前にしたら似たようなものだ、気持ちよくわかるよ。と、内心頷く。

 彼女はテンションも天辺と言わんばかりに、私の事を話しだした。社交界の事やら、事業のことやら、なんだかとっても誇大な武勇伝になっていたけど、もう何もつっこまない。つっこんだところで聞かないだろうし、私が口出す隙間すらないし。好きになると盲目なのは血筋ですか、なんて。


「本当は優勝賞品の茶会がほしかったんです」

「男女混合だと優勝難しいと思うよ? 自分のリズムと出来る範囲で走ろうね」

「ああお優しいいいいいのですねええ!!」


 デレしかないな、このお嬢さん。ディエゴとケンカップルしてたのはどこへ行ってしまったのか。


「はああああやはりお兄様にはもったいないですうう」

「え、逆じゃないの? 従兄のディエゴの方が大事じゃないの?」

「私は私の好きな人が最優先です!!」

「そう、なによりだよ」


 気持ちはわかる。推しが一番、これ真実だからね。

 そして完全に蚊帳の外なディエゴをちらりと見れば、どちらかというと無表情に近い形で控えていた。何も言わないでいてくれてるってことは、気を遣ってくれているのかな。

 早速なので、お嬢さんには私にとって最大の癒しになる、結婚相手との秘密の恋愛についてきくとしよう。勿論、彼女が嫌がるはずもない。今全開で私にデレているのだから。

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