114話 ワンモアキャンプタイムは却下される
けど、呪いのことは納得できていない。呪いという魔法一言で片づけていいの?
母が死んで、オリアーナもしくはオルネッラが犠牲になる。一族の血を守るために?
ああせめて私にも千里眼な能力が開花してればよかったのに。
「もうお前の世代からは予知には目覚めないさ」
「脳内覗かないでくださいってば。てかやっぱり覚醒的なのないんですか」
「そうだね。思考することを止めなければ、成果はそれなりに得られるんじゃないか?」
「ええ……それは通常運行ってことじゃないですか」
「ああそうさ。けどお前は日々進化している」
「えと、褒めてくれてるんですかね。ありがとうございます」
何を満足したのか、帰りなさいと、一蹴された。その人はそのまま小さな家に帰って行く。
「ちょっと、もう少し教えて下さいよ」
「お前の母親の事なら、それは母親にしか分からない事だ。それに私はもう直に終わりが来る。あの村から出たからね」
「呪いは誰かが誰かに行使する魔法じゃないですか。貴方に誰が魔法をかけるんです」
「私は一族のしきたりに殉ずるだけだ」
自殺志願者がここにもいる。やめてよ、その手はもう充分です。オリアーナに立ち直ってもらって僥倖だけど、それ以上あっても困る。
「小娘、それは違うな」
「え、何が違うんですか」
本当この人とは脳内テレパシー的なもので会話するのが早いんじゃないの。
「私は天命を全うしたに過ぎない」
「格好良く言ったって死ぬ事を決めてるのは変わらないじゃないですか」
「うまいこと言ったつもりだったんだがね」
「誤魔化さないでくださいよ」
本当だよ、と老婆は小さな家の扉の前でこちらに居直って笑った。最後にここの者に世話になってるだけ良い最期さとか言って。
「では正史と異なる部分だけは教えておこう」
「ん?」
「私達一族はこの国を乗っ取ろうとも考えていなかったし、傾かせようともしていなかった。内紛の原因も我々ではない」
「はあ」
いけない、建国史深めてないから、そのへんさっぱりだな。
「そもそもこの広い国は本来我々が最初に治めていた。部外者はあちら側だ」
「今の王族ですか?」
「そうさ。この山々の向こう側ではとうに知れているな。そういった意味では、転移という認識は正史の初めからあったのかもしれないね」
「えと、ちょっとよくわからないんで、勉強し直してからまた来てもいいですか?」
「ならぬ」
お断りされた。
というか、その頃にはもうこの世界にいないのかもなんて不穏な事を考えてしまう。
明らかにチートがいて成り立つ世界でもないしな。そういうポジションはどちらかといえば、トットとエステルだし、キャラかぶりはよくない。いや問題はそこじゃないか。
「次来れば死の魔法をくれてやろう」
「私がいくらスーパーマンでもそれはちょっと嫌ですね」
「緊張感がないな」
「あ、それよく言われるんですよ」
主に後ろの人に。咳払いまでしちゃってるけど。
「分かりました。ひとまずオルネッラが飛ばされた事だけでも分かれば良しで」
「そもそもお前はこんなことを追及する必要がないはずだが」
「性分ですよ。気になると、どうしても知りたくて」
「変わった娘だな」
「それは自負してますよ」
お礼を言ってお辞儀をする。
今度こそ魔法使いの祖は小さな家へ戻っていった。同時、案内してくれた娘さんが出てきて、逆にお礼を言われる始末。
なにやら、あのおばあちゃんがあんなに生き生きしてるのが嬉しかったらしい。
「木こりさん達はあのおばあちゃんと親戚じゃないの?」
「ううん、近くにはいたけど、違うみたいで」
「別一族か」
「でも仲は良かったみたい。だから、お父さんもおばあちゃんの面倒見てあげようって」
「世の中捨てたものじゃないね。おばあちゃんによろしく」
「うん」
そうして山を下る事になったわけなんだけど。
侯爵夫人は何故かにこにこ機嫌がいい。私と魔法使いの祖との会話がそんなに面白かったのか。
「楽しかったんですか?」
「ええ、あの方にお会いできただけでも嬉しいけれど、貴方が色々変えていくのを見るのも楽しいのよ」
「はあ」
特段何かしてるわけではないのだけどね。
夫人には新鮮らしい。
隣のディエゴは割と真面目な顔をしてシリアスな感じだしな。
「あ」
「どうした」
「山下ったら王都の図書館行く」
「付き合おう」
「図書館なら安全だよ?」
「いや行く」
お姑さんが過保護ですね。
死の呪いは私にはないのだけど、どうやらそこではないらしい。何が彼を引っ付き虫にさせるのか。
「そこは置いといて」
「どうした」
「キャンプタイムをもう一度詳細に描こうかと」
「それはさすがに止めておけ」
「ええー……」
せめて三十分貰ってゆったりしたアニメーションでお願いしたいのに。さすがにそれは前半戦で充分らしい。いっそここでジャンル変更もありだと思うよ。ほのぼのコメディシリアスありな恋愛ものから、ゆるーいアウトドア系に変更してもいいと思う。
そう訴えてもディエゴには駄目だと一蹴された。侯爵夫人は楽しそうに笑っているだけだった。
「わかった。じゃあせめて推しの可愛さについて山の向こうに叫ばせて」
「どうしてそうなる」




