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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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117話 プレゼンはおばあちゃんのツンによって玉砕する

 さあ、神よ。最大限努力するので、おばあちゃんのデレを見せてください。


 決戦日、私はディエゴのおばあちゃんが嫌そうにするのを見て見ぬ振りしつつ、ソラーレ侯爵家応接間に件の物を搬入した。その大きさと使用用途が分からないのか、眉間に皺を寄せておばあちゃんが唸る。


「これは?」

「ホワイトボードです。専用の筆を使えばこちらですぐ消したりできます。かつマグネットと呼ばれるこちらがくっついてですね、ま、非常に説明しやすくなるんです」

「……また珍妙なものを」


 間に合ってよかった。服飾と薬関係にしか事業を展開してなかったガラッシア家にはこうした事務用品を作れる技術がなかった。そこをうまいこと商会の伝手を使って完成したこちらの世界版ホワイトボード。

 さすがにパソコンにプロジェクトを使ったものは時代的にも早すぎたので却下だ。


「折角なんで私のプレゼン楽しんでください」

「ぷれぜん?」

「少人数大人数問わず、相手に説明する事ですよ。大丈夫です、ささっと済ませます」


 動画サイトで人気の説明士の如くだ。


「はい、では今回は建国史を箇条書きにまとめました。向かって右側が私達が普段学ぶ歴史、左側が所説とよばれるものです」


 建国史を読み解くに、我が国フォルトゥナートは、魔法を軸に栄えた国である。

 最初の王が建国後すぐに、側近として登用した占術士が魔法使いの祖の血筋だ。当時小さく争ってばかりだったこの国を魔法と政治を使って治めたのがこの国の始まり。


「正史においても魔法使いの祖一族は強い力を持ち、国の中枢にいました。所説と正史が大きく違ってくるのは三世の時からです」


 三世トーレ王の時、宮廷占術士反乱につき内紛が起きる、これが正史。正史においてトーレ王は反乱を鎮め、その際に占術士一族の八割が死亡、生き残った反乱者一割は魔女裁判によって断頭台にて処刑。

 当時一族の魔力は今より強力だった。近親相姦により濃い血を残し、故に短命ではあるが、予知の能力ひとつにつけても遠い先の未来を見通せたり、この世界以外ですら見えていたりと逸話が数多く残るほど。その力の強さ故フォルトゥナートは領土を広げ栄華を極めることができたといえる。正史にその記載がある時点で、公に力の強さが認められているのもなかなか面白い。

 もっとも今その血を受け継ぐ私やオリアーナには予知の兆候すらない。


「これは教科書には載らない王都の閲覧可、持ちだし禁止の書籍のいくつかに記載されていたものですが、その時代地位も力もトップだった占術士が当時の外交官と隣国へ亡命。情報漏洩と魔法という戦力が隣国に渡ろうとする危機に脅威を覚えた王族は占術士一族を処刑した、という所説も存在しています。わかる範囲の書籍に隣国が占術士を得て力をつけ領土を拡大した歴史がないことから、魔法について隣国へは渡らなかったというのが通説ですね」


 こういうのがあるから所説好き。完全にこちらの妄想を煽るネタなのもまたいい。その外交官と占術士はどういう関係だったとかね。考えるだけで幸せというものよ。

 さておき、どちらにしろ一族の虐殺は事実としてあったとする。その最後に生き残った一割はからくも山間部奥へ逃げ込んだ。

 さて、ここからは言い伝えと個人の私書によるものになってくるが、この私書の著者が長年にわたり山間部の少数民族と関わりを持っていた。もちろんそこには魔法使いの祖一族も加わっているのは言うまでもない。


「正史では、ここで初めてフォルトゥナートが一つの大国として、山間部の少数民族の権利について考えなければいけない時がきました。それはやはり魔法使いの祖一族が山間部に逃げ込んだのが一番の要因であり、反乱を懸念したというのが正史です」


 この少数民族との和解及び同盟については長い時間がかかる。元々山間部は管理外、少数民族に会うことすら難しいのは登山したからよくわかる。魔法使いの祖一族のとこですら、近場扱いだ。本当に正史以前より山間部にいる他一族はより奥地を拠点としていたりする。そんな場所へ登山初心者が簡単に行くには難しいし、魔法を使おうにも立地的に難しかったのだろう。


「ここで所説です。とある一族が仲介に入ります。この一族については一切正史に記載がありません。ですが、存在しています。ここは確実ですが名前を言う事は出来かねます。ご了承ください。

さて王陛下と一族との間に入るとともに、苦節数百年、先代の王の時代に正式な少数民族との同盟和解権利の取得が認められ、史実にもある通り王陛下は発表なさいました」


 そもそもこの数百年少数民族が暴動を起こすといったこともなかったし、害がないことは証明されたようなものだと個人的に解釈している。それを是としない者もいるだろう。

 ホワイトボードに正式な手続きを通して取得した少数民族との同盟の書類の写しを張って見るが、なかなかきちんとしたものを作っている。魔法使いの祖一族との同盟書類ではないが、本当に建国史通り様々な一族が存在していたことが、この資料から分かるわけだ。


「この国に根付く少数民族への疑心暗鬼とも呼ばれる偏見は数百年続いているものです。ここに言及しましょう。そもそも魔法使いの祖一族はこの地でまじないを元に人々の病や怪我を治すメディコの起源でした」


 これは建国史ではなく、気象と一次産業及び民俗学の書籍から知れたことだけど、反乱と処刑のあった年は大干ばつや洪水から飢饉の発生が確認されている。それが現在も魔女の怒りとして語り告げられているという面白い所説があった。

 最初の魔女の怒りからおおよそ百年後に訪れた干ばつも同じく、さらに二百五十年後に起きた疫病も魔女の怒り。根拠はない。けれど、なにか国を脅かす大きなことが国に起きた場合、この言葉がいやという程出てくる。そしてそれは偏見として引き継がれて今に至ったという所説。これは熱い。


「この繰り返しが恐らく魔法使いの祖一族が脅威である由縁でしょう。そう唱える歴史学者も数人おりまして、直接話をきくに至っています。こちらが民俗学から見た驚異の転換についての研究論文になります」


 さあ簡単に正史と所説を話したところで、今回の一族訪問の話をしよう。とはいっても、結局会えた生き残りは一人、王都や山間部へ散った者とキャンプタイムについては敢えて伏せておく。

 そしてあの老婆の発言を提供して終了だ。魔法使いの祖一族は絶滅するだろう、呪いの履行もない、王都への反乱なんて以ての外だと。

 さて、ディエゴのおばあちゃんの反応は。


「それがどうしたというのです」

「ですよねー」


 予想通りだった。

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