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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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126話 風邪で弱りきったツンデレ可愛いよね

「なんで来たの」

「……問題ない」


 いつもの朝、ディエゴが変わらず一緒に走ろうとやって来たはいいけど、明らかに動いたら駄目だろうという状況だった。


「やっぱり冷えたんじゃん」

「違う」

「誰が見ても一目瞭然だからね?」

「問題ない」


 この頑固者をどうしたらいいのか。

 顔は赤いし、すでに息切れ気味で、眼は虚ろ、鼻水も少しあるかな。ふらふらした足取りでやってきて、立ち姿でもすでにおぼつかない。


「どれ」

「!」


 おでこに手を添えれば案の定。この熱さは駄目だ、医者じゃないけどドクターストップだせるやつ。


「風邪だね」

「違う」

「なら、クラーレ呼ぶ。診てもらって潔白を証明してみせなよ」


 ぐぐうと唸るディエゴは心底不服そうだった。

 いや、休もうよ。そんなんで走っても倒れるだけだし、学園だって一日休んでも問題ないぐらい勉強できてるでしょ。


「そんなに走りたいの」

「……」

「チアキ」

「なに、オリアーナ」


 ここにきてオリアーナが助け舟を出してくれた。

 客間を使いましょうと。このまま帰すのも症状的に辛そうだから、一旦ガラッシア家で預かり、クラーレに診てもらって処置してから帰宅がいいと。


「そうだね、そうしようか」

「俺は、」

「黙って、ディエゴ」

「ではチアキが彼を介抱すれば良いかと」

「ん?」


 私はエドアルドと走りに行ってきますと言って、すぐさまこの場を去るオリアーナ。ハニーフェイスがあわあわしながら、私とオリアーナを交互に見つつ走り去っていく。


「オリアーナってば」

「いや、いい。俺も走る」

「駄目だよ」

「走る」

「ああもう、強情すぎ!」


 彼の手を取って、強制的に客間へ向かった。

 余程のひどさなのか、ふらつきながら黙って付いて来てくれたのが幸いで、客間へ入りベッドへ投げ込んで、上掛けをかけても無抵抗だった。


「水分とれる?」

「ああ……」


 アンナさんに水やらタオルやら一式持って来てもらう。

 クラーレに来てもらう手配はしてくれたみたいだけど、ここに着くまでには時間がかかる。その間は仕方ないのでオリアーナの言う通り介抱することにしよう。そうすればたぶんディエゴは大人しいはずだ。


「クラーレ来るまでここにいるから大人しく寝てて」

「……」

「返事は」

「分かった」


 素直になった。さっきの頑固者はどこへやら、初めからこうして寝てくれていれば、症状だって悪化しなくてすんだんじゃないの。


「チアキ、学園は」

「さぼるよ」

「それは」

「行ってほしいの?」


 唸るディエゴ。やっぱり病に伏すと人は弱くなるし、ついでに素直になるよね。ほら、よくあるやつ。淋しいから傍にいてとか言っちゃうのは風邪イベントであるあるだ。


「ここにいるよ」

「また妙な事を考えているな」

「通常運行です」

「……」


 じっと見つめられたところで何も怖くないぞ。むしろ王道中の王道じゃない。潤む瞳で見つめられるとか!

 最高過ぎて、この場でもんぞりうっちゃいそう。さすがに病人目の前だから我慢するけど。

 世のご令嬢達がこれを見たら卒倒するんだろうなあ、理性保てないんじゃない?

 強気に睨んできたってそれはただ可愛いだけ。あ、これが据え膳か。唐突に悟ったわ。


「顔が緩んでるぞ」

「ひっ」

「まあいいさ……」

「不謹慎でした、申し訳ありません」

「かまわない」


 そういうところは大人の対応ですね。

 よしよししようということで頭撫でてあげた。いや、決して弱った姿が可愛くてよしよししたくなったわけじゃない、相手は病人だ煩悩は抑えている、そう我慢出来ているはずだ。

 あああでも弱りきったツンデレ可愛いよねええ!


「あまり近づくとうつる」

「気にしないでいいよ」


 もう一度コップ一杯の水を飲み干して再びベッドに沈むディエゴを見ながら、どうしたものかと考える。いると豪語したものの、なかなか私にとっての我慢大会がすぎる気がしてきた。

 けど、ここでアンナさんに代わっても、今度はディエゴが無理をして起きようとしかねない。ツンデレは基本親交を深めないと強がるから。そのツンがいいのだけど。


「本当は、」

「ん?」


 掠れた声の威力よ。

 ああ録音したいなあ、すっごいサービスタイムだよ、これ。


「本当は、今すぐ君を抱きしめたい」

「ごふっ」


 このツンデレは弱るとこじらせに拍車がかかるらしい。とんでもないものをぶちこんできたぞ。傍にいてほしいとか手を握ってほしいとかじゃない、飛び越えて抱きしめるを選択してきた。


「ディエゴ、落ち着こう」


 おいしいけど。


「でもしない。君にうつるのは嫌だからな」

「お気遣い、どうもありがとう」


 今すぐ、おばあちゃんとご両親呼んで説教したいわ。こんなけしからん令息を産み育ててどうしてくれる。この世はツンデレで沈むぞ。ありがとうございます!


「チアキの前では格好がつかないな」


 一人脳内でもんぞりうっていたら、ディエゴが困ったように呟いた。

 昨日は湖にダイブして、今日は風邪で寝込んで、本人的に今一つ格好つかないらしい。私には充分なご褒美だというのにだ。


「まあ普段可愛いだの癒しだの尊いだの言ってるけど、ディエゴは客観的に見て格好いいと思うよ?」

「はは、冗談を」

「私にとって萌え大なり格好よさだけど、それを差し引いたら冗談なくイケメンだからね」

「そうか」


 満足そうに笑う姿も力がない。結構重症ぽいし、さすがに話してる場合じゃないだろう。


「寝た方が良くない?」

「いや、話をしていたい」

「話すの辛いでしょ」

「嫌だ。君と話す」

「私の事好きすぎでしょ」

「ああ、好きだ」


 デレがすぎる。

 寝るよりもお話ししてたいの、とは。なんて乙女チックなのよ、ディエゴ。

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