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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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128話 社交界、不穏なひそひそが復活する

「おや、懐かしい」

「懐かしんでる場合か」

「……」

「オリアーナ、大丈夫?」


 ディエゴの風邪も全快、延期したプレゼンでも相変わらずおばあちゃんにぼこぼこに論破された次の祝日、定期的に行われる社交界に顔を出したら、いつぞやの悪意のあるひそひそと遭遇した。

 私とオリアーナに視線が向けられてる時点で対象は我々だろう。


「オリアーナ」


 隣のエドアルドが心配そうに声をかけていたオリアーナは肩に少し力が入っている。無理もないか、なにせ長年社交界でこんな目に遭っていたわけだし。


「オリアーナ、私の言いたいことわかる?」

「はい、チアキ」


 何度も言ってるしね。虚勢ではなく、あくまで自然に堂々としていること。

 肩を少し上げ下げして力を抜いて私を見つめてきた時には瞳に力が戻っていた。さすがオリアーナ、これなら大丈夫だね。


「チアキ」

「トット、エステル」


 念の為、きちんと挨拶をしておく。傍からそう見える程度に。


「これ、なんでこうなのか知ってる?」

「ああ」


 さすが二人調べ。情報が早い。

 曰く、急激な事業拡大に伴う成功と十年目覚めなかったオルネッラ(中身オリアーナ)の突然の目覚めという吉報は、ガラッシア家が社交界の利権を乗っとる為に仕組まれていた事ではという話だそうだ。挙句の果てには、最近急に関わるようになったエステルとトットとの関係から、王家転覆を目論んでいるのではないかという話に加え、あの事故とオルネッラの植物状態は故意によるものといった話まで出ている。

 さらに加えるなら、外交に強く王が信頼も寄せるソラーレ侯爵家や社交界の重鎮ネウトラーレ侯爵家とも関わりを持ち始めたのも利権を得、王家転覆の為の通過点とかなんとか。すでにネウトラーレ侯爵家を陥落させ、社交界は実質ガラッシア家が握っているとか。


「やっぱり」

「あら、知っていたの?」

「予想の範囲内だよ」


 ジョギング大会の開催とディエゴの優勝も影響してるだろうし。

 個人の事業の成功がいくら社会現象に至るレベルで流行っても、記念して大会開催にしては早すぎる。しかもディエゴが優勝なんて、八百長でもしてるのではと思われても仕方ないぐらい出来すぎたストーリーだ。

 もっともどれも偶然の運良くいった結果だから何も悪く思うところはない。

 マイノリティはいつだって存在する。それがたまたま表面化しただけのことだ。


「ま、いつも通り挨拶回りするかな」

「放っておくのか」

「挨拶回りをしながら噂の大元を特定するんだよ」

「成程」


 ディエゴと踊った社交界のひそひそ(黄色い声)も割とすぐに鎮静化したから、これ以上の噂の流布自体は懸念していない。ただ出所は特定して早めに解決するのがいいだろう。まだこの手が苦手そうなオリアーナのためにもだ。


「チアキ」

「何、オリアーナ」

「私は大丈夫です」

「……うん」


 私が考えていたことに対してか、オリアーナの返事の健気なこと。もう最初に出会った頃の彼女じゃない。この程度の視線や噂で自殺志願者には至らないということ。可愛いなあ、もう。


「チアキ、顔が」

「おっふ」


 そのツッコミは変わらないのか。私にゆるくなる日は来るかな無理かな?


「オリアーナ、オルネッラ」

「おや、叔父様」


 ひどく焦った様子で小走りにこちらにやってきた叔父こと、アッタッカメント辺境伯は血相を変えつつも、きちんとトット達に挨拶をした後に私とオリアーナに向き合った。


「今回のは私ではないからな!」

「私なにも言ってないんですけど」

「いいか? 私ではない! 君の事業に助けられているのもあるし、あの頃の私はどうかしてたと自覚もある」

「はあ」

「私ではないないからな!」


 と散々言いたいことだけ言って、叔父は去っていく。三回も言ったよ、あの人。

 端から叔父だとは思っていなかったのだけど、やはりまだ被害妄想の気は残っているらしい。

 そもそも彼には呪いの件もあった手前、あの事故から自分の死について恐怖を覚えて暮らしていた可能性は想像できる。まあそれを先に知っていたとしても、直近の過去ボコボコにすることには変わりはなかっただろうな。


「もう終わった話だけど」

「君が気にしてなくても、あちらが気になるのだろう」

「そっか」

「チアキ」


 叔父を生暖かく見送ると、エステルが何気なく私の耳元で囁いた。周りからは分からないようにしてるから、エステル的には要警戒ってことか。にしても美人が耳元で囁くとかすごい奇跡。いい匂いがすぎる。本当この世界の人達いい匂いしすぎじゃないの。男女関係なくいい匂いにあふれる世界。幸せすぎる。


「エスタジ嬢がネウトラーレ侯爵夫人と共に調べてくれてるわ」

「ありがたいね」


 けど、すぐに出所わかる気がしてきた。そう言うと不思議そうに首を傾げるエステル。息を飲むレベルの美しさよ。余すことなく脳内シャッターをきった。


「分かったの?」

「いや、感だよ」

「感?」

「しいて言うなら、急にぽっとでてきた話であることとか? たぶん様子を見たいだろうから、この場にいるだろうなあって思えることとか?」


 希望的観測でもある。

 今、ここで尻尾を掴む事が出来れば手っ取り早い。場合によってはボコボコタイム突入になるかもしれないし、それなら今だ。

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