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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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136話 気づいてしまった

「おやおや」

「チアキ、助けてあげては」


 朝、いつも通り走り終わって講義をこなした昼下がり、エステルトットといちゃついた後に、公務があるからと早々に別れ、ちょうど良くオリアーナとエドアルドに合流したところで、少女漫画顔負けの光景が見えた。


「笑える」

「そういえば、僕も今日結構話し掛けられた気がする」

「エドアルドも? なんで?」

「この前の手紙の山と同じです。エドアルドもディエゴも同じなのでは」

「それであれ?」


 指差して笑えると称したのは女性陣に囲まれたディエゴだ。そういえば、以前も社交界明けに話し掛けられすぎてぐったりしていた。


「ぐったりする前はこうだったのか」

「感心してる場合ですか」

「エドアルドも大変だったね。ああだったの?」

「僕は囲まれてないけど」


 エドアルドは今日ほとんどオリアーナと一緒だったからか、あまりああした囲い込みはなかったらしい。ただ一人になる時を狙って、御令嬢達は突撃してたみたいだったけど。さすが、行動力のある女性が多いのは実に素晴らしい事だ。

 そんな女性陣に囲まれ、うんざりして疲れているディエゴと目があった。


「チアキ!」

「おや、気付かれた」


 女性陣の一部がこちらを見やるが人の輪は崩れない。そこをディエゴは力付くで、女性が傷つかない程度に割って人の輪から逃れてきた。

 最初からそうすればよかったのに。それをしなかったのは女性への優しさかな。おばあちゃんの教育の賜物と言うべきか。


「お疲れさま」

「近くに、いるなら、声を、かけて、くれ」


 ジョギングした後だって息切れないのに、この有様とは女性陣のパワーたるや。


「面白くて眺めてた」

「そんな事だろうと思った」

「ソラーレ侯爵令息」


 呼ばれ、途端顔を固くする。女性陣は諦めていなかった。まだそこに待機しているし。

 一つ浅く溜息をつき、笑顔にはならないまでも、社交界の時の営業顔で女性陣に居直った。その声音はもう割り込む隙がない。


「先程も申し上げたように、先約がある」

「ですが、」

「失礼する」

 

 と言って私の手を掴んで、そのままずんずん足早にその場を去った。女性陣から悲鳴が聞こえる。さすがに追いかけてはこなかった。


「何故私を連れていくの」

「……」


 その問いには無言だった。

 しばらく歩き、以前オリアーナとエドアルドを覗こうとして失敗し、結果ディエゴに芝ドンされたあたりにきた。立ち止まり、急にしゃがむので、私もつられてしゃがむ。さすがにぐったり気味なのか。

 片手で顔を覆っていて今一表情が見えない。


「少し休む?」

「いや」


 覆う手を離し、こちらに顔を向けた。星空を見ようとした時と同じ瞳だった。

 握られた手が熱い。ぐぐぐっと這い上がって来る熱にざわつく。


「チアキ」

「何」

「君が婚約者だと言いたい」

「そう言われても」

「分かっている……分かっているんだ」


 おばあちゃんを前にした時は、私を丸無視して婚約者候補云々の話を進めたのに、ここにきて御令嬢達にはそう言わなかったようだ。何に遠慮しているのだろう。あの勝手さと今の遠慮の度合いの基準が私にはわからない。私への配慮なのだろうか。それならそもそもおばあちゃんに対してあの話をしないはずだし……やはり今一つ分からない。


「チアキ」

「何?」


 この話はそれっきり。その後は当たり障りない事を話すだけだ。当たり前のように、というか有言実行の如く私の隣に居続けて。思えば、社交界で当たり前のようにエスコートされるし、今日みたくたまたま別行動とる以外は大体くっついてきてる。朝も夕方も一緒に走ってる。


「あれ」


 改めて考えると、かなりディエゴ近くない?

 オリアーナが私のためにとディエゴを側に置きたがって協力してたとはいえ、それにしても四六時中一緒じゃないか。いつのまにか違和感すら抱かなくなってる。これは由々しき事態だ。


「ディエゴが当たり前のように……」

「どうした」

「いや、なんでもない」


 ディエゴが探るようにこちらを覗き込んで来るから、思わず目をそらしてしまった。なんだか無性に気まずい。

 

「チアキ?」

「ちょっと待って」

「チアキ、もしかして、」


 彼が何かを言いかけた時、鐘がなった。ディエゴが顔をあげ、時間を確かめる。


「すまない、もう行かないと」

「あ、本当に先約あったんだ」


 てっきり女性陣を撒くための言い訳で、かつその先約は私だと思っていた。確かに私はディエゴと約束してないけど、こうもあいた時間を一緒に過ごすのが当たり前だと思ってるあたり、私はだいぶ思考がおかしくなってきている。

 そんな私の脳内なんて知る由もなく、ディエゴは慌てた様子で馬車を用意し、去り際申し訳なさそうに握る手に力を込めた。


「少し家で面倒事があって……今日は走れない」

「大丈夫だよ、ご無理なく」


 むしろちょうどよかった。あまりにディエゴが近いことに気づいてしまって、どうしたものかと考えてしまったから。

 いやいや、ちょっとおかしい。動揺している自分がおかしい。それを知られずに済んだのは本当に幸いだった。

 挙動不審にならないように帰るとしよう。

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