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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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124話 優勝の御褒美

「あれ、おばあちゃんとの約束だったの」

「ああ」


 有言実行、なんなく需要ある者へ褒美が与えられた翌祝日。私はディエゴとすごしている。珍しく互いに畏まった衣装でだ。

 形から入るのは、そもそもディエゴの約束した相手、つまるとこディエゴのおばあちゃんが提唱してきたこと。


「どうりでプレゼンがスムーズにずれたわけね」

「御祖母様は正当な成果を得たら、婚約者候補として会っても良いと認めて下さったから」


 そんなの勝手に会いにくればいいじゃないと思うけれど、プレゼンが差し迫っていたから、おばあちゃんの方に分があった。交渉したところでプレゼン優先が最初のおばあちゃんの言い分。

 だからディエゴは成果を出すから褒美をよこせ、すなわちプレゼンずらせという交渉に走ったわけで。確かにあの大会でソラーレ侯爵家の令息が現役騎馬部隊や警備隊を退けて優勝するというのは家柄的に名誉なことだ。社交界でも名がより知れる。

 おばあちゃんにとっては、たかだかデート一回くれてやるだけで、見返りは大きい。すごいな、おばあちゃん。そこまで考えていたの。


「一番になれて本当安心した」

「圧倒的だったのに?」

「いや、なかなか厳しかった。それにあの二人は君とのでーとを狙っていたし」

「先頭グループの人?」


 まさか~と茶化しても目の前のディエゴはぶすっとして応えた。

 騎馬部隊、警備隊の代表ということは優秀な成績をおさめていて、かつ若手。結婚していなければ令嬢との話なんてごまんとあるだろう人物だ。なによりイケメンだった。間違いなくモテる顔だ。本気であれ遊びであれ、デートに困らないタイプだよ。


「走りながら少し話した」

「なにそれ詳しく」

「チアキの望む話はない」

「いいから話してよ」

「嫌だ」


 話振っといてなんなの。話してよ、内容はともかく、というか勝手に変換できるから話してよ。

 それでもディエゴは頑として話さない。なんだよ、あの映像、音は拾えてなかったから全然話してたなんて知らなかったし。参加してないけど、見る側として私も癒しという褒美がほしい。


「そもそもだ。俺はもっと別の、」

「別?」

「こう、もっと、別のでーとを」


 今、私とディエゴは遊船という名の簡易的な屋根つきの小舟に乗って湖の上でまったりしている。

 個人的には湖といえば湖際で焚火しながら、コーヒー飲んで景色を堪能したいとこだったんだけど、アウトドア回は終了している挙げ句、デートプランはオリアーナが全部組んでいた。

 いくらプランニングする権利がこちら側にあっても私の意思はどこにあるのか。

 それはディエゴも同じ思いだったらしい。こっちがデートプランを決めると言えば、こっちが決めたいみたいなリアクションだった。けどオリアーナがこの褒美を実現してくれた手前、なにも言えなかったらしい。渋々了承していた。


「オリアーナ様との茶会にご招待だったもんね」

「そうだが」

「どこ行くか考えてたの?」

「え、いや、そういうわけでは」

「やたら自分が決めたいって言ってたもんね。始めから終わりまで考えてたんじゃないの?」


 いや、ちが、と、どもり始めるディエゴが可愛すぎて困る。明らかにイエスといってるようなものじゃない。


「おお? どうなの?」


 ぐぐいと迫る。この中で動くと傾きそうだから迂闊に動けないけど、その狭い分彼に逃げ場はない。

 視線をそらしても、私はガン見し放題だ。


「どやどや」

「からかうな!」

「ごちそうさまー!」


 私の反応に肩を落とし、うなだれるディエゴ。やっぱりかとぼそぼそ言っている。可愛いねえ。デートプラン考えてましたって言ってるツンデレおいしい。


「うえへへ」

「品がない笑いはやめておけと」

「鋭意努力中ですねえ」


 いつもの返答に唸るディエゴ。仕方ない、私にとって真逆のキャラであるクールキャラへたどり着くには、時間が必要だ。おそらく年単位で。


「品性をお求めなら、他の名のあるご令嬢の所へどうぞ」

「嫌だ」


 そこだけはきっぱり断るディエゴ。


「諦める選択肢ないんだね」

「ない」


 これまたきっぱり、強めの眼光をさらに強くして応えた。


「もう想うだけで何もせずに後悔したくないから、今度は自分の気の済むまでやると決めた」


 ああ決めた人強いんだよねえ。遠い目しちゃう。

 そんなディエゴはさっきの動揺ぶりなんてどこへやら、しっかり私を捉えて希望はあると思っていると囁いた。おっとうっかり聞き逃すとこだったわ。


「いけると思ってる?」

「俺は君の好きなイケメンなのだろう?」

「確かにイケメンです」

「それにツンデレなのだろう?」

「確かにツンデレも好き」


 イケメンという言葉もツンデレという言葉も使いこなしている。順応力高いな。けど、それは多くの前では通じないから、あまり使わないようにね。せいぜい、いつもの面子しか分からないし。


「それに……」

「ん?」

「君は俺の事を嫌いだとは思っていないだろう?」


 確信してる。

 オリアーナにも言ったけど、嫌いじゃない。好きだけど、ディエゴの求める好きでもない。それだけだ。けど、それだけでも彼にとっては充分のようだった。


「君が俺に甘い事も知ってる。だからそこは思う存分つけこむし、利用する」

「本人前にして言う事?」

「形振りかまってられないからな。俺は変わらず、君が好きだ」


 色々突き抜け始めてきた。

 ここ最近忘れてたけど、ツンデレはツンデレでもこじらせてるんだったわ。引っ付いてればいいぐらいにも思ってるし、決めている手前、当分はこれが続くと考えていいだろう。

 おばあちゃん、やっぱり見極め終わるまで接触禁止とかのがいいよ。もしくはこじらせを解消してからのがいいよ。とんでも行動が侯爵家の名に恥じないことを祈るばかり。


「本当ディエゴすごいわあ」

「チアキ、水の中に手を入れるな」


 気晴らしとばかりに水面を触れていたらお姑センサーに障った。

 曰く、ここ最近水生生物の中でタチの悪いものが増えているらしい。トットの方で駆除や捕獲をしているものの、追いついてないとか。


「ふうん」

「危機感がないぞ」

「勝てる自信があるからね」


 そういえば、登山した時もネウトラーレ侯爵夫人の従者さんが言ってたな。机上でしか学んだことないから、生で拝んでみたいところはあるのだけど。


「ん?」


 ぬるりとした感触が掌を触った。

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