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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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137話 ケンカップルのおいしさたるや

「チアキ?」

「あ、ああごめんごめん」


 オリアーナに呼ばれ、足が止まっていたことに気づいた。慌てて彼女を追いかける。

 珍しく二人きりで走っている。エドアルドはトレーナーとして教えをする日、エステルトットも最近は公務が重なっている。

 ディエゴは最近というか、あの日から来ていない。


「誰か知ってる者が?」


 馬車通りを見ていたのがバレバレだった。まあ見るものそれぐらいしかないから仕方ないのだけど。


「いや特には」


 ディエゴの馬車ないかなーなんて探してたとか私の頭は相当キている。いるはずがない。彼はずっと早くに帰ってるはずだから。


「ディエゴですか」

「オリアーナ、見たの?」

「見えなくても今のはわかります」

「ぐぐう」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 あの日、先約があると帰った翌日の朝、彼が来ることはなかった。代わりに従者さんが手紙を届けてきて、内容は今日行かれないとシンプルなものだった。

 学園に着けば彼も来ていたが、今日のことを軽く謝罪され終了。なんだか妙な違和感というか、かっちり噛みあわない感じがもどかしくて、ディエゴともう一度話をしてみようと思った。なんてことない、いつも通り当たり障りない話をすれば、噛みあわないものも噛みあうと考えてだ。


「おっと」


 あき時間に姿が見えないと思って、いつものとこにいるのかと中庭に出たら、見つかるには見つかった。

 かわいらしい女性を連れた姿で。


「……」


 そう、可愛い女性。

 彼の纏う雰囲気がいつもと違う。いつもこの学園の女性には一定の緊張感を持って、社交界の営業用で対応するお堅いディエゴが、心なしかリラックスして対応している事が、遠目で見ても分かってしまった。

 動けなかった。


「……」


 声をかけることもしなかった。

 先を歩くディエゴは呆れた様子で何かを言っている。女性もまた何かを訴えながら彼に駆け寄り、その腕に触れる。彼に嫌がる素振りはなく、あまつさえあいてる手でくしゃりと彼女の頭を撫でた。

 その時のディエゴの笑顔は見たことがなかった。

 少年さが残った快活な笑顔。

 そういえば、私の前で笑うのはそんな多くなかったし、あんな風に笑うこともなかったかな。


「チアキ、どうしました」

「!」


 オリアーナに声をかけられ、我に返る。足は縫い付けられたように、そこから動かなかったのに、嘘のように力が戻る。


「オリアーナ伏せて」

「え?」


 腕を引いてしゃがみこみ、二人で茂みから覗く。

 ディエゴとかわいい女性は今度は何かを言い合っていた。気兼ねなく言い合える仲、喧嘩腰になりつつも、仕様がないという雰囲気を出し、すぐにいつもの事だと元に戻る様はまさに。


「ケンカップル……なんてことだ、おいしすぎる」

「チアキ……」


 隣からじとっとした目で非難されてるけど、気にはしない。ひとまず見つからなければいい。覗ければいいのだから。


「けんかっぷるとは」

「よくぞ聞いてくれた。顔を合わせれば喧嘩ばかり、なのにそれでも付き合っている恋人達。または付き合う前の仲の良い喧嘩ばかりしてる二人の事だよ!」

「喧嘩してるのに、仲がいいのですか?」

「ほら、二人を見て」

「はあ」


 視線を向ければ、また何か小競り合いをしている。


「あんな風にちょっとした言い合いをして、ほら、喧嘩終わるでしょ。なのに二人の間には妙な親近感があるじゃない?」

「はあ……」

「これだよ、これ! 親密な雰囲気を出しつつ、相手に対して心を開き寛いだ気配すらあるわけ。なのに喧嘩がほとんど毎日というこのアンバランスさ」

「はあ」


 そんな二人は馬車に乗り込んで去って行く。それを見届けつつも、一通りケンカップルの事を語り聞かせた。オリアーナは相変わらずクールな様子で、私とディエゴ達を交互に見ていた。


「おいしいイベントシーンだった」

「……いつもこのように覗いていたのですか」

「ぎく」


 いや、そもそもオリアーナとエドアルドは覗けてない。いつもディエゴが邪魔してたからね。でも覗くのだったら、こういう風に覗いていたとは思うけど。


「……あの女性、学園の生徒ではなさそうですね」

「ん? あ、そうだね」


 制服を着ていなかった。ディエゴよりは年下だろうか、明るく素直そうな子だった。ディエゴにはああいう子が合うのだろう。ツンデレには素直な許容力が必要、その上で時間をかけて心を開いてもらう。よし、妄想しよう。素晴らしいぞ、一日ケンカップルで過ごせそう。


「チアキ、やはり覗き見は良くないかと」

「えー……」


 非難の声を上げれば、呆れた様子で私を見つめるオリアーナ。溜息まで吐かれた。ひどい。


「今のを見て、何も思わなかったのですか?」

「ツンデレおいしいな、ケンカップルおいしいなって」

「チアキ……」


 えらく残念そうなものを見る目だ。事実だというのに。


「ツンデレ最近ぐいぐいで、いつも近くてそれどころじゃなかったんだよ。やっぱり外から見てるのが楽しいし癒される。さっきの会話を妄想してるだけで一日すごせる」

「……」

「引かないでよ」


 やっぱり私にはオルネッラが必要だ。いつでも脳内オーディオコメンテータリーできるようになんとか形として残ってもらいたかった。どこでケンカップルの良さについて語り合えばいいというのか。完全に居場所がなくて迷子状態。


「まあこれで昨日からディエゴがやたらいそいそしてて、ジョギング来ないのもわかったし、すっきりだね」

「そうですか」

「青春とは実においしい」

「本当ですか」


 オリアーナの言う事は無視した。

 もうここからの展開だって見えるでしょう。オリアーナの希望通りにはいかない。ディエゴだって年頃の男の子なんだから。


「オリアーナ、行こう」

「チアキ……」


 そう、わかっていた。

 この覗き見から程なくして、ディエゴから言われることをわかっていた。


「チアキ、すまない。しばらく走れない」

「うん、わかった」


 わかっていた。

 こうなるとわかっていたけど、一瞬もよっとしたのは気のせいだ。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 朝の挨拶とか、ちょっとした時に話したりはする。前のように過剰なまでの近さがないだけ。なのに、いないと分かっていて馬車探すとか本当おかしい。


「私の脳内、気でも触れたかな」

「いつもの事では」

「それはひどすぎるよ、オリアーナ!」

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