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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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11話 箒に跨って空を飛ぶなんて出来ない

「いってきます」

「お、お嬢様、馬車を」

「何度も言っ、いましたけど必要ありません。徒歩で行きますので」


 引き止めるアンナさんを無視してオリアーナと共に進む。オリアーナも徒歩で通学は気になるのか、敷地内を出たら早々に話しかけてきた。


「チアキの世界では馬車を使わないのですか?」

「馬車自体がそう見ない世界だけどね。ま、このぐらいの距離なら私は歩いちゃうかな。馬車使うまでもないよ」

「そうですか」

「歩くのって健康にいいんだよ」


 なにせ自然に溢れている彼女の領地内、森林浴しながら通学出来るのは贅沢だ。セラピー効果もあるので、オリアーナには徒歩で森林浴を習慣づけてもらおう。


「さて」


 学園内、朝から登校する生徒の多くは確かに馬車で来る数が多かった。

 その中で見覚えのある馬車がやって来る。周りも沸き立つからすぐにわかるし、本当こういう時そのカリスマ性は便利だ。


「エステル」

「チアキ!」


 朝の挨拶を済ませると程なくしてトットも登校してきた。

 時間帯がばっちりゲーム通りで助かる。彼彼女は始業の三十分前、人手が多くなる前に馬車に乗ってやって来る。その設定内容が、人気があるが故の人手を避けた登校とかなかなか飛んだものだった。さすがゲーム。


「そちらが、ガラッシア公爵令嬢かしら?」


 黒い犬に手を向けて言うエステルに対し、オリアーナはお座りをして待機だ。

 表情はわからないけど、犬らしく一声鳴いて答えた。


「そうだよ、犬の名前はテゾーロでね」

「私達とは話せないのかしら?」

「どうなの、オリアーナ」

「私が話せるのはチアキだけです」


 そういう魔法なのか、魂の入れ替えの代償なのか。私にはよくわからないがそれを伝えるとやっぱりと言った具合に二人が頷いたからそうなのだろう。

 ひとまず校舎内に入ろうと言う事で、中庭を通って運動場を進んで行く。


「普段は脳内で会話? してる感じ」

「魂の入れ替えの際、精神が繋がったのだろうな」

「完全な入れ替わりではないから、ガラッシア公爵令嬢の声だけがチアキに届くのね」


 皆、物分かりよくて話が早い。

 さすがゲームの世界だけあって、そういう特殊な設定に強い。

 なんでもありとはこういう時に役立つ。最もそれが嫌というユーザーもいるけど、私は基本大歓迎だ。


「おや」


 運動場を横に進んで行くと、箒がたくさん立てかけてある。

 魔法という設定がある以上、箒に乗るということもあった。ただ魔法習得のサブシステムではそこまでメインをはるほど出てなかったはずだけど。立てかけてある中で、いくつか地面に転がっていて、仕様がないきちんとしまっておこうと手にとった時だった。


「チアキ、駄目よ」

「え? なん、」


 エステルの言葉虚しく、私は強い力でぐいぐい引っ張られ、気づけば遥か上空へ飛び立っていた。

 眼下、エステルとトットが箒に跨り追いかけてくる。私はとても早いスピードで箒に引っ張られていて、さすがにこの高さと速さで手を放そうとは思えなかった。落ちたらまたグシャグシャになって命終わるでしょ、これ。


「チアキ!」

「ど、どういう!?」


 この速さで二人が追い付いて並走している。さすが魔法の才に恵まれた最強のヒーローとヒロイン、コントロール力も素晴らしい。


「この世界での箒はチアキの世界でいう、すぽーつでしか使わないの」

「お、おお」

「手にした瞬間に持主の魔力で勝手に動き出すものだ」

「お、おお」


 説明は有り難いけど、出来ればそれは地上に戻ってからしてほしい。お陰様でじぐざぐに突き進んだり、いきなり高度をあげたりさげたりして結構辛いのだけど。


「チアキ、手を!」


 伸ばしてくれる手をとろうにも、暴走した箒ではなかなか手にとる事が出来ない。

 あれ、これちょっと名作と呼ばれたアニメ映画にこんなシーンなかったかな。

 それはともかく、どうにか地上に安全に戻らないと。

 けれどなかなかその手を掴めない。

 彼彼女が何かを呟いて魔法をかけようとしてたけど、それもうまくいかなかったのか何も起こらないし、箒は変わらず自由に飛び回っている。


「私の魔力、元気すぎ」

「チアキ!」


 これ以上長引かせると二人の負担になる挙句、多くの人の目にとまるだろう。事実、地上では人がちらほら集まってきている。

 仕方ない、多少の犠牲を払おう。なるたけ死なないよう努力しつつだ。


「チアキ?!」

「ええい、ままよ!」


 高度を下げた所で手を放した。

 ざっと見て建物五階ぐらいから落ちた感じか。頭が下にならないよう降下して、最後は反転して左足が下になるように体勢を整える。

 犠牲にするなら片足だ。衝撃によっては腰と背骨が危険だけど、頭をやらなければ希望はある。


「チアキ!」


 一度死んだようなものだ、もう怖いものはない。


「!」


 漫画でいうならドンという大きな音が学園に響き渡った。

 目を閉じて衝撃に耐えていたけど、おかしなことになんともない。

 ゆっくり目を開けると、足元は私を中心に一メートルぐらいの円状に芝生が飛んで直接土が顕わになっていた。心無しか地面が少しへこんでないだろうか。


「チアキ? 怪我はない?!」


 慌てた様子でエステルとトットが空から降りてくる。

 そういえば、どこにも痛みはなかった。左足を動かすと痛みはなく、変に曲がってもいないし出血すらない。


「あれ?」

「どうした、チアキ。無事なのか?!」

「……」

「チアキ?!」

「………大丈夫みたい」


 おかしさに動きがぎくしゃくしたけど、全く問題ない。ちょっとした段差降りただけのレベルで、試しに歩いても通常通り、跳ねたり屈伸してもなんともなかった。


「よかった……」


 エステルがほっとしている。そしてそこにきて周りがざわつき始めたのを感じた。


「いけない、校内へ入ろう。ここに留まりすぎては目立つ」

「そ、そうだね」

「ガラッシア令嬢も早く」


 オリアーナが若干引いてるように感じたけど、気のせいと言う事にしておこう。

 にしてもオリアーナの身体がそこまで丈夫とは考えづらい。ということは、この入れかえにあたって何かあったのだろうか。


「あ」

「チアキ?」

「いや、なんでもないよ」


 そういえば、オリアーナの身体になってから、やたら軽いなとは思っていたけど。

 彼女が体重軽すぎなんだろうと踏んでいたけど、まさか。


「まさかね……」

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