134話 オリアーナ、もしかして見えてる?
「これなに?」
「先日の社交界の騒ぎのせいかと」
それで手紙が倍以上くる意味がわからないよ。今までは知る人から来る手紙ばかりだった。しかもメインは商談相手。直近新規でお手紙もらったのだって、ネウトラーレ侯爵夫人からの手紙をエスタジからもらった時以来なかったのに。
「刃物飛んでっただけじゃん? え、クレーム?」
「陳情書ではなく、茶会の誘いが主ですね」
「なんで? みんな黒ヒゲ危機一髪(現実)が好きなの? ヒリヒリのギリギリ感を味わいたいの?」
「黒髭はさておき、一度ならず二度も噂の元凶を取り押さえ、自身の潔白を示したのですから、こうなるのでは」
わからないよ、オリアーナ。社交界でやらかした出来事が茶会に誘われる理由になるの?
噂好きの人が根掘り葉掘りききにくるならわかるけど、数が尋常じゃないから、そうでない人もいるんだよね?
わけがわからんと喚く私に、オリアーナはいつも通りクールにスルーし、一つずつ手紙を確認している。
「オリアーナ、スルーしないで! 私に分かりやすく! 説明して!」
「私がチアキに惹かれたように、周囲もチアキに憧れを抱いたのですよ」
「オリアーナが私のこと好きってことしか理解できなかった。私も好き!」
「ありがとうございます」
えへへ、可愛いなデレよ。
いや、違うそうじゃない。周囲が憧れたと。私が騎士と姫様(仮)をボコボコにしたことが? いやボコボコに出来なかったんだけどね。
「先日の社交界での騒ぎは、ガラッシア家の台頭を示します」
「んん?」
見かねたオリアーナが説明してくれる。
ようはガラッシア家、一抜けた的な。前に出ますと名乗り出たようなものだとか。どこの発言でそうなる?
「そうなると、噂みたく権利を牛耳って悪いことするんじゃって思われないんだ?」
「少なからず批判非難は受けるでしょう。しかしそれ以上の賛同があった結果が、この手紙の山です」
「へえ」
あねさんついていきますっ! みたいなものか。
運よくうまくいったんだな、真剣白刃取りがこんな形で役に立つとは驚きだよ。あれ見てたのディエゴぐらいじゃん。
「まあそうだとしても、この量の人と会うのは酷じゃない?」
「なので、チアキの好きにすればよいかと」
「私に丸投げ」
「茶会をするなら私も共に」
判断はするのはよしとしても、この量は辛いので、オリアーナにはある程度精査してもらうことにした。読めば確かに茶会をしたいだのなんだの言っている。
まあ多くは語らないけれど、この件があって茶会は二度とやらないと決めた。私には商談が合っている。ただ会ってきゃっきゃうふふするなら、気の合う仲の人でいい。
勿論、この茶会から始まるものが支援者として繋がるわけだから無碍にはしないけど、今度は別の形でなにかしようと思うレベルだった。今までどこにきても、そこまでぐいぐいに話し掛けられなかったから油断していた。いつの時代もどの世界も女性のエネルギーは強い。まあ私も他人の恋ばな聴きたいし、ネタ手に入るなら努力を惜しまないけど、それをされるとどうかと言われると話は別。おっと話を元に戻すか。
「チアキ、婚約者候補の名乗りは断る形でよいですか?」
「そんなのもきてるの」
というか男性陣からのはほとんどそれだ。私にもオリアーナにもきている。
急になんだ。今まで見合い話はまったくきてなかったのに。この世界、設定緩いから自由恋愛も可能で、爵位のある者達に古き良き婚約だのなんだのが残ってるって程度の認識だけど。エステルトットはそんな古き良き慣習にのっとって、公に婚約してるけどね。本当尊い。
「政略結婚するにしても今更じゃん」
「これが来るということは、社交界の噂は解消されたということではないでしょうか」
「そんなあっさり?」
「完全に解消されてなくても、ガラッシア公爵家と懇意にしている方が利があるという判断をされたのでは」
「なるほど」
それなら気がねなく断ればいいか。
オリアーナにはそもそもエドアルドいるし、私はその気がないから全部お断りだな。オリアーナが父に任せることにしますと、大量の手紙及び釣書をアンナさんに渡した。
あの父に任せるのも心配ではあるけど。子離れ出来てなさそうだし怒り狂うんじゃないの。あ、でもトットやらエドアルドやらディエゴやらには対応いいしな。子供の交遊関係になら口出さないタイプなのかな?
それか爵位のある者らしく、年頃の娘達にお相手をと言い出して乗り気にならないだろうな。暴走したら止まらないタイプだから、そっちはそっちで心配だよ。
「大丈夫です、父も断ることに賛成ですよ」
おっふ、オリアーナってば私の考えてることわかりすぎでしょ。
いや、それにしてはだ。クレームなんて言葉知らないはずなのに陳情書だと理解していた。
別に今シリアスになる気はないけど、素朴な疑問に応えてもらうことはできるのかもしれない。
そう思ってオリアーナに声をかけると、いつも通りクールに私を見返した。
「オリアーナ、もしかしてなんだけど」
「はい」
「みえてる?」
その言葉に僅かに身体をふるわせたのを見逃すはずがなかった。




